武田信玄の天才軍師、山本勘助が主人公
勘助が信玄に仕える場面〜川中島の合戦の途中(途中な理由は読めばわかります)までの歴史物語
勘助の成りは異形が理由で今川義元に召し抱えようとされなかったほど…
色黒で背が低く眼はすがめでちんば、指も1本ない
知恵だけが彼の人生を支えた
永く浪人だったがその知恵を活かし、武田晴信(信玄)の仕官となる
晴信はそんな異形の勘助を気に入る
常に孤独で人から疎まれてきた勘助
勘助自身も人を人とも思わない非人情な男だった
しかし自分を召し抱えてくれた晴信だけはこの世で唯一好感を持った
いつしか晴信のためなれ命も惜しくないと思うように…
晴信もまた、勘助に信頼を寄せ、周りからどれだけ非難されようとも彼の能力をかっていた
勘助の印象が読み進めるうちにどんどん変わっていく
皆に嫌われ、人と関わらないよう暮らしながらも、生きるためなら人を踏み台にしても平気だったまるで害虫のように生きていた勘助が、いつの間にか策士、軍師となり、晴信に信頼されなくてはならない人物に
そして晴信と由布姫を愛しみ、二人の子である勝頼の初陣を夢見る人物へと静かに変貌を遂げる
途中から勘助ジジイがめちゃくちゃ格好いいキレ者になるのだ!光る!眩しいっ!
その反面、滑稽な人間臭さも溢れ出す
由布姫の気高さに圧倒され、すぐ言いなりになっちゃうし、由布姫のために斬ろうとした於琴姫の立派な態度と人柄にほだされて、お守りします!なーんて言っちゃうし…
晴信の出来心のせいで振り回されてるのに晴信を憎めないし…
あんなに人嫌いだったのが嘘のように皆んなを愛してしまって右往左往してしまう勘助ジジイが何だか可愛らしい
井上靖の手にかかると各人物に磨きがかかるのか非常にそれぞれが魅力的である
晴信(信玄)も想像以上に柔らかくキレものながらに温かい人物像であった
由布姫は最高にいい女だ
己の運命を受け止めつつも最後まで気高く自分を曲げない
そしてもちろん軍記物らしさも満載である
戦略や合戦は読んでいて鳥肌が立ってしまう
合戦場面も簡潔にし過ぎると迫力に欠ける、そして深追いし過ぎると読み手に緊張感がなくなる
本書は大小様々の合戦描写があるが、この匙加減も見事であった
そう一言で陳腐に言うと単に面白いのです!
やっぱり井上靖って凄いなぁ
押し付けがましくなく、変な小細工なく、自然体で引き算がうまい
何より最高に居心地が良い
静かな興奮がたまらない!
まだ「天平の甍」しか読んでいないが、こちらを読んだ時に間違いなく好きなタイプの作家だと大喜びしたものだ
2冊目読んだときに印象が変わったら…と不安だったが、まったく良い意味で期待外れ
好みの作家に出会えた人生の喜びを噛み締めております
まだまだたくさん読む作品があるので楽しみである
- 感想投稿日 : 2022年6月4日
- 読了日 : 2022年6月4日
- 本棚登録日 : 2022年5月30日
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