杉村三郎シリーズの第1作。読んだはず…なんだ。何せ本棚から取り出したのだから。ところが、ひとかけらも記憶に残っていなかった。というわけで、またまた楽しい読書ができた。もうけた、と思おう。
本を読む楽しみは、作家さんの視点から物事を眺められること。自分では持ち得なかった角度から切り取ってくれたり、見ていたはずの物事をより深く繊細に見せてくれたり。宮部さんはどちらかと言えば、後者の作家。些細な、本当に何気ない描写の積み重ねが、物語にページ以上の厚みを与えている。主人公は杉村だが、狂言回したる彼の印象はとても薄い。その分、彼を取り巻く人々が生きている。
不慮の事故で亡くなった義父の運転手、梶田信夫。杉村は義父に命じられ、亡くなった父の自伝を作りたいという姉妹を手助けすることに。小さな謎が謎を呼ぶ。正に宮部さんの真骨頂。物語のクライマックスは決して後味のよいものではなく、杉村に投げつけられた言葉は刃のような悪意を含んだ物だった。しかし、それだけでは終わらない。稀代のストーリーテラー宮部みゆきをご堪能あれ。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2021年6月16日
- 読了日 : 2021年6月16日
- 本棚登録日 : 2021年6月16日
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