憲法とは何か (岩波新書 新赤版 1002)

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  • Amazon.co.jp ・本 (193ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004310020

感想・レビュー・書評

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  • 長谷部恭男氏(1956年~)は、憲法学・公法学を専門とし、日本公法学会常務理事、国際憲法学会(IACL)副会長を務める、現東京大学名誉教授。
    本書は憲法改正の議論が盛んになった2006年の出版であるが、立憲主義における憲法とは如何なるもので、如何に運用されるべきなのか、そして、それを踏まえて憲法改正についてどう考えるべきなのかを論じている。
    本書の主な主張、印象に残った点は以下である。
    ◆立憲主義とは、この世には、生き方や世界の意味について根底的に異なる価値観を持つ人々がいることを認め、それにもかかわらず、社会生活の便宜とコストを公平に分かち合う枠組みを構築することで、個人の自由な生き方と、社会全体の利益に向けた理性的な決定のプロセスとを実現することを目指す立場である。そのために、公と私の分離、硬性の憲法典、権力の分立、違憲審査、軍事力の限定などの制度がある。
    ◆立憲主義の考え方に立つ憲法は、政治のプロセスが本来の領域を越えて個々人の良心に任されるべき領域に入り込んだり、政治のプロセスの働き自体を損ねかねない危険な選択をしないよう、予め選択の幅を制限するというのが主な役割である。昨今の憲法改正論議では、この理解が十分でないという懸念を抱く。
    ◆憲法とは国家の基本となる構成原理で、近代においては、(リベラルな)議会制民主主義、全体主義、共産主義の3つが憲法を決定するモデルとなったが、全体主義は第二次世界大戦において、共産主義は冷戦の終結において、それぞれ消滅した。
    ◆日本が憲法典を変更しようとするのであれば、①日本の基本秩序たる憲法は何なのかを見定める、②冷戦後の世界において、日本がどのような憲法原理に立つ国家になろうとしているのかを決定する、③国民の生命と財産の安全の確保という国家としての最低限の任務を果たすために、また、立憲主義という基本的な社会基盤を守るために、日本は外交・防衛の面で何をし、何をすべきではないかを改めて確認する、必要がある。そしてこれらは、憲法典の改正云々に関わらず、検討されるべきものである。
    ◆リベラル・デモクラシーには、大統領制、イギリス型議院内閣制、制約された議院内閣制(ドイツや日本)の3つがあるが、国の根本原理を変革する政治過程・「憲法政治」と、日常的な利害調整に関わる政治過程・「通常政治」の二つの政治過程を区別し、的確に運営するためには「制約された議院内閣制」が最適である。
    ◆成熟した国家にとっては、「憲法」とは「憲法典」のテクストのみを表すのではなく、テクストを素材に法律専門家集団が紡ぎだす慣行の集まりこそが「憲法」である。即ち、重要なことは、シンボリックにテクストを改廃することではなく、「憲法」を如何に変えるかである。
    ◆憲法改正の国民投票制度については、①国会による改正発議から国民投票まで最低2年以上の期間を置くこと、②国民投票までの期間に、賛成意見と反対意見とに平等かつ広く開かれた発言・討議の機会を与えること、③投票は、複数の論点に亘る改正案について一括して行うのではなく、個別の論点ごとに行うことにより、有権者が十分な情報と熟慮に基づいて投票が行われるようにするべきである。
    憲法改正については様々なスタンスからの意見があるが、改憲の実現を公言する安倍首相の自民党総裁3選が決まった今、自分の立ち位置を確立するために、改めて読んでおく意味のある一冊と思う。
    (2007年5月了)

  • 新書なので、優しい憲法の入門書かな、久しぶりに憲法について勉強してみようかな、などと思って買って読み始めてみたら、意外に難しい!しかし、読み応えのある本だなあと思いました。
    昨今の憲法改正議論のおかしさがわかった気がします。憲法上、新しい人権を位置付けても、具体的な法律がなければ意味がないし、逆に現行憲法で法律を定めるならあえて憲法改正は必要ないのではないか・・・なるほど。
    なぜ憲法の改正が、法律の改正よりも難しいようにできているのか(いわゆる硬性憲法)についての議論も興味深かった。
    来年あたり、もう一度、読み返してみたいです。

  • 第1章 立憲主義の成立
    第2章 冷戦の終結とリベラル・デモクラシーの勝利
    第3章 立憲主義と民主主義
    第4章 新しい権力分立?
    第5章 憲法典の変化と憲法の変化
    第6章 憲法改正の手続き
    終章 国境はなぜあるのか 

  • 題名からすると、大学の勉強関係の本だと思われるかも知れないが、本当のところは以前読んだ「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」の参考文献に取りあげられていて、面白そうだから読んで見ようと思った本だ。

    憲法と言っても「日本国憲法」の話ではなく、一般的な「憲法」の話で、憲法で戦争や冷戦解決の話をしたりするもんだから、なんか目から鱗というか、それまで考えもしなかったことだから、ものすごく興味深く読んだ。「国」とは何か、とかね。この「国」というのは、自然の国土やそこに暮らす人々のことを指してるのではない、それは「憲法」、いわゆる「権利の正当性」を指しているのだ、ということとかね。そして戦争というのは、一方が一方の憲法を書き換えさせることなんだ、と。

    こんな調子で途中まではね、4章まではすごく面白かった。なんかね、今までに考えたこともなかった概念が植え付けられたというか。

    だけどこの本、国民投票法ができる前の本だったんだよね。。そしてまだ(民主党に)政権交代するなど考えもしていなかった頃で、ある意味、これらのことが起こったあと、この人は今、どう考えてるんだろう?と思った。

    今は既に憲法改正論議は下火だが、例えば国歌国旗法の成立で、教職員が国歌を歌ったり国旗に対して立たなければならなかったり、という「勧告」(でいいのかな)が出来ている。国歌国旗法自体には全くそういうことは書いていない。しかし、こういう法律からではないもので、ある一定層をしばり、それによって国民に対して国歌は歌うもの、国旗に対しては立つもの、という「世論」を作り上げようとしている、そしてそれはいつか「憲法改正」へ繋がってくることが予想される。こういうことに対して、著者は一体どのように考えているのだろう?ということが気になって仕方ないのよね(笑)

  • 〜p.67。憲法の理解に役立つ。でも、憲法学者の交友関係は、狭そう。

  • 近代立憲主義・公私区分・硬性憲法・憲法改正・現代までの国家の形態の変遷・国境の意義などについて書かれていた。

    上記のことについて学ぶには良書だが、新書で文字数が多くない。
    内容に物足りなさを感じる人もいるはず。
    また、近代立憲主義などの前提知識が無いと多少読みにくいと感じるかもしれません。

    ただ、非常に分かりやすく面白い本です。

  • 筆者は、立憲主義は人間の本性にそぐわないと考えている。誰もが共通の真理や正義を信じ、それにしたがって生きることができる、「正義の味方」が悪を斬る時代劇のような分かりやすい世界に比べ、自分の思うように考えたり行動したりできる「私的空間」と、異なる考え方や利害を異にする立場の者と生活を共にしなければならない「公共空間」を区別し、法によって利害を調整しつつ生きることを選ぶ立憲主義に基づく近代以降の世界は、たしかに中途半端で、すっきりしないかもしれない。

    しかし、二度の大戦とそれに続く冷戦の時代を経て、世界の多くの国がリベラル・デモクラシーの世界を選択していることはまちがいのないところだ。憲法が明記されている日本のような国も、明記されていないイギリスのような国も、立憲主義に基づくリベラル・デモクラシーを維持し続けようとしている。特定団体間の利害調整に明け暮れる現代の議会制民主主義は、本来のデモクラシーから見れば頽落した体制であると考えるカール・シュミットのような人もいるが、ファシズムや共産主義のその後の運命を考えれば、現実問題として、今の世界に立憲主義に替わるものを提示することは難しかろう。

    しかし、憲法は、ただ我々の生活や安全を保証する有り難いものではない。憲法さえ変えればすべてうまくいくというような風潮が今の日本にはあるようだが、立憲主義の世界で、守るべき「国」というのは、現実に我々が暮らす土地や自分たちの生命を意味していない。「国」とは、その憲法に基づく法秩序の体制である。その意味では、先の戦争は旧憲法下の「国体」を護持するために戦われ、人々の暮らしそのものが成り立たなくなった時点で、旧憲法に代わって新しい憲法を得たのである。

    憲法改正問題で最も大きな問題と考えられるのが、九条をどうするか、という点である。日本国憲法の中心とは、言うまでもなく立憲主義と平和主義である。それを大事だと思うなら、憲法はいたずらにいじらない方がいい、というのが筆者の考えだ。法学者らしく、論理的に導き出された結論が、日本国憲法は「準則」ではなく、「原理」であるというものだ。長くなるが大事なところなので原文を引用する。

    自衛のための実力の保持を全面的に禁止する主張は、特定の価値観・世界観で公共空間を占拠しようとするものであり、日本国憲法を支えているはずの立憲主義と両立しない。したがって、立憲主義と両立するように日本国憲法を理解しようとすれば、九条は、この問題について、特定の答えを一義的に与えようとする「準則(rule)」としてではなく、特定の方向に答えを方向づけようとする「原理(principle)」にとどまるものとして受け取る必要がある。こうした方向づけは、「軍」の存在から正当性を剥奪し、立憲主義が確立を目指す公共空間が、「軍」によって脅かされないようにするという憲法制定権者の意図を示している。

    憲法が主権者の暴走に歯止めをかける役割を果たしているという点から考える時、もし、九条を字義通りにとらえ、自衛権も認めないとするなら、国家に帰属することによって自己の生命や財産を保全しようと考える多くの国民にとって、その解釈はデモクラシーの原則を踏みにじった決定を押しつけるものととらえられるだろう。その一方で、「軍」を明文化し、その存在を明確化しようとする提案は、公共空間の保全を目指す憲法の機能を揺るがしかねないものとなろう。

    目下のところ、教育基本法「改正」が国会論議の中心であるが、それが成った暁には改憲論議が高まるに相違ない。思ったよりも過激ではなく見える政府自民党案だが、改正手続きの段階で国会議員の「三分の二の賛成」が必要というところを単純過半数に改訂しようという動きがある。国民投票のあり方も含め、現実に論議されるべき問題は多い。

    改憲派にも護憲派にも、自分たちの考え方こそが正しいのだから、という「分かりやすい世界」観の上に立った物言いが目立つ。価値観を共有できない者たちが共に暮らす社会なのだからこそ、難しい問題を易しく解説してくれる、このような本が多くの目にふれることを望む。あまり手にすることのない新書版だが、このような重要な問題であるからこそ、誰にでも気軽に手にとることのできる新書という形態が望ましいのかもしれない。

  • 憲法があるのは、立憲主義に基づいているためである。すべて決まりごとがあり、成立しているのだが、後はよくわからず。
    法律関係の本を読破には、まだまだ、基礎が足りないようだ。


    異なる価値観、世界観は、宗教が典型的にそうであるように、互いに比較不能である。

  •  もうすぐ選挙ですが、首相公選制と憲法改正ところが参考になりました。
    制定されて何十年もたつ憲法を改正しても意味がない。あとは、解釈の問題だ。環境権やプライバシー権は、法律で十分守れる。改正のハードルが高いのは、政治家が改憲論議に労力を使って通常の仕事をしなくなるからだ。みたいな事が書いてあったと思います。
     そりゃそうだ。

  • 冒頭は、テンポ良く読みやすい文章ではあったが、後半はあまり読み進まなかった。内容は、立憲君主制を中心に現代と過去の統治制度を比較し、これから憲法改正や国境問題等の一般的に求められる知識を養う上では十分な本であったと感じた。

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著者プロフィール

早稲田大学教授

「2022年 『憲法講話〔第2版〕 24の入門講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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