歌人であり批評家である著者が、25のテーマについての思索をつづったエッセイ集です。とりあげられているテーマは、老年・無為・思い出・女性・旅・都市・神などで、古今東西の文学作品などに触れつつも、批評ではなく著者自身の自由な所感が提出されています。
表題作になっている「無為について」では、山水画のなかの世界と著者自身の無為に過ごす時間をかさねつつ、書物を友として「無為をゆたかな閑暇にまで高めよう」とする著者自身の試みと、「それもまた妄執の一つであろう」という自覚が表明されています。
著者自身は「『学術文庫』版まえがき」で、「『無為について』は書画にいう若書きのたぐいで、いまのわが眼には恥かしい」と述べています。文体がやや大仰な印象はありますが、たとえば『徒然草を読む』(1986年、講談社学術文庫)や『この世この生―西行・良寛・明恵・道元』(1996年、新潮文庫)などの著者の評論に見られる考えが、もうすこし素朴なかたちで提出されています。著者の作品に触れたことのある読者には、大病を経て著者が明晰につかむことになる人生観に通じるものが、本書のなかにも息づいていることを認めるのではないかと思います。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
日本の小説・エッセイ
- 感想投稿日 : 2020年4月21日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2020年4月21日
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