- Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004305309
感想・レビュー・書評
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直前に稲田 朋美氏の「百人斬り裁判から南京へ (文春新書)」を読んだ。また、秦 郁彦氏は徹底した資料分析と膨大な量の定量的調査などから鋭く歴史の事実性に切り込む私の好きな歴史家であるから多くの書物を読ませていただいた。著名な作家、歴史家が挑んでいる南京事件であるが、本書笠原十九司氏の「南京事件」もその真相に迫ろうとしている。実際に事件の場にいた兵士が現在では殆どいなくなっているため、現場にいない作者の情報ソースによっては大分内容に偏りが出てくる点は否めない。だがそれら情報ソースが更にどこをベースに置いているかで、枝葉も変わってくる。
実際に現場にいた兵士の階級、将校と末端の兵士では活動する現場が違う。何より部隊によっては先発する部隊と後方から追う部隊では現場到着時刻も異なり、目まぐるしく戦況が変わる戦場に於いては全く異なる風景が広がっている。そして一般市民が見た記憶した事件の見方は、その後の歴史に大きく影響する。何より家や家族を失い、戦場で強姦された女性、息子や夫を殺害された親達の記憶には地獄さながらの景色が色濃く残る筈だ。自分の武功を強調したい兵士、惨劇を目の当たりにし自省の目で見た兵士、全てを失い恨みだけが残った市民、それらが記録や記憶に残した定量的な記述の多くには偏りが出てしまうのは仕方ない。
その中でも中国以外の滞在外国人、ジャーナリストや医師団、外交官などが見た現場描写はある程度は信憑性が高いと思われる。とは言え当時は概ね世界から見た日本は残虐非道であったのは間違いないし、自国の戦意高揚や国際的な批判を巻き起こしてそれら行為をやめさせたいなら、誇張が含まれるのは仕方ない。そうした人々も多くは自分のいた場所、見た範囲でしか語ることができないからだ。
結局のところ戦況全体を俯瞰し、混乱する戦場に於いては正確に数や状況を把握する事など不可能に近く、事件から80年以上の時間が経過した今となっては調査を更に難しくしている。その様な中でも事実に迫ろうとする歴史家や作家の努力を大いに認め敬意を表せずにはいられないのであるが、現在最も信頼性の高い数字としては、民間人の死者4万人といった秦郁彦氏の数字と言われている。なお先日読んだ百人斬りについては信憑性はかなり乏しいものと私は見ている。その他BC級戦犯の裁判については運不運も影響し、今となっては真実を探る手立ては殆どなくなってしまった。然し乍ら松井石根大将の責任の重さは変わらない。軍を率いる立場でそうした日本軍の統制の乱れを抑止できなかった罪は大きい。確かに常備軍ではなく戦場に連れて来られた兵士たちの統制にはかなり強力な監視と労力を要するが、普通に考えて兵士たちがこの様な事態を引き起こす事は容易に想像できる。現代社会でもウクライナに侵攻したロシア兵の残忍さがクローズアップされるが、兵士の心理状態を考慮した戦場の在り方を改めて考えさせられる。何より戦争を起こさない努力が一番であるが。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
教科書裁判への関与をきっかけに南京事件に
取り組むこととなった笠原十九司が史料検証に基づいて
書いた一作。事件60周年にあたる1997年発行。
南京事件が気になった時に最初に手にした
本でしたが、なかなか読む気になりませんでした。
今回、南京に行くにあたって、本棚から取り出して
読みました。
上海/杭州上陸から南京攻略、そして「南京大虐殺」までを
日記や証言を基にした史料をたどり、検証していきます。
これを読みながら、上海から南京へ進んだわけですが、
この江蘇省の大地を同じように日本軍が進んで行ったんだなと
ちょっとした感慨も。
これを読みながら南京に行ったので、記念館の
展示も、ああ、このことねと理解しやすかったです。
惜しむらくは、この本が出されてからの10年間で、
相互の言い合いは続いているものの、
新しい事実の解明だったり、共通認識の構築には
全然至っていないということ。
去年、「南京!南京!」という映画が公開されて、
虐殺に関与した日本兵からの視点での取り上げられ
方がされて、ただの「鬼子」ではなく、苦悩する日本兵の
姿も話題になって、一石は投じられたけど。
やっぱり今となっては、新事実の解明なんて
難しいのかもしれないですね。
双方の空白の時間もあり、客観的な証拠が
もう残ってないでしょうし。
とはいえ、簡単に読める新書ですので、
事件が気になる方は、まず読んでみることを
お勧めします。
http://teddy.blog.so-net.ne.jp/2010-08-04 -
出来る限り歴史学的に、南京事件を捉えてみようと試みたもの。
まだ、南京事件に関しては一冊しか読んでないので、他の立場の本なども読んでみるまで、感想は保留。