壮大な物語と緻密な心理描写。なにより、日本語の美しさを感じる。「ある男」で感じた言い得て妙というか、細かな機微を言葉にする力を、また違った形で感じられる。平野さんの丁寧な言葉たちが、ともするとどこまでもひろがっていってしまいそうなストーリーをきれいにひとまとまりにおさめている。
分人主義というものを理解するためには必読の一冊で、もとより社会のなかで、家族といるときや友達といるときや先生に対してなど、様々な顔をして生活している我々は、現代においてネット世界の深化によりさらにその顔を複雑に入り乱れて所有し、使い分けることとなった。それこそ家族で幸せそうにターキーを囲むときにも自分の子どもに自分の知らぬ分人が潜んでいるような状況だ。
物語の終盤にはそのたくさんの分人を内に所有することに対して、ひとりの人間という姿を取り上げられるが、間違いなくこれがこの物語の救いであり、そして壮大で不穏な様々な分人が入り乱れるこの物語のひとつのゴールなのだと思う。
平野さんは2作目だったが、幸せな読書体験だった。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2022年2月11日
- 読了日 : 2022年2月11日
- 本棚登録日 : 2022年2月11日
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