ボクはやっと認知症のことがわかった 自らも認知症になった専門医が、日本人に伝えたい遺言
- KADOKAWA (2019年12月27日発売)
ただ「支えられる人」にして、認知症の人からすべての役割を、奪いとらないこと。
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著者である精神科医・長谷川和夫さんは、認知症の検査スケール「長谷川式簡易知能評価スケール(長谷川式スケール)」を開発された人です。
長谷川さんは2017年に、ご自身が認知症であることを、公表されました。
今回の著書「ボクはやっと認知症のことがわかった」は、長谷川さんが認知症になってみて実感したことを中心に書かれた1冊です。
認知症についての定義や長谷川式スケール開発の背景、認知症の歴史もやさしくわかりやすく書かれており、それとともに長谷川さんがどんな医師人生を歩まれてきたのかも、織りこまれています。
この本は、「認知症になったら、こうやって暮らしなさい」という指示書や技術書ではありません。
むしろ、技術や指示にとらわれて見えなくなってしまう、本当にたいせつなことについて、書かれている本だと思います。
「そもそも認知症になったからといって、突然、人が変わるわけではありません。昨日まで生きてきた続きの自分がそこにいます。」(5ページ)
「その人との接し方を、それまでと同じようにすることです。それまでと同じというのは、自分と同じ『人』であるということを、第一に考えるということです。」(44ページ)
「下手に手を貸さず、しかも貸しすぎない。時間をかけて十分に待つ。自主性を尊重しつつ、さあ、前に向かって進んでみようと誘ってみる。」(80ページ)
「認知症の人を、ただ『支えられる人』にして、すべての役割を奪わないということも心がけていきたい。」(72ページ)
認知症という経験を経て、著者が“生きる”上で大事だなと感じていることが、この本のなかにはたくさんつまっています。
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原因疾患による認知症は治療法があるものの、そうではない認知症においては、「診断はできても、それ以上やれることがない。」(168ページ)という状況は、医師にとって大変つらく、無力を感じる状況ではないでしょうか。
しかし認知症を“治療”という目で見るのではなく、著者の言うように「暮らしの障害」としてとらえていけば、治療はできなくても、できることはまだまだたくさんあります。
認知症は、生きていく上でのひとつの変化に過ぎません。
なにが起こったとしても、その人が名前をもったひとりの人として生きていることは、変わらないのです。
だからまずは認知症の人、という診断名の呼び方をやめて、○○さんと、その人の名前を呼ぶこと。
そこからなのだと、思います。
- 感想投稿日 : 2020年9月25日
- 読了日 : 2020年9月25日
- 本棚登録日 : 2020年9月25日
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