ルポ 貧困大国アメリカ II (岩波新書) (岩波新書 新赤版 1225)
- 岩波書店 (2010年1月21日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784004312253
作品紹介・あらすじ
経済危機後のアメリカでは、社会の貧困化が加速している。職がみつからず、学資ローンに追い立てられる若者たち。老後の生活設計が崩れた高齢者たち。教育や年金、医療、そして刑務所までもが商品化され、巨大マーケットに飲みこまれている。オバマ登場で状況は変わったのか。人々の肉声を通して、アメリカの今を活写するルポの第二弾。
感想・レビュー・書評
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ルポ 貧困大国アメリカ Ⅱ
著:堤 未果
岩波新書 新赤版1225
教育、年金、医療、そして刑務所、この4つの分野のアメリカの資本主義の闇
資本主義というか、政府と企業の癒着主義:コーボラティズム と本書は呼んでいる
政権と癒着している、軍産複合体が、弱者を搾取して、それが故にますます格差と貧困が広がっていく
■教育
・学校の財政赤字のために、教員の解雇と、授業数の削減がまっている。教員の給与も削減されている
・金融危機が起こるずっと前から、アメリカの公教育を土台から崩す動きが進行していることに国民が気が付かなかった
・資金力で有利なのは少数の裕福な私立学校(ハーバード、エール、MIT等)だけです。公立は初めからチャンスはない。トップクラスの教授はこうした学校が持って行ってしまうのです。
・学生を集めるには、設備投資だ。そのために一人でも、学生を集めることが必要なのです。
・レーガン時代に公的教育予算が12%から6%へと半減されて、学資ローンの限度額が引き上げられました。
・レーガン大統領の教育に対する姿勢は、国益をもたらす未来の人材への投資、ではなく、個人に利益をもたらす個人投資、であった
・学資ローンは、住宅ローンと並ぶ巨大なマーケットである。そして、学資ローンの存在は、アメリカな社会問題である
・学位があったとしても、それに関する職につける可能性は年々低くなってきている。それは、学資ローンという借金がもれなくついてくるということである
・学資ローンには消費者保護法というものはない
・この国では、高卒の人間がつける職業は、マックジョブしかない。いまどんなに借金をしても、大学の学位だけは取らないと永久に低賃金の職を転々とすることになる
・学位さえあれば社会に出てから望む仕事につけるという幻想を今も抱いてる人々は、金融機関にとっては、高利の借り手として最高のカモなのです。
・規制緩和によって、借りやすいローンを増やすよりも、教育費を下げることで機会の平等を提供しなければ一生返せない債務を背負う国民の数はますます増え続けるだろう
■年金
・従業員退職所得法により、退職者の年金受給権が保障されているアメリカでは、企業が倒産した場合は、その年金支払いは連邦機関の1つである、年金給付保証公庫に引き継がれるしくみになっている。
・これによって従業員が毎年積み立てた年金を失うことは回避できるものの、その年金支払い額には、上限が定められているために、かなり減額されてしまう
・2009年6月1日、GMは、11条の破産の適用を申請、65歳以上の退職者への医療保険適用を廃止した
・国民から義務として税を徴収する政府と違い、景気などに利益を左右される企業が社会保障を引き受けること自体無茶な話なのです。特に年金は一度約束すると、後で取り消しがきかない
・世界一医療費の高いアメリカで昔より長生きすれば、当然それだけ、多くかかるようになりますから、処方薬に診察代に入院費、すべて高騰を続けています。
・2005年にアメリカ人の貯蓄率はゼロになりました。
・こどものころから消費することが幸せだと教えこまれてきた人々が、いざ高齢になり医療費請求書の額が跳ね上がったからと言って、急にお金を計画的に使えるようにあると思いますか?
・年金システムは、現役世代の人口が退職する高齢者の数を上回っていたことで機能してきた。だが、世代間人口比率が逆転し、ギャップが拡大するほどに、このシステムの崩壊が加速するだろう
■医療
・2009年に医療費が払えず破産を申請している国民は約90万人、そのうち75%が医療保険を持っている
・医療現場を閉塞させ、医療難民や、破産者を生み続ける原因は、利益と効率を最優先する至上原理の力学なのです
・医療費で破産がでる理由は2つ。医療保険料と医療費が高すぎるからです。
・医療保険は独占市場で競争が存在せず、保険料は上げ放題になっている。
・だから、普通に働いて、収入がある人でも、無保険にならざるをえないのです
・アメリカの財政を瀕死の状態にしている医療費高騰、その大きな原因の1つは、処方薬の値段が企業側の言い値になっていることです
・アメリカでは、薬の値段は完全に自由市場にまかされていますが、値段は上がり続け、政府の薬価支出は毎年20%づつ上昇しています
■刑務所
・アメリカ国内の刑務所では、社会復帰させるための職業訓練や教育は、コスト削減で真っ先に廃止されるのです。
・技術も教育もなしに、巨額の借金だけを背負った若者たちを大量に出所させたらどうなるのか、あっという間に、再犯でUターンですよ
・スリーストライク法、犯罪者が3度めの有罪判決を受けた場合、最後に犯した罪の重さに関係なく、自動的に終身刑にするという法律だ
・ノースカロライナ州が650人の囚人を再安価労働力として、市町村にレンタルしている。実際、彼らはとても優秀な労働者なのです
・刑務所REITは、銀行やウォール街の投資家たちにとって、まさに魔法のような、ローリスクハイリターンの投資信託なのです
目次
プロローグ
第1章 公教育が借金地獄に変わる
第2章 崩壊する社会保障が高齢者と若者を襲う
第3章 医療改革vs.医産複合体
第4章 刑務所という名の巨大労働市場
エピローグ
あとがき
ISBN:9784004312253
出版社:岩波書店
判型:新書
ページ数:224ページ
定価:800円(本体)
発売日:2010年01月20日第1刷詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
前回の【ルポ 貧困大国アメリカ】でハリケーン・カトリーナの救援が民営化で機能しなかった事や貧困層ほど肥満児童となり健康が悪化していることや、医療難民にサブプライムローン問題、そして貧困層の若者が経済徴兵制で、軍隊に入隊するが、そのほとんどが挫折する現状を書いてあり、あのアメリカが!?と愕然とすると同時に、それをお手本に小泉政権が同じ道を歩き始めていた事に気が付いた。
そして今回の【ルポ 貧困大国アメリカ Ⅱ】は、更に悪化しているアメリカ社会にさらなる驚きが書かれていました。
大学への教育費でローン地獄になり、結局学歴を取得するどころか借金地獄でただただ返済のためにだけ底辺の給与で働かざるを得ない若者達。
社会保障の崩壊によって、安心の老後を夢見ていた高齢者に企業支給されるはずであった基金の減額や打ち切りで、さらなる労働を余儀なくされている高齢者。
医療改革を進めようとするオバマと医療業界との対立による無保険者の増大と、遅々として進まない公約であった国民皆保険。
軽微な罪やホームレスなどあらゆる罪で刑務所にどんどん送り込んで低賃金の労働力を得てビジネスにする刑務所の民営化。
これを読んで、アメリカがさらなる疲弊と悪化している社会を知りました。
まだ、これなら日本の方がましかなと思うが、結局政治に終わりはなく、声を上げ政治家を当選させた後にその政治家に仕事をさせるよう更なる声を上げることが大事なのだとつくづく感じました。
オバマが今その岐路に立っているし、結果を問われるときに入っているのだと思いました。 -
アマゾンの感想では、「これは日本の近未来かもしれない」という声が多く聞こえた。声は届き始めている。これが、前回彼女がこれを書いたときと違う一番大きな情勢であろう。潮の目が変わっている。最後の最後に堤未果は自らこのように書く。「チェンジは待つものではなく起こすものだという人々が、リーターに丸投げする代わりに自らのビジョンを描き、未来を創るプロセスに参加し始めたとき、真のチェンジは訪れるのだろう」
というのが2010年3月に書いた感想だった。しかし、2014年12月の今、この警告は日本の僅かにしか届いていないことが現実なのだということが明らかになっている。 -
堤未果さんによるアメリカ取材レポの続編。
軍事、医療、教育、そして刑務所の民営化によって、アメリカは取り返しのつかない所まで来てしまった。
そもそも奇妙な国だと思ってはいたが、ここまで腐敗しきっているとは思わなかった。
露骨な差別ができなくなった今、ある意味、ナチのユダヤ排斥よりもずっと恐ろしい形で、貧困層と有色人種を奴隷化し始めている。
新自由主義という名の元にかつての南軍は北軍にリベンジしようとしているのか?
自由も平等もごく一部の白人キリスト教原理主義者のためのもので、これは一神教によくある排他性でもあるのだが、彼らは南北戦争の頃と何ら変わっていない。
所詮移民たちを自国民ではなく奴隷としてしか見ていないということがわかる。
日本はドイツやイギリスなどの北ヨーロッパのシステムに学ぶべきで、アメリカは反面教師にしなくてはいけない。決してアメリカの轍を踏んではならない。 -
前著では「行き過ぎた市場原理」がテーマだったが、本書は
リーマンショックや政権交代後のアメリカについてである。
悪者ブッシュを追い出して新政権が誕生したのに状況は前よりも悪くなっているのは何故か。
内容としては、学資ローン、年金、医療、刑務所ビジネスについて取り上げている。
それら個々の問題を突き詰めていくと、弱者を食い物にして利益を得るものの存在が明らかになった。
それは「キャピタリズム(資本主義)」というより、むしろ
「コーポラティズム(政府と企業の癒着主義)」だった。
やがて世界を飲み込もうとするしたそれらに対して私たちは何ができるのか。
その答えは「Move Obama」つまり
「政府を動かすために我々も変わろう」という国民の意思と行動である。
これは政権交代を繰り返す日本の私たちにとっても決して他人事ではない。
国は1,2度の政権交代では変わらないのだ。 -
「ルポ 貧困大国アメリカ」の続編。
2010年1月20日初版…つまり、「オバマ後」のアメリカをルポした内容になっている。
学生、若者と老人、病人、そしてあろうことか囚人までもが引き続き食い物にされている実態をもとに、その問いに答えようという本である。
なんとも恐るべき、“支配者階級”の欲望。そしてターゲットは、貧困層やマイノリティばかりではなく、先日まで普通の生活を営んでいた中流層にまで及んでいく。
拝金国家・アメリカは本当に病んでいる(そして、日本にとっても決して対岸の火事ではない)と思わせられる、本当にショッキングな内容である。 -
【ノート】
・前回に引き続き、あまり愉快な気分にはなれないアメリカのお話し。ただ、冷泉さんの「アメリカは本当に「貧困大国」なのか?」を読んだ後なので、若干、のめり込み過ぎずに読んだ。
・とは言え、やはり衝撃的な証言の数々には慄然とする。特に保険制度の改正については、推進派、反対派、そして現場の医師などに対する取材により、単に国民皆保険にするだけでは問題が解決しないという複雑さを浮かび上がらせている。
・前著では国民貧乏にすりゃ、徴兵しなくても入隊するしか選択肢がないという状況に慄然としたが、今回もそれに匹敵するインパクトの取材が。その名も「刑務所ビジネス」。囚人達は最低賃金を遙かに下回る賃金で働かせることができ、それを企業が労働力として利用する(!)。更に加えて、その賃金の低さに加えて、民営化された刑務所(!)ではトイレットペーパーの使用料まで囚人から徴収し、出所したら、ムショ暮らしの間に借金ができてしまっているという、出口ナシ状態。加えて、アメリカでは刑の軽重に関わらず3回、有罪判決を受けたら問答無用で終身刑だそうで、この制度の名が「スリー・ストライク」。ふざけてんじゃないかというこのネーミングもさることながら、服役している刑務所暮らしにさえコストがかかり、出所したら既に借金まみれって、絶望的におかしくない?
・アメリカがこんな大変な状況なのだとしたら、それを打開するために自らの経済的権益を拡張する手段としてTPP(不勉強だが)などを強行推進するのも、もっともな話だと思えてくる。 -
前作に続き、米国の中流階級以下の人々の貧困地獄を描いている。救世主として熱狂的に支持したオバマ大統領も、結局支持基盤である産業界の意向を受けて、抜本的な医療保険改革や教育改革を行わず、イラクやアフガニスタンへの派兵を拡大させるなど、ブッシュ政権下の貧困化現象を悪化させてしまい、支持率を急落させたという。
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2009年1月にオバマ大統領が就任した。この本はその1年後の2010年1月に出版されている。医療制度改革など人々が何をオバマ大統領に期待したのかが描かれる。
本書では、学資ローンにより学生が借金地獄に陥る実態、医療制度改革が製薬会社や保険会社のロビー活動により骨抜きにされていく実態、刑務所が低賃金労働者を供給する民間企業の一部となっている実態などをインタビューを中心に明らかにしている。
ニューヨーク州では、スリーストライク法により、3度目の有罪判決を受けると、犯罪の内容にかかわりなく、終身刑を受けることになっているという。一方、刑務所は運営の民営化が進んでおり、時給40セントで労働させられ、部屋代と医療費で毎日2ドル引かれるなどしており、最終的に刑務所を出るときには借金を抱えることとなり、社会復帰がさらに難しくなる。アメリカ国内の大手通信会社の一つ、エクセル・コミュニケーション社は電話番号案内のオペレーターを刑務所に委託している。塀の外なら最低でも月900ドルの給与と社会保険等の経費が掛かるところ、囚人を雇えば、月180ドルで福利厚生費は一切かからない。こうしたことから、以前は第三国に委託していた業務も最近では刑務所に委託する企業が増えているという。今では刑務所REITが安定的な収益が期待できると人気になっているほどだ。
アメリカ社会は一体どうなってしまったのだろうか。オバマ大統領も結局アメリカ社会を変えることはできなかった。そして、今度はトランプ氏のような過激な発言で民衆を煽る人が大統領候補として人気を博している。アメリカ社会の分断の状況は深刻だ。