ものの言いかた西東 (岩波新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784004314967

感想・レビュー・書評

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  • 一見、方言の東西比較の本かと思った。方言論には違いないが、一つ一つのことばがどうのこうのというより、いわば言語行動の方言論である。よくしゃべるとか無口かは個性と言える面もあるが、それが傾向として大きな集団について言えれば方言の違いということになる。より正確に言えば、方言の地域区分による言語行動、言語パターンの違いの論である。小林さんは東北(新潟)の出身で、東京を経て仙台に就職した。澤村さんは山形仙台を経て和歌山に就職した。小林さんは東京を経験し、澤村さんはおそらく関西圏のことばに日々触れつつあるのだろう。本書はこの二人の研究を下敷きに、多くの先行論文のデータで補強し、方言による言語行動のパターンを7つに定式化するとともに、それがなにゆえそうなったかを歴史的にさぐっている。その7つというのは、(1)発言性―口に出すか出さないか(2)定型性―決まった言い方をするかしないか(3)分析性―細かく言い分けるかしないか(4)加工性―間接的に言うか直接的か(5)客観性―客観的に話すか主観的か(6)配慮性―ことばで相手を気遣うか気遣わないか(7)演出性―会話をつくるかつくらないか である。(1)はたとえば、おしゃべりか無口かで、お礼を言う人は文句もいい、この傾向は近畿を中心とした西日本と関東に強く東北では弱いというようにである。また、(2)について言えば、東北の被災地で介護にあたった女性は「おはようございます」と言っても挨拶を返してくれなかったことにショックを受けたが、これは、東北ではそうしたときの定型のことばがなく、「おはようーはい」とか「はやいね」のような言い方をするからだそうだ。(3)の分析性では大阪弁が「言え、言い、言うて」のように命令形をいくつも言い分けるとか、痛いときに西日本では叙述と感嘆を「いたい/(あ)いた」と言い分けるのに、東日本ではどちらの場合も「いたい」ですませるといったふうに違いがあるという。いくつもの意味をもつ「どうも」が東北を中心としてよく使われているというのもこのタイプである。(7)では、観光バスのガイドさんがなにかしゃべったとき、関西の人はすぐに反応するが、これはめだちたがりというより、いっしょに会話をつくっていこうという配慮がそこにあるからだという。ぼくは関西の出身で、豊橋にきてすでに40年近くになるが、ここで言う西日本特に大阪人の言語行動はほぼ自分にあてはまる。本書はそうした、人々がなんとなく感じていたことを多くの研究成果を駆使し、大きな論をつくりあげている。その結論は方言周圏論を思わせるものであり、筆者たちはそれを(価値の優劣を含めない)言語発達の段階の違いと述べるが、それは未発達な地域が今後発達地域のあとを追いかけるのではなく、そこでの特徴をより発揮させる方向へ進んでいることを強調している。たとえば、東北方言はオノマトペや感動詞に富むが、それは東北方言が身体化された言語を発達させているのだと言う。各章にまとめがあり、8章にさらにそのまとめをおき、9,10章でその原因を論じる。本というのはこのように全体に体系性がもとめられるのだが、本書はまさにそれを徹底的に具現化したものである。(そこに、「どうだ」という筆者たちの誇らしい顔も浮かぶが)

  • 面白かった!言うか言わないかも方言なんですね。日本全国のあちこちに親戚がいるので色々と地域差があることは感じていたけど、その説明を読んだのは初めてでした。勉強になりました。

  • 方言というか地位ごとのコミュニケーションカルチャーについて。本書の分布図を見てみると地域ごとの違いが分かって面白い。

    東北って意外と冷めた文化なのか。地方はホスピタリティがあるイメージだったからちょっと意外。

  •  ものの言いかたには違いがあるが、特に目立つのは関東と関西だ。人の話し方は、話す人の個性に関係していると思われがちであり、それが事実と言う面もある。しかし、著者はものの言い方にも明らかに地域差、つまり「方言」が存在すると述べている。


    読んでいて著者も例に何度も上げている関西は目立つなあ。特に読んで「へえー」と思ったが、「自己と話し手の分化」だ。尾上圭介の『大阪ことば学』での「当事者離れ」という話し方を取り上げている。「ヨー言ワンワ」だ。この表現は、「あきれて、私は何も言えないよ」を意味する。しかも「その場の状況のバカバカしさを、遠巻きに眺めている雰囲気が漂う」として、第三者であるかのように振る舞う言い方に注目している。「主観の視点を瞬時に客観に切り替える」やりかたは、他の地方、特に東北人にはできないテクニックだと述べている。


     ものの言い方と地域が深くつながっているとは。関西の方の場合、地域の環境で「ボケやツッコミができるおもろい人」が出来上がるとは思っていたが、そのほかの地域でも周りの環境が大きく左右しているのだなあと思った。

  • 方言も含めた会話の作法の違いを明らかにしようと試みる一冊。
    おしゃべりなのか、無口なのか、この要因を個性だけに求めるのではなく地域差に求めている。もちろん東北の人が無口で、関西人は多弁という大方の予想が変わることはないし、都会と田舎の違い、中心部か周辺部かによる差異もその通り。これを具体的なデータで検証しているところがオモシロい。方言の中には感謝表現を持たない地域があるってのにはびっくり。
    相手に気を遣い、客観的な会話ができるのが関西圏なのだという指摘はその通りだと思う。だからと言ってそれが誠実かどうかは別問題とする著者は東北出身なんだけどね。

  •  冒頭で、歌謡曲を通して『無口』と『おしゃべり』を論じるにあたって、ドラマの役柄、言うならば実在していない歌手の歌を例に挙げたくだり(p.15 l.5)には、正直「色々な意味で本当に分かって書いているんだろうか」と面喰ったが、それ以降はおおむね興味深い内容ではあった。

     実際に関西、東北に住んでいる人たちにとっては「何を今さら」と言った内容かも知れないが、何気なく話している言葉、方言、言い回しは、実は知らず知らずのうちに成り立っている定理や原則みたいなものの上にあるようだと理解できた。

     ものの言い方の地方差については、まだ研究が進んでいない分野だという。もし可能ならばいつか研究の続きを読みたい。

  • 方言の違いではなく、そもそも言葉を語るのかどうか、文化面の比較。関西では「口数が多く、お喋り」が多いというのもアンケートから間違いなく検証できている!7つの言語的発想法の側面で全国をコミュニケーション発達区分4つに分けている。即ち①発言性、②定型性、③分析性、④加工性、⑤客観性、⑥配慮性、⑦演出性ということ。喧嘩を売るとき、お祝い・お悔みの言葉とその返答、飲食店を出るお客様が発する言葉など、関西・東北の違いはあまりにも対照的で楽しいほど。これがコミュニケーション・ギャップを生んでいる可能性もあり、怖さもある。一方、東北のオノマトペの種類が豊富との指摘は面白い。長い歴史の中での人口密度との関係を書いているが、私としては気温が関係しているのではないかとも考えるが。震災のボランティアについてもこのような場面があったとの指摘があった。「おはよう」「しまった」「どうも」「ありがとう」などの全国的な使い方の調査は実に楽しい。「おはよう」と言わない地域の存在は関西人としては考えられない世界。

  • <目次>
    序章   ものの言い方にも地域差がある
    第1章  口に出すか出さないか
    第2章  決まった言い方をするかしないか
    第3章  細かく言い分けるかどうか
    第4章  間接的に言うか直接的に言うか
    第5章  客観的に話すか主観的に話すか
    第6章  言葉で相手を気遣うかどうか
    第7章  会話を作るか作らないか
    第8章  ものの言い方の発想法
    第9章  発想法の背景を読み解く
    第10章  発想法とはどのように生まれ、発達するか
    終章   ものの言い方を見る目

    <内容>
    HONZ推奨の一冊。最初の方の分析はやや重かったが、分析に入る第8章以降が私には面白かった。
    「方言」だけではなく、「ものの言い方」にも地域差がある、という視点からの分析だが、そこには七つの発想法がある。①発言性 ②定型性 ③分析性 ④加工性 ⑤客観性 ⑥配慮性 ⑦演出性 いずれも近畿~東海(一部関東)が発達していて、東北と九州南部は未発達に近い とする。その要因は言語環境にあり、それは社会環境にあるとする。そうして歴史的な話に展開し、人口が集中し(中世以降)、商業の発達が関係していると説く。現在は関東に人口の集中や商業・情報は集中しているが、言語発達の歴史からみると、まだまだ未発達のようだ。こうした分析が面白く(結構当てはまっている気がする)、最後はあっという間に読めた。

  • 勉強になりました。

著者プロフィール

傳承文化研究所所長。百人一首や和歌を中心に記紀万葉集等の古典研究を通して、日本語と傳統文化を広げる活動と同時に歴代天皇御製研究を行っている。

「2023年 『天皇御製に學ぶ日本の心〜室町・戰國編〜』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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