知ってるつもりでちゃんと読んだことのない名作長編シリーズ、淳水堂さんにもおすすめされたことだし、『ドン・キホーテ』に挑戦します!たぶん小中学生の頃に子供むけ版を読んだと思うのだけど、記憶はおぼろ。『ほら吹き男爵』と混同してる可能性もあり。読み始めて早速気づいた記憶違い、なんとロシナンテが馬だったこと!なぜか私、ロシナンテをロバだと勘違いしてました(笑)たぶん従者のサンチョ・パンサが乗ってるほうのロバとごっちゃになってたんだろうな。ドン・キホーテが乗っているのは貧相だけれど一応馬でした。
さて、ドン・キホーテ、もともとはラ・マンチャ地方のいち郷士でしたが、騎士道小説が大好きなあまり妄想が爆発、狂気を発して自分を遍歴の騎士と思い込み、骨董品の甲冑やお手製の兜を身に着けて旅立ちます。前篇の出版は1605年で、当時すでに「騎士」というものは前世紀の遺物扱い。日本でいうなら幕末から100年以上経った現代に、チャンバラドラマが好きすぎてチョンマゲを結い、「拙者は侍でござる!武士道を極めるための旅に出るでござる!」と言い出すような感じかしら。
さて、風車を巨人と思い込んで斬りかかる有名なエピソードは結構序盤で、あとで思うと相手が風車なら自分が怪我するだけで済むからまあ良いほう。その後のドン・キホーテは、ただの通りすがりの善良な人々に、妄想から勝手な言いがかりをつけ絡みまくる。基本的には、みなドン・キホーテのことを即座に「頭のおかしいおっさん」と察知し、さっさと回避する、話を合わせてやりすごす、ちょっとおもしろがるなどして大事には至らないのだけれど、この狂気を真に受けて反論したり、からかいすぎて怒らせたりすると決闘騒ぎになってしまう。
絡んだドン・キホーテ自身がコテンパンにされる分にはまあご自由に、という感じなのだけれど、ごくまれにまぐれ勝ちしてしまい相手に怪我を負わせたりしているので、これは絡まれたほうはたまったもんじゃないなと(^_^;) そしてドン・キホーテも従者のサンチョも、本当にコテンパンにされてしまうので(あばらが折れたとか具体的な描写もあり)意外と暴力が過剰なことにビックリ。とはいえ、翌朝には二人ともピンピンしてるので、イメージとしては昭和のギャグマンガみたいな感じかな。どんなにボコボコにされてても、読者はあまり深刻に受け止めて心を痛めたりしないほうがいいのでしょう。
従者のサンチョ・パンサは、一見愚かなようで、主人ドン・キホーテの奇矯な言動に冷静なツッコミを入れたり、格言を用いて主君を諭すような場面も多々あり、それでいてドン・キホーテの妄言のうち自分にとっても都合のよい部分(伯爵にしてやるとか島主にしてやるとか)は鵜呑みにする単純さもあり、利口なのかおバカなのかよくわからないとても面白いキャラクター。ドン・キホーテの妄想に困らされて気の毒な反面、主人のドン・キホーテにゲロを吐きかけたり、足にしがみついたまま脱糞したり、失敬な行動も多々あり(笑)しかし読者の視点としては一番共感しやすい人物は彼でしょう。主従の凸凹珍道中は、ちょっと弥次喜多味もあり。
この1冊目で好きだったのはまず焚書の場面。ドン・キホーテが狂気を発したのは騎士道小説を読み耽りすぎたせいということで、ドン・キホーテの姪と家政婦、友人の司祭と床屋が集まり、ドン・キホーテの本を勝手に仕分けし処分するエピソード。これおそらくセルバンテス自身の蔵書を間接的に披露することになってるんじゃないかしら(笑)タイトルを読み上げ、その本に罪があるかないか司祭が判決をくだす。このくだりで紹介されたなかに『ティランテ・エル・ブランコ(ティラン・ロ・ブラン)』もあり。
あと好きだったのは羊飼いの娘マルセーラちゃん。美女すぎて惚れる男が後を絶たず、しかし彼女自身は恋愛に興味なく誰にも靡かない。だが一方的に恋慕、思い詰めたあげく死んじゃう若者もいたりして、ドン・キホーテは偶々その青年の葬儀の場に同席することに。そこへ当のマルセーラが現れ一席ぶつのだけれど、その姿がとてもすがすがしくてかっこいい。自分は思わせぶりな態度なんかとったことないし、常に拒絶しかしてない、身持ちの良さをキープしてるのだから、勝手に外見だけで好きになってつきまとってくる手合いに文句言われる筋合いはない!と堂々宣言。拍手喝采したい気持ちになりました。
- 感想投稿日 : 2023年10月5日
- 読了日 : 2023年10月1日
- 本棚登録日 : 2023年9月24日
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