新書570 生きるのが面倒くさい人 (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2016年6月13日発売)
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自分と他人は違う。自分の考えが相手にとって最良だとは限らない。自分の基準や考え方で相手を評価したり批判したりしても、それはあくまでも自分にしか通用しない。何故なら人は一人一人育った環境も違えば、見てきたもの聞いてきたもの触れてきたもの全てが自分(あなた)とは異なるからだ。
それは自分の子供に対しても勿論当てはまる。自分の親と、自分の子供にとっての親は違う。だから自分を育てた親が言ったことが自分の子供に通用するかと言えば、そんな事は無いはずである。それを理解せずに、自分がこうした方が良いという考えを子供や他人に押し付ければ当然違和感が生まれるはずだ。まず理解しなければならないのは、当たり前だが、自分の考えや基準は自分にしか通用しないという事だ。
近年増加傾向にある引きこもりやニートが社会問題化し、私の身近にもその様な状況に苦しむ人々がいる。どうにかして状況を打破しようと、時には厳しく指摘したり、好きな事をやらせてみたり凡ゆる手を尽くしてみるが、それでも状況は中々改善されない。最近私もそういった相談を受け、本人を目の前にどの様に対応すべきか悩んだ経験を持つ。特に悪いことに手を染める事もなく、幼い頃はよく話し、よく遊びどこにでも居る普通の子だった。勿論今でも街でばったり会ったなら何処にでも居る普通の子だし、寧ろ容姿もよく背も高く俗に言うモテるタイプだ。だがとうに20歳を過ぎ、学校に行くでもなく、また働きにも出れず母親の元で暮らしている。私には正直どの様に対応してあげたら良いかがわからなかった。じきに自分から何かするまで待ってあげるのが正解なのか、それとも現状を厳しく指摘して無理にでも尻を叩くのか分からない。そんな状況でも暫く一緒に過ごし話をする事で少しずつ当人の事を理解できる様になった。きっと恐らく、本書に記載される様に自分への諦めや、失敗への恐怖、期待に添えなかった時の更なる失望が本人の動きを止めてしまっているのでは無いかと感じる。それすらも当たっているかは分からない。ただ一緒に過ごし当人にしっかり向き合えばやがては答えが見つかるかもしれないという期待は膨らんだ。話せば普通の子であり、きっと第一歩が踏み出せないだけだと思う。ならこのまま向き合いながら、いろいろ話をして(聞いてみて)本人の中に何かきっかけが出来れば良いのでは無いかと思う。考えすぎだよ、誰でも失敗ばかりだし、恥ずかしいことなど何も無い。本当はそう言ってあげたいが、私は待つことにした。
世の中には多くこうした状況があるのは、私のごく身近にも、会社でする会話の中からも感じ取れる。皆悩んでいるだけで、はじめの一歩が怖いだけ。人それぞれきっかけは違えど立ち上がる日は来る。自分たちが彼ら彼女らを動かそうとするなら、自分から気づける様に優しく近くで見守る必要があると感じる。理解せずに自分を押し付けても恐らくは変えられない変わらない。そして我々が個々に持っている考え方や物差しでは他人は評価出来ない事を十分理解して相対する事が必要だと感じる。
間違いないのは、親が子を心配する気持ちだけだ。いつかは親もいなくなる。大半は親が先だろう。だから子供に1人でも生きていける力を持ってほしいと願う気持ちはどの様な親でも必ず持っている。いつか親の気持ちに応えたいと自らが動き出せるタイミングが来るに違いない。親が子を思う気持ちと子が生きたいと願いその為に動き出した時に本当の親子になれる気がしてならない。

そしてその様な状況を生み出す1つの要因として、情報過多な時代にも問題はあると感じる。大量に入ってくる情報には過剰に人を恐怖に怯えさえ、踏み出す事を躊躇させる様な話に溢れている。その逆にどう頑張っても到達が容易ではない、半ば運任せの成功体験も多い。簡単に堕ちるどん底から、天国まで見せられて夢に溺れてしまう人もいるだろう。現実世界は誰もが人間関係に悩み、恥をかき、無駄とも思える程の汗をかき、頭痛に苛まれ、落ち込む。それが普通だし逃れられない現実世界だ。そしていつでもリセットできやり直しもきく。失敗は進歩の母だから何度でも失敗すればいい。リアルな自分でリアルに味わってみる事が自分を確立する糧となる。スマートに行き交うサラリーマン達も家では1人で悩んでいる。酒を飲んで忘れようとする。現実は泥臭いものだという事を教えてあげたい。
本書は様々なパターンを例示し、それ毎に適切な対応に近づくヒントをくれる。参考にしながら、苦しい状況に悩む人たちに少しでも救いになればと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年3月27日
読了日 : 2024年3月27日
本棚登録日 : 2024年1月4日

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