ドン・キホーテ 後篇3 (岩波文庫 赤 721-6)

  • 岩波書店 (2001年3月16日発売)
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感想 : 27
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引き続き、公爵邸のドン・キホーテと、島(領地)のサンチョ・パンサの別行動が続きます。ドン・キホーテのほうは、娘をもてあそんだ男が娘と結婚するよう説得してほしいという老女の話を受けて(これはドッキリではなく実話)件の男と決闘することに。ドン・キホーテが勝てば結婚、負ければ無罪放免。しかしその男はとっくにトンズラしていたので、ここで公爵夫妻が介入、自分たちの従者をニセモノの決闘相手に仕立て上げ、ドン・キホーテと対決するよう画策。しかし適当に戦って負けるよう指示されていたこのニセモノが、件の娘さんに一目惚れ、不戦敗を宣言(笑)公爵夫妻と観客たちはガッカリするが、ドン・キホーテは無傷で勝利、娘さんもこのニセモノが気に入り一応丸く収まる。

公爵夫人はサンチョの故郷の妻子のもとに手紙と贈り物を届けさせる。そのころサンチョ・パンサはなかなか頑張って島の統治を続けていたけれど、公爵たちにサンチョを困らせるよう指示されている侍医が健康のためと称して満足にご飯を食べさせてくれないのでいつもお腹が減っている。ついに耐え切れなくなったサンチョは領主の座を辞任、ドン・キホーテのもとに戻ることに。しかしあと少しで到着というところで穴に落下、助けを求めて叫ぶサンチョは、翌朝偶然通りがかったドン・キホーテに救出され、主従は再会する。

主従は再び遍歴の旅に出立。途中の旅籠でドン・キホーテの続編(偽物)の話をする紳士たちに出会ってドン・キホーテがその嘘を暴く場面などはセルバンテス自身の気持ちを代弁した形。ここのみならず、後篇は全編通してこの贋作騒動の影響下で書かれており、セルバンテスは贋作者への意趣返し的な発言を登場人物に何度かさせている。そのおかげで余計にメタ構成になってて、それはそれで面白い。

その旅籠を出立して林で一夜を明かすことになった主従、ここで突然ドン・キホーテは、ドゥルシネーア姫にかけられた魔法を解くためにサンチョのお尻を鞭打ち3300回しなくてはならないことを思い出し、寝ているサンチョのズボンを下ろそうと襲い掛かる(笑)しかしサンチョは反撃、なんとドン・キホーテよりサンチョのほうが強い(笑)ドン・キホーテは確かにサンチョの主だけど、サンチョいわく「自分の主は自分だけ」すごい、カッコイイ!!ドン・キホーテは泣く泣くサンチョの鞭打ちを諦めました。

そうこうしていると、盗賊が現れて二人を囲んでしまう。しかし盗賊の首領ロケ(※実在の人物らしい)は、賊にしておくのは勿体ないような人格者、ドン・キホーテの伝記を読んでいたので二人を丁重にもてなし、数日行動をともにしたあと、バルセロナの友達を紹介してくれる。

バルセロナに到着したドン・キホーテ主従を盗賊ロケの友人ドン・アントニオがもてなしてくれる。でもこの人物も公爵夫妻と同じくドン・キホーテの伝記を読んでおり、本物のドン・キホーテをからかって愚弄して楽しもうという魂胆。「質問に答えてくれる魔法の青銅の胸像」の仕掛けを作り、ドン・キホーテをからかって楽しんだりする。

ある日主従は、ガレー船見物に乗り込ませてもらうが、偶然にもその船が海賊を捕縛。しかし捕らわれた首領である男装の美しいモーロ人女性フェリスが、こうなるに至った数奇な出来事を語る。ものすごく端折ると、引き離された美男子の恋人ドン・グレゴリオを救出してほしいという話になる。ドン・キホーテはもちろん自ら行きたがるが、これ仕込みではなくガチの話なので救出には他の人たちがむかい、ドン・キホーテは残留。

そうこうしてるとドン・キホーテのもとに「銀月の騎士」と名乗る騎士が現れて戦いを挑んできた。さんざんドン・キホーテをからかってきたドン・アントニオにもそんな悪戯を仕掛けた心当たりがなく、でも面白そうだから二人を戦わせることに。銀月の騎士の要求は、もしドン・キホーテが負けたら故郷に戻り1年間謹慎すること。賢明な読者はここでピンと来ますよね、案の定、銀月の騎士の正体は、以前も同じ戦略を用いたサンソン・カラスコ。前回は敗北しましたが、なんと今回は見事カラスコが勝利、ドン・キホーテは敗北します。

負けた以上、騎士に二言はない。失意のドン・キホーテは、サンチョを連れて故郷への道を戻ることに。しかしその帰路でまたしても公爵夫妻が二人に悪戯を仕掛けるため拉致、ドン・キホーテに恋しているふりをしていた侍女アルティシドーラが恋煩いの末死んだことにし、彼女を甦らせるためにはサンチョが使用人全員から、しっぺされ、つねられ、ピンで刺されなくてはならないとする。サンチョは渋々受け入れ酷い目にあい、アルティシドーラは生き返る。

そうしてようやく故郷に帰り着いた主従。1年間羊飼いにでもなって楽しく暮らそうと話していたが、騎士として遍歴する生きがいを奪われたドン・キホーテは意気消沈するあまり熱病にかかり、死期を目前にして正気に返る。元気になってまた旅に出ようというサンチョの励ましもむなしく、ドン・キホーテはもとのアロンソ・キハーノに戻り、遺言を残して亡くなってしまったのだった。

正直、後篇ほとんどドン・キホーテは活躍しなくて寂しかった。自身の妄想や思い込みよりも、他者の嘘に踊らされることのほうが多く、サンチョの活躍・見せ場のほうが印象に残った。ドッキリの類いが嫌いで、あれはイジリと称したイジメの典型だと思っているのだけれど、ゆえに公爵夫妻やドン・アントニオらがドン・キホーテに仕掛ける悪戯が個人的にはとても不愉快で笑えなかったのが辛い。基本ドタバタコメディだと思うし、真面目に受け止めなくていいのだろうけどさ。

そんな中、終盤で「人を愚弄する者たちも、愚弄される者たちと同じく狂気にとらわれていると思う、現に、公爵夫妻は一対のばか者をからかい、もてあそぶのにあれほどまでの熱意を示しているのであってみれば、彼ら自身、ばか者と思われるところからほんの指幅二つと離れてはいないのだ(P352)」という記述には、なるほど、と溜飲が下がった。確かに、狂人をからかうことを娯楽とし、それに熱意と時間とお金をついやす公爵夫人の言動もまた狂気の沙汰。どちらが愚かかと言われれば、むしろドン・キホーテ主従より彼らのほうがレベルが低い。

ラスト、読者としては、ドン・キホーテを思い込みでもいいから騎士として誇りを持って死なせてあげたかったと思ってしまうけれど、ここで現実をつきつけるのもセルバンテスの皮肉なのだろうなあ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  ★南米・スペイン 他
感想投稿日 : 2023年11月7日
読了日 : 2023年11月7日
本棚登録日 : 2023年10月21日

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コメント 2件

淳水堂さんのコメント
2023/11/10

yamaitsuさん 読み終わりましたね!
全6巻ですが案外スラスラ読めましたよね。
yamaitsuさんも言う通り、後編はドン・キホーテの妄想力は薄れているし、あまり役に立たないし、公爵夫妻やカラスコ博士や街の人に妄想をからかわれちゃうし、ドン・キホーテの力が弱まってしまった気がします。
前編では「ドン・キホーテ以外の話ばかりじゃないか!」と思っていたのに、後編でドン・キホーテのことばかりだと「他の人の話も知りたい」と思ってしまうこの勝手さw

話としては、セルバンテスによる前編のミスの言い訳とか、贋作への意趣返しとか色々詰まっていて面白かったんですけどね。

yamaitsuさんのコメント
2023/11/11

淳水堂さん、やっと読み終わりました~!(^^)!
400年前に書かれて今も読み継がれている物語は、シンプルに面白いんですよね。6冊あっという間でした。

ただ、読む前に自分が想像してたドン・キホーテは、水車に斬りかかるエピソードに代表されるような、妄想で破天荒なことはするけど誰も傷つけず、最後まで楽しく冒険をするイメージだったので、いろんな意味で想像していたのとは違う物語ではありました(^_^;)もちろんこれはこれで面白かったのですが、意外と皮肉だったり人生の哀感があったり、なんというか、大人むけでしたね。

サンソン・カラスコは、最初は余計なことしてウザいやつだなと思ってたんですけど、公爵夫妻のようにドン・キホーテを騙して愚弄する人たちよりはよっぽどまともなような気も一瞬したのですが…でもドン・キホーテを正気に戻すのは、やっぱり余計なお世話ですし、誰も幸せになりませんでしたね…。

淳水堂さんの感想に書かれてた「ラ・マンチャの男」のラスト、いいですね!ドン・キホーテには自分を騎士だと信じたまま死なせてあげたかった…。

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