美しい文章のお手本のような作品と思いました。
私はこれまで恋愛モノと分類される小説にとりわけ興味がなく、縁遠いジャンルの一つであると決め込んできました。
ほとんど、無知の私が語るのはおこがましいのですが、物語はシンプルで、芸術(音楽、詩)を中心に、大自然あり、過去の恋愛あり、病あり、ライバルあり、海外への進出話ありと、概ねスタンダードな部類に入るのではないかと思います。
少々冗長にキャラクタが配置されているような趣も感じましたが、ドラマや映画などなんらかの映像化がなされた際には効果的かと思います。
相対して、文章の美しさは比類なきといった印象です。
表現の精密さ繊細さが際立ち、表現も台詞(科白?)まわしも巧みで、文章の淀みがなく「流れるように読める文章」とはまさにこのことだろうと思いました。
表現が「洒落ている」とでもいうのでしょうか?楽器職人の話であることも影響してか、芸術的でありちょっぴり気障でもあり、かといって鼻につくわけでもない。ところどころ内容は重くとも心地よい感覚は不思議です。
感想とは無関係ですが、「ベランダ」ではなく「ヴェランダ」とはなにかこだわりがあるのでしょうか・・・。
長い文章の間にさりげなく挟まれるとても短い一文は、言葉選びが絶妙で「職人技」とはこのようなものではないかと思います。
暁子が話し、行動するたびに自己を省みる心理描写は、繊細であると同時に聡明さも感じさせられます。感情的な言葉と論理的な分析が相まって人の心理の複雑さを上手に表現しているように思いました。
恋愛小説読了という滅多にない機会の一つがこの作品であったことが嬉しい限りですが、恋愛小説全体(いや、ジャンルを問わず小説全体)のハードルが上がった感覚は否めず、次に読む作品は余波を喰らってとんでもない酷評を放ってしまいそうな予感を感じます。
一旦は大きくかけ離れた内容の本を経由した方が良いかと思っています。
- 感想投稿日 : 2011年5月16日
- 読了日 : 2011年5月16日
- 本棚登録日 : 2011年5月16日
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