- Amazon.co.jp ・本 (550ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000614740
作品紹介・あらすじ
一九一六年、大英帝国の外交官であった男に死刑が執行された。その名はロジャー・ケイスメント。植民地主義の恐怖を暴いた英雄であり、アイルランド独立運動に身を捧げた殉教者である。同性愛者ゆえに長くその名は忘れられていたが、魂の闇を含めて、事実と虚構が織りなす物語のうちによみがえった。人間の条件を問う一大叙事詩。
感想・レビュー・書評
-
別の本でケルト人の歴史に興味を持って、図書館の本を「ケルト人」で検索した時にヒットした本の一冊。
「ケルト人の夢」というタイトルではあるが、私が知りたかった「ケルト人の歴史」とはあまり関係ない。作者がマリオ=バルガス=リョサなので(私の中ではラテンアメリカ文学という括り)、ラテンアメリカ文学はガルシア=マルケスしか読んだことがない私はマルケスっぽいのかな、と読み始めたが、全然違った。
ケルトの歴史でもなく、主題も私が思ってたようなものともまるで違う上に、厚さが4cmもあって読み終えるのに2週間かかった。
でもなぜ途中で読み止めなかったかと言えば、ことの顛末を知りたかったからだ。
ロジャー=ケイスメントという過去に実在したイギリスの外交官の一生の話であり、舞台はコンゴ、ペルー、そしてアイルランドと移り変わる。
天然ゴムを巡る人間の強欲とその強欲さによる現地人への恐ろしい暴力の描写には何度も本を置いた。
またケイスメントが愛国主義に目覚めアイルランドの独立に奔走する姿には、母国とは何か?ということを考えさせられ、日本におけるアイヌの人々や琉球王国のことを思った。
搾取する、ということに関して「私はどんな立場だろう?」「知らずに搾取する立場なのではないか?」などとも考えた。
読む間、人間の多面性や欲望、日本人であることなど色々考えさせられた。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
-
ゆんさんこんにちは
ラテンアメリカ文学大好きです!
バルガス=リョサはこちらは読んでいませんが、いくつか読んでいます。
一...ゆんさんこんにちは
ラテンアメリカ文学大好きです!
バルガス=リョサはこちらは読んでいませんが、いくつか読んでいます。
一緒にラテンアメリカ文学読みましょう!2024/05/03 -
淳水堂さんコメントありがとうございます。ラテンアメリカ文学、本当に有名どころを数冊しか読んだことがないので、これを機にリョサはじめ他の大家た...淳水堂さんコメントありがとうございます。ラテンアメリカ文学、本当に有名どころを数冊しか読んだことがないので、これを機にリョサはじめ他の大家たちの本も手に取りたいなと思いました〜!淳水堂さんのレビューも参考にさせていただきながら何読むか決めようと思います☺️2024/05/03
-
-
第一次大戦、イギリスによるアフリカ植民と開発とゴム貿易、アイルランド独立を目指したイースター蜂起の頃を描く歴史小説。実在の英雄であり反逆罪による死刑囚でもあるアイルランド人がイギリスに身も心も翻弄される話。タイトルから、アイルランドの独立を目指す動きがメインかと期待してたんだけど、イギリスの植民と貿易の実体というかアフリカの惨状が七割くらいだった。他国に開発されるのはやっぱり怖いな。
-
読みたくない、読みたくない、、と思いながら読む本
-
リョサは南米文学のそびえたつアンデス山脈のような存在。かつて「緑の家」上下巻を読み 深い感銘を受けたすばらしい文学界の至宝。
この本を知ってはいたが「時間、精神的にゆとりのある時」を選んで、今回挑戦。
内容に先入観は持たず 題名から受ける印象と大きく異なった大河だった。
執筆に際し リョサが辿った道筋~コンゴ・アマゾン・アイルランド・米国・ベルギー・ペルー・アイルランド・スペイン・・リョサならずしては出来ないとてつもないパワーの炸裂の結晶の大作。
作品の骨格としては「アイルランドに生まれ、愛国主義、ナショナリストたるべくコンゴ・アマゾン等を渡り歩き、植民地への搾取の悍ましさをまざまざと見せつけられた半生をへて 故郷へ戻り折からの第一次世界大戦時、独逸の協力を得つつ 英国よりのアイルランド独立を目する。が、失敗、反逆罪の罪で処刑となるケイスメント」の生涯 史実にフィクションを絡めた歴史小説。
史的うねりの狭間毎に 独房での彼の夢想~1人称だったり3人称だったり・・変幻自在に。
ケイスメントの出生時、複雑なものがありカソリックの洗礼を受けている事もあり、作品中、幾度も「自身の孤独と神の孤独」を内省し、懊悩している。して作中でもアイルランドにおける神父と軍人の在り様への言及もしており作中深い影を落とす重要なモチーフにもなっている。
リョサ自身、ケイスメントに興味を持った要素に同性愛がある。2番目のモチーフであるこれは 幾度も繰り返し、苦悩し鬱の重要な原因ともなって苦しんでいる事が分かる。些かショックだったのは、当時、同性愛が処罰の一つの要因でもあったせいか 刑執行後に肛門を調べた箇所がある事。
ノーベル賞受賞者であるリョサの面目躍如たる3番目のモチーフは「今後を植民地化したベルギーのレオポルド2世、ペルーのゴム園のとてつもない支配者 アラナとの対峙。この時代の人種差別は「差別」などどいう生易しいものでなく、今でいえば明らかな殺人・国際法もの。原住民殺戮は日常茶飯事、無知で叩きのめす身体の蚯蚓腫れ然り。このシーンの描写は読み続けるのが苦しく、ケイスメントのメンタルが壊れて行く様と同調してしまいそうになった。
今年前半読んだ中に在った「コンラッド~闇の奥」が繋がってくる。モレル~人権指導者との関わりも重ね、ケイスメントの「ケルト人の夢」がこの2人とはいつからか道筋がずれ、独立運動へと激しく舵を切って行く悲劇を膨らませる結果にもなった気がする。
1914年7日間の「ケルト人の夢」は確かにあったが、「狂気ともなりうる愛国主義」の様相を帯びて行ったことが処刑へと繋がって行ったのか。
一時はかけがえのなかったはずの親友 ハーバートから見るとケイスメントの生きざまはドンキ・ホーテにも似て・・か。
コンゴへ、リヴィングストンにあこがれて二度もマラリアに罹患して・・それでも「何に」向かって行ったのか・・魑魅魍魎と片付けるには哀しい姿に思えてならない。 -
コンゴやアマゾンで行われた先住民族への虐待の告発者にして、アイルランドをイギリスから独立させるために、ドイツと手を結ぼうとしたため処刑された、ロジャー・ケイスメントの物語です。
物語は捕まったロジャーが、過去を回想する形で進みます。高い理想と強い意志を持ちながら、同性愛者でもあった彼の苦悩と複雑さにひきつけられました。 -
想像をはるかに絶する
衝撃的な残虐な行為が
静かな筆致で描かれていく
なんども 本を閉じて
ふうっ の ため息が出てしまう
「闇の奥」を書いたコンラッドは
この本の主人公ロジャー・ケイスメントを
「イギリスの(正しくはアイルランド)バルトロメ・デ・ラス・カサス」
と呼んでいたそうだが
ケイスメント本人ではなく、彼を主軸に置いて著者バルガス・リョサの筆致を通すゆえに、より鮮明に、より印象深く、「帝国主義」「被植民地」のおぞましい実態が浮かび上がってくる
むろん、これはイギリス国を始めとする当時の植民地政策をとっていた全ての国の犯罪行為の暴露でもあるが、戦争行為を歴史の汚点として抱えた国全て、むろん、この日本の歴史的行為も含めて考えさせられる一冊である
優れたジャーナリストであり、英雄であり、同性愛者であり、国家によって抹殺された、一人の特筆すべき歴史的な意味を持つ、ロジャー・ケイスメントをここまで魅力のある人物として描き出したバルガス・リョサが凄い
また、日本語訳をしてくださった野谷文昭さんに感謝である。
とんでもないものを読んでしまった
と同時に
21世紀を生きる我々が
読んでおくべき一冊である と思う -
虐待の発生を組織にもっていく。旅の恥はかき捨て。