シモーヌ・ヴェイユ選集 1―― 初期論集:哲学修業

  • みすず書房
5.00
  • (2)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 26
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622076605

作品紹介・あらすじ

アランの哲学授業に提出した自由作文に始まり、思考と事物、労働と権利、時間についての論考、文学論など「思考の鍛冶場」で精錬された24篇。全3巻の選集のトップを飾る、若き日の論文集。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 【グリム童話における六羽の白鳥の物語】

    ○自閉的な哲学とその効能
    ーわれわれはいつも行動しすぎる。たえず無秩序な行動のうちに自身を使い果たす。唯一の力と唯一の徳とは行動の抑制である。

    『生の短さについて(セネカ)』の後でこの文章に触れた。
    振り返って、多産性のある個体が後世に遺伝子を伝えられるというドーキンスの遺伝的幸福論?と、個人としての人生の幸福には深すぎる溝があることを、改めて思い知らされる。

    ヴェイユが例にあげたグリム童話の白鳥にかえられた兄たちの話。呪いをかけられたのは兄たちの方だけど、その呪いを解くための妹に課された試練(6年もの間喋ってはいけないし、笑ってもいけない)を考えると、試練そのものが妹にとっての呪いだったと言えないか。

    彼女にとっては多大なる自己犠牲ではあっても、自己実現ですらない。ヴェイユのように自己啓発的に読み解くこともできる。例えばホロコーストの被害者のような境遇にあっても、呪いを試練と化して、身体の置かれる状態に対して、魂の投影で乗り切るような。心頭を滅却すれば的理解をするのか。

    わたしはヴェイユとは違う読み方をした。妹は王妃になって三人の息子を王母に殺される。それを後の苦難で、運命だったと考える。息子が殺されたとき、彼女は犯人を捜してもよかった。息子が殺されたのだから、口にだして助けを求めてもよかった。自分の無実を叫んでもよかった。
    それをしたところで彼女が死刑を免れたかどうかは別だ。が、彼女は条件を守りつつ、下着を縫い遂げた。この部分だけが、物語において彼女を救い得た唯一の能動的行動だった。この点が最も重要だ。

    外的な運命、境遇が個人には用意される。他の誰だろうと、他のどのタイミングだろうと関係のない、あなただけのミッションが確実にある。

    そこに命題を据えてみるのも良いと思う。
    本来なら不在の筈の行動が、わたしたちを運命から遠ざけるのは言わずもがなだ。ましてや、あらかじめ行動が他者、企業、資本によって規定される構造の成立している現状ではなおさらだ。
    運命の轍から外れた人間に触れれば触れるほど、わたしたち自身も、自分の運命の轍から外れることになる。そこから外れた人間を上手に養分に変えるシステムが、こんなにも常態化している時代。
    「喋らない、笑わない(他者に共感しない生き方)」ことには、意味があると思う。(2023/12/12)

  • 敬愛するヴェイユ。16歳の時、アンリ四世校哲学準備級で師アランと出会った彼女は、そのままパリ高等師範学校にてアランの「思考の鍛冶場」で熱い鉄を打ち続け、そして精錬された初期24篇。撓うほどに強靭なドライヴのかかる思考、その意思、若き日の文体の純粋さと構成の緻密さ、秘めた他者への優しさ。34年間の短い生涯で、多岐にわたり思索し、病弱な自らの体を使いきったヴェイユ。長期間、就寝前の読書として傍に置いた本、しばらく本棚へ。

  • 全3巻かぁ、、、どうやって読む時間作ろうか?

    みすず書房のPR
    「16歳で入学した高等中学アンリ四世校の哲学準備級で、ヴェイユは師アランと出会う。アランの準備級で、学生は膨大な読書と、思考の修練たる文章修業を積みかさねた。アランをして「優秀なる生徒。輝かしい成功を確信する」と評価せしめたヴェイユは、その後も、パリ高等師範学校に在籍した数年にわたってアランに指導を請い、尊敬する師の思考法、哲学にとりくむ姿勢を、まさに工房における徒弟修業の基本である模倣をつうじて獲得していった。哲学と政治へひとしなみに向けられる情熱。プラトン、デカルト、カントへの愛。スタンダールへの傾倒……
    生涯をつうじて深化・熟成されたヴェイユの思索のプロセスに、確かな有機的連関・連続性を息づかせながら、若さに似合わぬ思考の強靱さと強固な意志、そして文体の純粋さと構成の緻密さをあますところなく示した、全24篇。 」

  • シモーヌ・ヴェイユの初期論集。書店で見つけて以来、読みたくてたまらないが、図書館の蔵書検索ではヒットしなかった。書店でパラパラとめくってみたところでは、これまでは伝記で断片的にしかお目にかかれなかった学校時代の作文・論文なども収録されているようだ。

    追記
    よく利用している県立図書館ではなく、新設図書館のほうからシリーズの本全てを借りて目を通した。春秋社『シモーヌ・ヴェーユ著作集』と重なる作品もあるが、この選集でしか読めない作品は貴重であるし、既に邦訳本のあった工場日記なども細かいところまで訳出、紹介されていて、新鮮な印象を受ける。1に収録された学校時代の論文から早くも窺える視野の広さ、表現の瑞々しさ、厳密さと奔放さの混じった考察の魅力は比類がない。

全4件中 1 - 4件を表示

著者プロフィール

(Simone Weil)
1909年、パリに生まれ、43年、英・アシュフォードで没する。ユダヤ系フランス人の哲学者・神秘家。アランに学び、高等師範学校卒業後、高等学校(リセ)の哲学教師として働く一方、労働運動に深く関与しその省察を著す。二度転任。34─35年、「個人的な研究休暇」と称した一女工として工場で働く「工場生活の経験」をする。三度目の転任。36年、スペイン市民戦争に参加し炊事場で火傷を負う。40─42年、マルセイユ滞在中に夥しい草稿を著す。42年、家族とともにニューヨークに渡るものの単独でロンドンに潜航。43年、「自由フランス」のための文書『根をもつこと』を執筆中に自室で倒れ、肺結核を併発。サナトリウムに入院するも十分な栄養をとらずに死去。47年、ギュスターヴ・ティボンによって11冊のノートから編纂された『重力と恩寵』がベストセラーになる。ヴェイユの魂に心酔したアルベール・カミュの編集により、49年からガリマール社の希望叢書として次々に著作が出版される。

「2011年 『前キリスト教的直観 甦るギリシア』 で使われていた紹介文から引用しています。」

シモーヌ・ヴェイユの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×