子どもの貧困II――解決策を考える (岩波新書)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314677

感想・レビュー・書評

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  • 私たちが問うべきなのは、この「機械の不平等」を是正するために、どれくらいの費用を社会が負担するべきかという問いである。その相場観を得るためには、逆に、貧困を放置すれば、どれくらいの社会の損失になるかを知ることが有益である。(p.25)

    肝心なのは、この「できることをやる」姿勢である。まず、本章で紹介したさまざまな経路の中でも政策的に介入できるものと、介入できないものがある。たとえば、「職業」を介する影響に政策的に介入することは難しい。自営業の親の店舗や会社、政治家の親の地盤などを子どもに渡すなとは規制できない。一方で、教育投資や医療サービスなど、すでに政府が大きく関与している部分もあり、そこには、より貧困の子どもを支援する仕組みを組み込めるであろう。(p.71)

    子どもを「将来の人的資本」と見なし、貧困の不利を解消する政策を、「人的資本政策(Human Capital Policies)」として論じている経済学者も少なくない。貧困に対する政策をただ単に「かわいそうだから」という論理ではなく、「社会に対する投資」という論理で考えるという点では、この領域の学問にも説得性はある。(p.90)

    数ある政策の選択肢の中から実施する政策を選ぶために、長期的な収益性の観点が欠かせないことである。子どもの貧困に対する政策は、短期的には社会への見返りはないかもしれない。しかし、長期的にみれば、これらの政策は、その恩恵を受けた子どもの所得が上がり、税金や社会保障を支払い、GDPに貢献するようになるので、ペイするのである。すなわち、子どもの貧困対策は投資なのである。(p.96)

    貧困に対する対策には、「川上対策」と「川下対策」がある。「川上対策」とは、貧困が発生する前に手を打つ策である。すなわち貧困をつくりださない社会の仕組みや制度を構築する政策を指す。たとえば、義務教育の徹底や、最低賃金などの労働規制や、誰でも受診できる医療サービスなどがこれにあたる。一方で、「川下対策」とは、貧困に陥ってしまった人々が最低限の生活を保てるようにする策である。生活保護制度や就学援助費のような現金給付や、低所得者のための無料低額医療サービスの提供などがわかりやすい例である。二つの政策の決定的な違いは、「貧困者」や「弱者」を選別するかどうかである。(p.102-103)

    ある地方議員の話でショックだったのが、「市民にとって、生活保護受給者はもはや憎しみの対象になっている」という言葉である。市民の「最後のセーフティネット(安全網)」であるはずの生活保護制度がこのような言葉で語られるのは、日本の社会政策の歴史の中でも最も大きな失敗である。ターゲティングの執行の際は、このような失敗が起こらないように細心の注意と工夫が必要なのである。(p.129)

  • ◆前著「子どもの貧困―日本の不公平を考える(http://booklog.jp/item/1/4004311578)」で提起した問題に対して、本書はその対策について模索しています。前著で示された「子どもの貧困」がもたらす最大の問題は、子どもがスタートの段階から大きな不利をこうむっていることと、子ども時代のそれが一生尾を引くということです。
    ◆ところが”ちまた”では、「貧しい家庭の子でも自力で努力して裕福になった人はいる」だとか「貧しいのは、学歴が低いのは、努力が足りないからだ」といった声も根強いようですね(私感ですが)。まして、そうした人たちに現金を給付することについて強い抵抗があることは間違いありません(例えば生活保護制度)。著者が前著と本書で最初にとりかかっているのは、まずこの「常識」に異議を唱えることです。

    ◆本書は、前著と比べるとかなり難しいです。というのも、前著は「子どもの貧困」という”わたしたち”の問題でしたが、本書はそれを解決する政策に踏み込むものであり、それは基本的にわたしたちには縁のない話だからです。

    ◆とはいえ本書は、より多くの人に「考えてもらうための本」であって、考えながら読めば、社会福祉の立派な入門書になるのではないかと思います(なにより説明が現実でとられている・とられてきた貧困対策に即しているし、抽象的な説明が続くような小難しい入門書よりも分かりやすい気がするのです・・・^^;)。

    ◆本書では、具体的な政策をどうするかという最大の課題がまだ残されています。「子どもの貧困」という問題に対して、「だれに」「どの段階で」「なにを」「どのように」手助けを行うべきなのかということは、これからの「子どもの貧困」対策、ひいては親への支援も合わせた(いちばん小さな”社会”の単位としての)家庭の支援を体系的に考えなくてはいけません。本書は、そのためのもっとも基本となる武器を与えてくれる本だといえるでしょう。

    ◆早い話が、お勧めの一冊です。

  • 実態紹介に終始せず、施策の可能性について論じてあるの点が凄い。そんなに簡単にいく内容・問題ではないが、いろいろ試すことは必要だと思う。

  •  子供の貧困の連鎖を断ち切る有効な対策を、費用対効果、限られた予算、国民的合意レベルなどを踏まえ、多面的に模索されている。
     詳細なデータの裏付けや、問題解決を検討するプロセスが論理的で、価値観を超えて多くの人々が納得できる提言になっている点は、さすがだと思った。
     「子どもの貧困対策法」という法律ができるなんて数年前には想像もできなかった。それだけ事態が深刻である一方で、国民的合意が進んだということ。自分自身も何ができるか考えたい。

  • 6月新着

  •  前著『子どもの貧困―日本の不公平を考える』(http://booklog.jp/users/ayahito/archives/1/4004311578)を踏まえ、では実際にどうやって子供の貧困問題についての対策を立てていくか、社会学の立場から多くを提言している。
     
     そでに「社会政策論入門としても最適な一冊」とあるように、専門色の強い一冊だと思う。特に政策とその効果をどう測定するか、などといったことはかなり難しく感じた。
     
     そんな中で「なるほど」と思ったのは、政策提言の中の一つ。私なりにまとめるのであれば「現金給付中心から段階的給付へ」ということ。特に母子世帯は貧困で苦しんでいる率が高いので、子供が小さいうちは家計についてのストレスを払しょくし、子供へのストレスを最小限にする。そして子供が成長していくにつれ、学校や学習で必要なものを支給していくという考え方。
     
     「現金」か「物」か、という二元論ではなく、段階に応じた支援が効果的であり、支持されやすいだろうと感じた。

  • 阿部彩『子どもの貧困II』岩波新書、読了。『子どもの貧困』を広く訴える契機になった前著のアップデートされた続編。現状で考えられる「解決策を考える」(副題)一冊。何から手をつければいいのか。プライオリティの高い政策はどれか。ひとつひとつの仮題を具体的に検討する。子どもの貧困に限らず気が付くと弱者に転落せざるを得ないのが日本社会の現在。もう、無責任な自己責任はやめよう。

  • 先進20カ国で子供の貧困率 第4位 14。9%
    再分配後の貧困率 日本のみ、再分配前より高い

  • 貧困の子供を救うには、全ての子供を対象にした普遍的な制度の効果が高い、は意外でした。

  • 統計や論文を多用した、研究者らしい一冊。
    説得のためなのか、前半は貧困対策を投資に見立てた経済効果を全面に押し出した論調が続く。
    後半で印象的だったのは、現金給付と現物給付の比較。ここまで詳細に検討されたものは未だ見たことがなかった。

    まずは定時制高校と母子家庭に厚い支援を制度化すべきなんじゃないのかなー。

  • 子どもの貧困についての政策をすすめるために、指標の設定、つまり「測る」ということ。政策の有効性についての効果も
    「測る」こと。正当な意味でのでのアカウンタビリティに挑戦しようとした本。ただ、その「測る」が欧米の指標を参考とするしかない点(現状ではそれしかない)が物足りない。これは筆者の責任ではないが。
    福祉の中に「生活指導」要素。自治的、自立的要素を考える必要がある。
    竹内常一さんの「教育と福祉の出会うところ」の提言が改めて重要な意味を持つ。

  • 結局・・・対策としては「人的なサポート」ということなのだろうか。
    ボランティアなどのメンター制度が一番なのに、結局・・・、行政も国家予算も、ここんとこにはお金を出さない。
    その辺の日本土壌について掘り下げてほしいものだ。

  • 著者の実直の研究成果と主張に胸を打たれるとともに、自分の無知を嘆かざるを得ませんでした
    子供を持つ人はもちろん、一人でも多くの人に読んで欲しい内容です

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    子どもの貧困―日本の不公平を考える (岩波新書)2008
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著者プロフィール

首都大学東京教授

「2017年 『20年後、子どもたちの貧困問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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