憲法とは何か (岩波新書 新赤版 1002)

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  • / ISBN・EAN: 9784004310020

感想・レビュー・書評

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  • 憲法改正論議を理解する参考文献として読んだ。
    憲法学者の重鎮ということで、この著者の本をとりあえず読まねばという義務感で選書。

    全然期待してなかったけど、表題どおり、憲法とは何か を知るために良い教科書的な本で、読んで良かった。

    「憲法とは」基本的なことを知ってから改正論議をしないとダメだとわかった。ダイジェストでこの内容を国民みんなに知らせないで改正の是非を投票させるのは、ものすごく問題があると思う。

    憲法典とは原理を示すもので、そこに書いてあることは法令で定めないと実行されない。改正して書き込んだことが必ず実行されるものではない。
    例:アメリカ南北戦争後、黒人の人権を認めることを憲法に書き込んだ。しかし、実際は公民権運動後に法令ができるまでしっかり実行されなかった。

    また、憲法典に書いてあることは、現実に即しておかしいのであれば、実行されていないのが普通である。
    例:イギリス議会はオーストラリアの憲法を無効にできる。→実際はどう考えてもできない

    日本国憲法も多大なエネルギーを使って変えることのメリットは多くないだろう。憲法に書き込んでも法令を作らないと実行できない。逆に、書き込まなくても法令を作ればできることは、憲法改正してまで書き込む必要がない。

    この著者をこき下ろす内容を含む本を先日読んだのだが、憲法9条を改正しなくても軍備に支障はないという点では、その著者とこの本の意見は同じということのようだ。

    「解釈改憲」という用語があって、私はこれを「ズルをする」というか、ホンネと建前が違っていて歪なこと、などと思っていたが、解釈で憲法が変わるのは当然のことなのだと理解した。

    ○本書の内容について
    ・まず、憲法が絶対王制の権力に制限を加えるために作られたことなど、歴史的な話。
    ・現代の政治の形(民主主義・共産主義・ファシズム)は憲法の違いであり、それが国のあり方の違いである。
    ・現代の政治のあり方の違いを簡単に解説。大統領制の弊害など。
    ・憲法と法令の違い 憲法はおおまかな原理にすぎず、実行は法令による。
    ・執筆当時2005年における憲法改正問題について。憲法改正に多大なエネルギーを消費しなくても、必要な法令を作れば良い。憲法は解釈で変わる。解釈は社会の変化で変わる。
    ・裁判所は判決によって解釈の変化を定着させていくものだが、日本の最高裁は政治に対して弱腰?

    前半は多分にロマンチックというか文学的な著者の嗜好が盛り込まれていて読みにくかった。さすが岩波の赤、教養本なのである。
    しかし、基本的なことを押さえるには必要な本だった。

  • 憲法改正を論ずる前にまずこの本を読んだ方がいい

  • 長谷部恭男『憲法とは何か』岩波新書 読了。多様な価値観の存在を認め、「私」の領域では個々の自由を保障。共通の利益を追求する「公」の領域では、国家の権力を憲法により制約、と立憲主義の理念を確認。その上で、憲法改正論に反駁していく。様々な思想家の思想が散りばめられ、文献解題が有意義。
    2011/04/14

  • 【由来】
    ・新書365
    ・「多数決を疑う」の読書案内で。この人、テレビで最近よく見る人だ。

    【期待したもの】

    ※「それは何か」を意識する、つまり、とりあえずの速読用か、テーマに関連していて、何を掴みたいのか、などを明確にする習慣を身につける訓練。

    【要約】


    【ノート】

  • いわゆる、日本国憲法の解説書ではない。憲法は何のためにあるのか。
    戦争は相手の憲法を変えるため。

  • 立憲主義の発想について解説するとともに、そうした観点から現在の憲法をめぐるさまざまな問題について、著者自身の立場から明快に議論を展開している本です。

    立憲主義そのものについては、おなじく新書で刊行されている『憲法と平和を問いなおす』(ちくま新書)のほうが、理論的および歴史的な側面からていねいに論じられているように感じました。本書でも立憲主義そのものの説明は手際よくまとめられていますが、むしろ立憲主義という発想をじっさいに使いこなすためのさまざまな視座が示されているように思います。

    また、現在の憲法改正をめぐる議論には、改憲派・護憲派双方に、憲法の改正そのものが日本社会に革命的な変化をもたらすかのような理解が見られますが、著者はそうした議論が過熱する状況から距離をとり、憲法が置かれている具体的状況のなかで憲法の果たしている役割を冷静に見ようとしています。

  • 岩波新書愛好会】#感想歌 憲法を創ると守ると改訂の力関係根源は何 民主主義だけではなくて人類の幸せ確保模索方法

  • ・近代立憲主義
    立憲主義は国家の権力を制限しようとする古くからある考え方。近代立憲主義は多元的な近代を制御するために生まれた考え方で、公私を区別し、国家は私的な領域に踏み込まず、私的信条は公共に持ち込まれない体制。これは人間の自然的欲求に反する。人は自らの信じることが社会全体に行き渡って欲しいと思うものであり、また唯一の明確な正義に従っていたいと思うものだから。近代人は異なる価値観の選択に常に悩む宿命にある。近代立憲主義の前提として、異なる価値観の比較不可能性がある。価値観の比較不可能性を認める論者は、マキャヴェリ、バーリン、ロールズら。認めないのは、レオ・シュトラウス、カール・シュミット、マルクス。

    ・憲法改正を論じるに当たっては、その改正によって日本が国家の基盤としての思想的にどの陣営に属することになるのか、そしてそれが他国との関係にどういう影響を与えるかを熟慮すべきである。

    ・立憲主義的憲法は、多元主義を前提とするので、唯一の正しい生き方を国民に強制するものとはなり得ない。即ち、憲法の条文は、強制的なルールではなく誘導的なプリンシプルである。9条を文字通り読んで自衛隊の存在を全く認めないのは、憲法をルールと捉えるものであり誤りである。21条も文字通り読めば表現の制限を全く認めないように見えるが、わいせつ表現の制限は認められるではないか。

    ・共和制
    世襲による君主制に対し,主権が複数者にある政治形態。国家元首や人民の代表者を間接・直接に選出し,主権が人民にある民主的共和制と,少数特権階級にのみ主権がある貴族的共和制・寡頭的共和制などがある。古代ギリシャでは、民主制はネガティブな言葉だったが、共和制はポジティブな言葉だった。

    ・プレコミットメント
    憲法によって国家の権力を制限するのは権力者自身が望むことである。なぜなら権力の一部を自発的に他者に委ねた方が、自分のミスを防いだり、権力の信頼を高めたりするなど、権力の長期維持に資するからである。即ち、無制限の権力よりは制限された権力の方が強い権力である。という考え方。

    ・大統領制
    行政の長である大統領と立法府である議会の議員の両方を選挙で選ぶ。

    ・議員内閣制
    議会の議員のみを選挙で選び、行政の長は議会が選ぶ。

    ・二元的民主主義
    利害調整の通常政治と、身近な利害を超えて国の基本的あり方を議論する憲法政治。憲法政治は必ずしも憲法典の改正のことではない。

    ・国境を決める明確な原理は存在しない。故に、現状の国境から後退した場合、踏みとどまるべきラインも決定できないので、国家は現状の国境の維持にこだわらざるを得ない。

  • 配置場所:摂枚新書
    請求記号:323.14||H
    資料ID:95060021

  • 【目次】
    はしがき(二〇〇六年二月 Y.H.) [i-iv]
    目次 [v-ix]
    題辞 [x]

    第1章 立憲主義の成立 001
      アトランタでの問い/サンチャゴでの問い
    1 ドン・キホーテとハムレット 004
      多元的な世界/ハムレットの「良心」
    2 立憲主義の成立 008
      比較不能な価値の対立/政治プロセスの適正化
    3 日本の伝統と公私の区分 012
      日本社会の公と私
    4 本性への回帰願望? 014
      「分かりやすい世界」へ?
    5 憲法改正論議を考える 017なぜ厳格か
      特定の価値観の導入?/新しい人権・責務/九条改正論/
    6 「国を守る責務」について 022
      守るべき国とは何か/憲法秩序と国土・暮らし/テロの時代と平和主義
    文献解題 026

    第2章 冷戦の終結とリベラル・デモクラシーの勝利 035
    1 国家の構成原理としての憲法 036
      憲法をめぐる争い
    2 ルソーの戦争状態論 038
      ルソーのホッブズ批判/戦争の即時解決の道
    3 三種の国民国家 040
      国家像の変貌/三者の闘い
    4 シュミットと議会制民主主義 043
      シュミットの議会制批判/敵対関係と国家間関係/治者と被治者の自同性/ファシズムと共産主義
    5 原爆の投下と核の均衡 048
      原爆投下の正当化理論/「究極の緊急事態」/バビットの批判/冷戦の終結
    6 立憲主義と冷戦後の世界 054
      リベラルな議会制の特長/冷戦終結の意味とは
    7 日本の現況と課題 057
      東アジアの対立構造/憲法典の変更を言う前に
    文献解題 061

    第3章 立憲主義と民主主義 067
    1 立憲主義とは何か 068
      二つの立憲主義/近代以前と近代以後/立憲的意味の憲法/九条解釈と立憲主義
    2 民主主義とは何か 072
      「多数者の支配」への嫌悪/議会制とシュミットの批判/ケルゼンの議会制擁護/ハーバーマスと討議の空間/マディソンと大きな共和制/アメリカの民主制
    3 民主主義になぜ憲法が必要か 081
      プレコミットメントとは
    文献解題 082

    第4章 新しい権力分立? 087
    1 ブルース・アッカーマン教授の来訪 088
    1-1 モンテスキューの古典的な権力分立論 089
      権力分立の眼目/影響力
    1-2 「新しい権力分立」 097
      三つの政治体制/何が望ましいか/三権以外の機関の独立
    2 首相公選論について 097
      議院内閣制との相性/小選挙区制との相性/純粋の大統領制は?/半大統領制は?
    3 日本はどこまで「制約された議会内閣制」といえるか 106
      「最悪の体制」/日本の議院内閣制/官僚機構の「中立性」/行政・司法への制約について/内閣法制局という存在
    4 二元的民主政――「新権力分立論」の背景 112
      一元的民主政と二元的民主政/国の根本原理と憲法/憲法政治と通常政治
    文献解題 117

    第5章 憲法典の変化と憲法の変化 125
    1 「憲法改正は必要か」という質問 126
      質問の不思議
    2 国民の意識と憲法改正 128
      憲法典改正なしの根本変更/フランスの事例
    3 実務慣行としての憲法 132
      法と道徳/一次レベルから二次レベルへ/二次レベルのルールと専門家集団/三次レベルのルールへ
    4 憲法とそれ以外の法 139
      法の回復への欲求か/憲法と憲法典
    文献解題 142

    第6章 憲法改正の手続 147
    1 改憲の発議要件を緩和することの意味 147
    1-1 なぜ多数決なのか――その1 150
      多数者の幸福/なぜ特別多数決か
    1-2 なぜ多数決なのか――その2 153
      コンドルセの定理/なぜ特別多数決か
    2 憲法改正国民投票について 156
      あるべき国民投票制度/熟議機関の設定/公正な討議の機会/個別の論点ごとの投票
    文献解題 165

    終章 国境はなぜあるのか 169
    1 国境はなぜあるのか――功利主義的回答 171
      統治の実効性/人権の実効的保障
    2 国境はなぜあるのか――「政治的なるもの」 174
      カントとホッブズ/シュミットの人間と国家/生の意味をかけた闘い
    3 国境はいかに引かれるべきか 181
      通常正当化テーゼ/手段としての国家・国境
    4 境界線へのこだわり 185
      国境の恣意性と相対性/境界線の自己目的化
    文献解題 187

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著者プロフィール

早稲田大学教授

「2022年 『憲法講話〔第2版〕 24の入門講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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