国家 上 (岩波文庫 青 601-7)

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  • Amazon.co.jp ・本 (509ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003360170

感想・レビュー・書評

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  • プラトンの「国家」。

    政治に関心のある僕としてはずっと読みたいと思っていた本で、周囲からは「難しい」と言われていたのでなかなか踏み出せなかったが、勇気を出してその扉を開いた。

    構成は上下巻2冊で、さらにその中で大きな話を1巻(章)ごとに区切っている。

    プラトンの理想国家について考察をソクラテスと周囲の人物の対話を中心に描写しており、ソクラテスの問答法がいかなるものかが分かる。

    国家を統治するものはいかなるべき者がふさわしいか。
    そういった人物をどう教育していくか。
    そのようなことを議論しながら理想国家への道を模索している。

    プラトンの考えは国家の守護者(統治者)は優れた哲学者がなるか、あるいは哲学者が守護者になるべきだとしている。
    靴磨きが靴磨き以外の仕事をすることでその能力を発揮されないように、人には能力に合った相応しい役割があるという。
    そしてそれぞれの民がそれぞれに相応しい役割を果たすことで国家に正義が成されるという。
    では女性はどうか?
    女性と男性は身体的な差異がある。しかし男性の中にも女性に近い人物や女性の中にも男性に近い能力を持った者もいる。よって女性も国防にあたってはその相応しき役割に準ずるべきだとする。
    商人は節制を、軍人は勇気を、政治家は知恵を、それぞれ発揮することによって国家は正義を成すのである。

    それではそのような優れた統治者をいかに育てうるのか?
    まず第一に、生まれたときから触れる文学に気をつけさせるべきである。
    神が悪魔に化けるとか、世の中が暗黒であるとか、そういった内容は避けるべきであって、勇気や正義に憧れを抱くようなものに触れさせるべきである。

    では統治者は不幸ではないのか。
    というものに関しては、利益の焦点はある一定の階層にあてるべきではなく、国家全体の利益に基づいて考えるべきであり、また優れた統治者は自身が国家の守護者としての行い自体が幸であると知るものである。


    難解な論理展開と多様な例によってこの書をなかなかそのままにまとめることができなかったのは残念だ。
    しかし現代の政治と比較してみたときに、「国家」から学べることは多分にあるはずだ。
    マスメディアに踊らされ、国民は政治家の政策よりもスキャンダルばかりに関心を向け、政治家は政治家で政策以前に、政治家自身が国民の代表としての品位と道徳に欠けるのである。
    「国家」のみならず古典は、現代の様々な問題について解決のヒントを与えてくれると思う。

  • 中学生哲学。

    「不正のほうが正義よりも得になるなどとは、けっして思わない。」
    中学生日記のセリフかとも思えるこの一節。
    これが対話篇の始まりであり、
    国家論の始まりでもあり、
    かつ実はこれが結論である。

  • 理想国家の考察から発想を得て個人の理解へ進む、人間理解の推察。

    知恵、欲望、勇気とは、そして正義とはなにかを解き明かす。

    下巻はこれから読む

  • む、むつかしい…。なかなか全文読めないなぁ。
    とりあえず正義とは、理想政体とは、のあたりは読んだ。
    なんでこんなに自由を嫌うんだろう。ペロポネソス戦争とか関係あるのかなぁ。イデアと言う概念を用いた国家統一思想なのかなぁと。要考察。

  • 対話形式、ソクラテス、正義とは

  • プラトンがソクラテスに仮託して語る国家の理想像、正義の本質。その議論は古代から今日に至るまで多くの人々に影響を与えてきた。今日の、建前上民主主義国家のなかで生きている我々にとっては、議論の前提となっている支配者/被支配者の二分法は非常に違和感があるが、この点を乗り越えていくことに『国家』の議論を批判的に継承していく鍵があるのではないか、と思う。

  • これからもずっと読み継がれるであろう名著。「哲学」の全てが詰まっている。政治とは?徳とは?正義とは?幸福とは?答えよりも、思考方の勉強になるのでは。
    プラトンは本当にユニークでロマンがあると思う。アリストテレスよりずっと好き。
    岩波文庫にしては訳も分かりやすく、すらすら読める。

  • 国家の正義とはそれが支配する人たちのために尽くすことである、プラトンは師ソクラテスの言葉を通じて説く。哲学者が国家を支配すべきである(哲人政治)とも。

    国家に限らず、会社、部門、チームなどどのようなレベルの「組織」がより良く在るためには哲学が必要なのだ、と認識。

  • 799夜

  •  『国家』第一巻に登場するトラシュマコスは次のように言う。
     「<正義>とは、強い者の利益にほかならぬ」
     
     「もろもろの国家のなかには、僭主政治のおこなわれている国もあり、民主政治のおこなわれている国もあり、貴族政治のおこなわれている国もある」

      「しかるに、その支配階級というものは、それぞれ自分の利益に合わせて法律を制定する。(中略)そして、そういうふうに法律を制定したうえで、この、自分たちの利益になることこそ、被支配者たちにとって<正しいこと>なのだと宣言し、これを踏みはずした者を法律違反者、不正な犯罪人として懲罰する」

      このトラシュマコスの立場は様々に解釈されてきた。ここでは大まかに以下の四類型に分類してみる。

      第一は、『ゴルギアス』に登場するカリクレスと同様、「力は正義なり」という教義の信奉者であるとするもの。
      第二は、シニシズムであるとするもの。
      第三は、現実の政治に関する観察記述であるとするもの。
      第四は、「反体制論者」とするもの。

      第一、トラシュマコスは「力は正義である」と言っているのではなく、世にいう正義とは支配者集団の自己利益を隠ぺいする虚偽だと述べているのであり、カリクレスの立場とは異なる。カリクレスは権力を称揚するが、トラシュマコスは不正な人間ほど巨大な利益を我がものとする現実を告発しているのだ。
      第二、トラシュマコスの言動に漲っているのは怒りや鬱屈感であり、シニシズムとは異質である。
      第三、第二と同様の理由で、冷静かつ客観的な観察記述とは言い難い。
      第四、この解釈がいちばん納得のできるものだが、現存の支配体制に替えて別種の体制を樹立しようとする立場ではない。

      トラシュマコスの主張の核心部分は、支配する者と支配される者の差別は全ての政体を通底しているという点であると、私は思う。民主政体でさえ例外ではない。彼は支配と被支配という枠組み自体を否定しているのだ。これは無政府主義(アナーキズム)に近い考え方だと思う。
      
      このような彼の主張の背景には真の正義への信仰がある(長尾龍一)。
      真の正義は別にあり、それが偽の正義に蹂躙されていることにトラシュマコスの鬱屈の原因がある。そして彼にとって真の正義は、支配・被支配の差別がある限り、見出すことはできないものなのだ。

     支配者たちもまた、自己の利益が何であるかについて、判断を誤ることがあるのではないか。自分にとって利益になると信じて行ったことが、逆に不利益をもたらすことが、あるのではないかと、ソクラテスは反問する。

     トラシュマコスはソクラテスにこう答えるべきだったのではないか。 
     どのような政体にも失政はつきものだが、支配者は正義の名のもとに自己の利益を隠蔽するように、自己の失敗もまた隠蔽し、自己利益を擁護しようとするものなのだ。どちらの場合も、被支配者に降りかかるのは災厄であると。

     追記(2011年11月5日)
     哲学者の高橋哲哉は福島の原子力発電所の事故に関して、次のように語っている。
    「ある者たちの利益が他の者たちの生活や生命、健康、日常、財産、希望などを犠牲にして生み出され維持される。犠牲にする者の利益は犠牲にされる者の犠牲なくしては生み出されないし、維持されない。この犠牲は通常は隠されているか、共同体にとっての尊い犠牲として正当化される」(佐高信『電力と国家』(集英社新書159頁~160頁)より)。
     トラシュマコスもまた、こうした「犠牲のシステム」について述べているのだと、私は思う。これがどうして「強者の論理」だろうか。

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著者プロフィール

山口大学教授
1961年 大阪府生まれ
1991年 京都大学大学院文学研究科博士課程研究指導認定退学
2010年 山口大学講師、助教授を経て現職

主な著訳書
『イリソスのほとり──藤澤令夫先生献呈論文集』(共著、世界思想社)
マーク・L・マックフェラン『ソクラテスの宗教』(共訳、法政大学出版局)
アルビノス他『プラトン哲学入門』(共訳、京都大学学術出版会)

「2018年 『パイドロス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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