チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1982年9月28日発売)
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確か10年以上前、塩野氏の「ローマ人の物語」1巻途中で挫折しており、苦手な意識が植えついてしまい、ついつい避けてきてしまった
でもイタリアは好きだし、イタリアの歴史をもう少し知りたい(しかし歴史の教科書のような本を読むのも面白くない…)
というわけで、塩野氏へいざ再チャレンジ!

15世紀末、当初のイタリアは今のように国家が出来上がっておらず、ナポリ王国、フィレンツェ共和国、ヴェネツィア共和国…というような小国家が群生している状態であった
誰も「イタリア」と言葉にしないような時代に、統一国家を目指そうと野心あふれる一人の男
それがチェーザレ・ボルジアである
父が法王であり、その父がチェーザレをバレンシア大司教に抜擢、さらにバレンシア枢機卿へ任命…こんな感じでボルジア家の継承者へという思惑があったのだが…
ある時期になると彼は枢機卿を返上し、大司教の職を捨て、俗界に降りることを決意
そこまでしてなし得たかったことは自分の力で統一国家をつくり上げることだ
父である法王の教会勢力を操り、政略結婚によって得たフランス王の援助をとりつけ、目的のためなら手段を選ばず、たとえ身内を手にかけても己の野心を全うする
誰もがチェーザレの残虐さとしたたかさと強大な野心に恐れを抱くようになる
そしてついに反逆が始まるのだが…
どれだけ孤独になろうとも彼の野心は衰えを知らない
が、勢いだけでもない
忍耐強くしぶとく、そして裏切りは決して忘れず許さない
どれだけ時間をかけ待ったとしてもやると決めたことはやり抜くのだ
そしてあらゆる決断を一人で下す
誰の助言も必要としない
どんな作戦かも、今からの行動さえも家臣に語らない…
織田信長みたいである
孤独でただ戦うことと己の野心のみで生きたチェーザレ
話をすることはなくても立ち止まることはない…
ルネサンス期を生き急ぐように駆け抜けた!
(本当に飛ぶが如く、いつもいつも奔走している)
そして31歳という若さで命をおとす

チェーザレに関わった偉大な歴史的人物として2人が登場
■レオナルドダヴィンチ
チェーザレはダヴィンチに国土計画を依頼した
この書では似たもの同士が良い相乗効果で…とあるが、以前読んだウォルターアイザックソンの「レオナルド・ダ・ヴィンチ」を思い出す
レオナルドはチェーザレに仕えるものの結局チェーザレの残虐さに嫌気を指すとあった
レオナルドは20年以上も軍事技術者になることを夢見てきたのだが、平和主義思想で不和や戦闘はごめんだと言っているのに、武術に興味がある…という葛藤があったようである

■マキャヴェリ
マキャヴェリは曰く
「チェーザレ・ボルジアは、残酷な人物とみられていた。しかし、この彼の残酷さがロマーニャの秩序を回復し、この地方を統一し、平和と忠誠を守らせる結果となったのである。」(メディチ家に献言するために執筆した「君主論」による)
本書ではチェーザレはもちろん他人に一切心の内を見せることはなかったようであるが、それなりにマキャヴェリを気に入っていたようである


チェーザレのセリフがほとんどなく、
そのためチェーザレの心境を読み取る…という小説のようにはいかない
実際記録が少なかったようで、ある意味史実に忠実な描写ともいえるのかもしれない
しかしそれでもチェーザレの強い意志と颯爽とした様子は勢いよく伝わり圧巻ではあった
地名や職業的地位、人物が混乱するほど多く出てくるため、これはまたもや挫折か…と途中で焦ったが、今回こそは1冊なんだから!と混乱しそうな部分はメモを取りつつ進めた(この時代のイタリア史の知識が豊富ではない限り、理解して読み切るのはなかなか大変である)

やはりどうも相性が宜しくないようで…
楽しめたかというと微妙である
うーん何故だろうか…
それでもチェーザレの人生とこの時代のイタリアに触れられたことはなかなかの経験だ

刃の薄く鋭いナイフが何度もビュッと耳元で鳴っているような気がした

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年8月24日
読了日 : 2021年8月23日
本棚登録日 : 2021年8月23日

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