ドン・キホーテ 前篇1 (岩波文庫 赤 721-1)

  • 岩波書店 (2001年1月16日発売)
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本棚登録 : 1311
感想 : 106
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知ってるつもりでちゃんと読んだことのない名作長編シリーズ、淳水堂さんにもおすすめされたことだし、『ドン・キホーテ』に挑戦します!たぶん小中学生の頃に子供むけ版を読んだと思うのだけど、記憶はおぼろ。『ほら吹き男爵』と混同してる可能性もあり。読み始めて早速気づいた記憶違い、なんとロシナンテが馬だったこと!なぜか私、ロシナンテをロバだと勘違いしてました(笑)たぶん従者のサンチョ・パンサが乗ってるほうのロバとごっちゃになってたんだろうな。ドン・キホーテが乗っているのは貧相だけれど一応馬でした。

さて、ドン・キホーテ、もともとはラ・マンチャ地方のいち郷士でしたが、騎士道小説が大好きなあまり妄想が爆発、狂気を発して自分を遍歴の騎士と思い込み、骨董品の甲冑やお手製の兜を身に着けて旅立ちます。前篇の出版は1605年で、当時すでに「騎士」というものは前世紀の遺物扱い。日本でいうなら幕末から100年以上経った現代に、チャンバラドラマが好きすぎてチョンマゲを結い、「拙者は侍でござる!武士道を極めるための旅に出るでござる!」と言い出すような感じかしら。

さて、風車を巨人と思い込んで斬りかかる有名なエピソードは結構序盤で、あとで思うと相手が風車なら自分が怪我するだけで済むからまあ良いほう。その後のドン・キホーテは、ただの通りすがりの善良な人々に、妄想から勝手な言いがかりをつけ絡みまくる。基本的には、みなドン・キホーテのことを即座に「頭のおかしいおっさん」と察知し、さっさと回避する、話を合わせてやりすごす、ちょっとおもしろがるなどして大事には至らないのだけれど、この狂気を真に受けて反論したり、からかいすぎて怒らせたりすると決闘騒ぎになってしまう。

絡んだドン・キホーテ自身がコテンパンにされる分にはまあご自由に、という感じなのだけれど、ごくまれにまぐれ勝ちしてしまい相手に怪我を負わせたりしているので、これは絡まれたほうはたまったもんじゃないなと(^_^;) そしてドン・キホーテも従者のサンチョも、本当にコテンパンにされてしまうので(あばらが折れたとか具体的な描写もあり)意外と暴力が過剰なことにビックリ。とはいえ、翌朝には二人ともピンピンしてるので、イメージとしては昭和のギャグマンガみたいな感じかな。どんなにボコボコにされてても、読者はあまり深刻に受け止めて心を痛めたりしないほうがいいのでしょう。

従者のサンチョ・パンサは、一見愚かなようで、主人ドン・キホーテの奇矯な言動に冷静なツッコミを入れたり、格言を用いて主君を諭すような場面も多々あり、それでいてドン・キホーテの妄言のうち自分にとっても都合のよい部分(伯爵にしてやるとか島主にしてやるとか)は鵜呑みにする単純さもあり、利口なのかおバカなのかよくわからないとても面白いキャラクター。ドン・キホーテの妄想に困らされて気の毒な反面、主人のドン・キホーテにゲロを吐きかけたり、足にしがみついたまま脱糞したり、失敬な行動も多々あり(笑)しかし読者の視点としては一番共感しやすい人物は彼でしょう。主従の凸凹珍道中は、ちょっと弥次喜多味もあり。

この1冊目で好きだったのはまず焚書の場面。ドン・キホーテが狂気を発したのは騎士道小説を読み耽りすぎたせいということで、ドン・キホーテの姪と家政婦、友人の司祭と床屋が集まり、ドン・キホーテの本を勝手に仕分けし処分するエピソード。これおそらくセルバンテス自身の蔵書を間接的に披露することになってるんじゃないかしら(笑)タイトルを読み上げ、その本に罪があるかないか司祭が判決をくだす。このくだりで紹介されたなかに『ティランテ・エル・ブランコ(ティラン・ロ・ブラン)』もあり。

あと好きだったのは羊飼いの娘マルセーラちゃん。美女すぎて惚れる男が後を絶たず、しかし彼女自身は恋愛に興味なく誰にも靡かない。だが一方的に恋慕、思い詰めたあげく死んじゃう若者もいたりして、ドン・キホーテは偶々その青年の葬儀の場に同席することに。そこへ当のマルセーラが現れ一席ぶつのだけれど、その姿がとてもすがすがしくてかっこいい。自分は思わせぶりな態度なんかとったことないし、常に拒絶しかしてない、身持ちの良さをキープしてるのだから、勝手に外見だけで好きになってつきまとってくる手合いに文句言われる筋合いはない!と堂々宣言。拍手喝采したい気持ちになりました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  ★南米・スペイン 他
感想投稿日 : 2023年10月5日
読了日 : 2023年10月1日
本棚登録日 : 2023年9月24日

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コメント 2件

淳水堂さんのコメント
2023/10/07

きゃあきゃあ(*´艸`*) yamaitsuさん来たーーー

『なんとロシナンテが馬だった』
はい、これは私も思いました!
このイメージって「進め電波少年 海外ヒッチハイク」でお笑い芸人の旅のお友達が「ドン・キホーテから命名した驢馬のロシナンテ」だったこともあるんじゃないかと思っています(yamaitsuさん同年代だと思うので、このネタわかりますよね!?)

『読者はあまり深刻に受け止めて心を痛めたりしない』
私は子供の頃に児童書で読んだ時は「老人や子供がボコボコにされて面白くない(☓。☓)」だったのですが、改めて読んでみると周りにご迷惑かけながらコスプレ旅が成り立っているんだから、大人が痛い目見る文には読者は気にしなくて良いんだろうなと思えました。…子供が折檻されるのはやっぱり嫌ですが…

そして羊飼いの娘マルセーラちゃんは格好いいですよね!
「そうよ私は美女よ、私は美女として自分らしく生きているのに勝手に私に恋して勝手に死んだからって私は知らないわよ。私はこれからも私らしく生きていくわ!」って喝采だわ。
この時代にこれだけはっきりした女性を書けるセルバンテスもすごいなあと。

yamaitsuさんのコメント
2023/10/08

淳水堂さん、こんにちは!(^^)!
ついに私もドン・キホーテに参戦です(笑)
ロシナンテ!そうだ、電波少年!!!
あれのせいだったんですね、ロシナンテ=ロバの刷り込み!
ただの思い込みじゃなくて原因があったのだな、スッキリしました(笑)

それにしてもほんと色んな人がボコボコにされすぎなことにビックリしました。シリアスな作品だったらこれ死んでますよね(^_^;) ギャグマンガだと思って読まないと、暴力沙汰多すぎて全然笑えないっす。とはいえやはり淳水堂さんもおっしゃるように、相手が子供となるとどうしても嫌悪感わいちゃいますよねー。

今2冊目読んでますが、あの少年がちゃんとドン・キホーテに文句言いに来てくれてちょっとスッキリしましたが…。

マルセーラちゃんにはスタンディングオベーション!あの時代の女性像としては革新的だったのではないでしょうか。ある意味ルッキズムへの批判(美女というだけで中身も知らないくせに!)みたいにも取れますし。

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