倒立する塔の殺人 (ミステリーYA!)

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本棚登録 : 639
レビュー : 129
著者 :
yamatoriさん 皆川博子   読み終わった 

イラストややミステリYA! ということで若者を意識してた作品なのだろうけど、皆川作品なので大人でも楽しめる。戦時下から戦後の女子高が舞台とあって、時代や少女ならではの残酷さがピリッと効いたラストが印象的。そして日本の近現代ということで、名前に惑わされる苦痛がなくて読みやすいぞ。

あらすじ:
太平洋戦争末期、都立女子高と近隣のミッションスクールでは学徒動員により授業が停止し軍需工場となった学校で作業をしていた。労働者階級の家に育ち上流階級の子女が多い学校になじめない、異分子なのでイブまたは何を考えているか解らないためヌーベーことベー様とあだ名された阿部欣子は家族と家を失い、組んで作業をしている三輪小枝(さえだ)の家へ居候することに。ある日小枝に渡された一冊の本「倒立する塔の殺人」。これを読むことで小枝と交流のあったミッションスクールのお姉さま律子失踪の謎を解いて欲しいと頼む。その本はミッションスクールを舞台にした手書きの推理小説だった。小枝、ミッションスクールの律子と杏子、さらに律子に憧れるジダラックこと設楽久仁子。この四人が紡ぎだした物語の真相は――。

戦時下の描写が欣子視点で淡々と述べられていくにつけて、強烈な現実感があった。
昨日まで一緒に働いていたクラスメイトが、翌日には疎開していなくなる、クラスメイトの家族が空襲で亡くなった、自分の家が空爆によって破壊された、父親が戦地で死亡した、学校の半分に爆弾が落ちた……。淡々と語られているからこそ、特別じゃない。この時代の人々が日々こういう現実に直面しているというのが伝わった。暗澹たる戦時下の雰囲気にリアル感があって、ドラマチックに語られるよりも痛い。これは皆川さんによって書かれているからこそっていうのは大きい。彼女自身が生き抜いてきた世界だもの。
一方、どこの時代でも変わらないような学生社会はこういう時代の中でも、逞しく生きている少女がいることを教えてくれてほっとした。
ミッションスクールの律子と杏子、都立女子高の小枝の絵画や小説談話、ダンスに興じる描写は戦時下とは思えないほど優雅。がっちりした体形で、労働者階級の娘、欣子の異分子のイブやベー様、いやらしい教師、下卑たタコのゲビダコ、ちょっと思い込みが強いミッションスクールの少女、設楽久仁子の自堕落ことジダラックといったあだ名がささやかれる直截的で残酷な風習は時代を超えて存在する。「ごきげんよう」なんて微笑を交わす少女たちが登場しても、文学や絵画の薀蓄を語る少女が登場しても、考えていることは大差ないなと共感できた。それになんだかあだ名が「ぷ」と噴出してしまいそうなものばかりで楽しい。ここらへんに皆川さんの諧謔味が少し見られる。

欣子の体型や冷静でしっかりとした考え方は、だからこそ流されず安定感があって、なかなか安心感があった。しかしやはり戦時下を生きた少女とあって、その冷静さはある場面では怖いほどだった。さらに似た境遇にある久仁子もそのある種の冷徹さを抱いている。
お嬢様の小枝にはない、鋭さ。
久仁子はともかく欣子ならどんな困難でも立ち向かえるだろうね。

一方「倒立する塔」という謎の回答はなるほどと思ったけれど、きつねにでも騙された気分かも。まあ美しくしかし毒を隠し持った世界観にはぴったりかも。トリック自体ではなく、作中に登場するリレー小説たる「倒立する塔の殺人」と律子や杏子、小枝の過去、さらに律子失踪後の作中の「現在」たる欣子たちの話が絡まり合っていくのは職人技としか言いようがない。さすが皆川博子!

しかし女子高の描写には思わず笑ってしまった。
エスことシスターという特別親しい先輩に導いてもらう制度があるんだって。なんだかどこかのライトノベルみたいじゃない。それに皆川作品特有の、悪趣味で劣悪な環境描写や性描写が少ない。ここらへんが非常に少女小説的で、YA! を意識しているだろうね。

レビュー投稿日
2013年5月25日
読了日
2013年4月9日
本棚登録日
2013年4月9日
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