カップルだったり夫婦だったり、収録作の登場人物たちは概ね異性と愛情のある交際をしているのですが、主題として描かれている「恋」は必ずしもその、わかりやすい二者関係のあいだにはない。
主人公カップルのあいだにある愛情がそのまま作品のテーマになっているのは「森を歩く」と「優雅な生活」くらいではないでしょうか。幸せな恋愛生活が描かれているのもこの二作くらいな気がする……あ、「春太の毎日」もものすごく幸せな話か。
一緒に暮らし性生活も含めて当たり前の日常を重ねていくことと、「恋」という狂気を孕んだ激しい感情はまったく別のもので、そしてそれは性別も、もしかしたら種族も関係なく生まれる感情なのだ、ということが全編をとおして語られている気がします。
こういうのが本当の「恋愛小説」だと思う。正真正銘の恋愛小説というものは、甘ったるいどころか、むしろ怖ろしいものだと思います。
私は「裏切らないこと」と「夜にあふれるもの」が好きです。
単行本で出た当初、冒頭の母親の行為に本気でドン引きして読めなかった「裏切らないこと」は、最後まで読んだら弟を持つ姉としてよくわかってしまった。「夜にあふれるもの」はこれこそが恋! という怖ろしく美しい物語だと思います。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
文学
- 感想投稿日 : 2012年4月25日
- 読了日 : 2012年3月10日
- 本棚登録日 : 2012年3月10日
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