アムンセンとスコット (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022620583

作品紹介・あらすじ

人類未踏の地が極点一帯を残すのみとなった20世紀初頭。南極点到達に向けて、ノルウェーのアムンセン隊とイギリスのスコット隊が出発した。敗れた側が帰途に全員遭難死するという悲劇的結末を迎えた史上最大のレースは、なぜそうなったのか。勝った側と負けた側を同時進行的に追う。(解説は山口周氏)【目次】はじめに1宿命の対決2極地とは3二人の生い立ち4南極大陸へ5前哨戦6「その前夜」の越冬7南極点への旅立ち8山岳地帯を越えて9アムンセンの勝利10スコットの敗北11アムンセン隊の大団円12スコット隊の悲劇13二度目の春14アムンセンの遭難

感想・レビュー・書評

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  • 本多勝一(1932年~)氏は、長野県生まれ、千葉大学薬学部卒、京大農学部卒、朝日新聞社に勤務した、新聞記者・ジャーナリスト・作家。京大在学中に山岳部に所属し、今西錦司、梅棹忠夫等から探検やフィールドワークのノウハウを受け継ぎ、ヒマラヤ遠征などを行う。朝日新聞社入社後も、国内外各地の現地を行い、『極限の民族』三部作(『カナダ・エスキモー』、『ニューギニア高地人』、『アラビア遊牧民』)、ベトナム戦争、アメリカにおける黒人やインディアンの問題などの様々なルポルタージュを発表し、注目を集めた。『日本語の作文技術』(1976年出版、1982年文庫化)は、続編を含めて累計発行部数100万部を超えるロングセラーとなっている。菊池寛賞等を受賞。(尚、本多氏の政治スタンス及びそれに基づく様々なコメント等については、本書とは無関係なので、ここでは問わない)
    私はアラ還世代で、ノンフィクション系の本はよく読むものの、本多氏(の著作)についてはこれまで触れたことがなかったのだが(意識して避けていたわけではない)、少し前に、角幡雄介氏の『新・冒険論』の中で、本多氏の冒険論こそ日本の冒険論の嚆矢、と書かれていたのを見て、本多氏の作品を読んでみたいと思っていた。また、私はこれまで、チェリー・ガラード『世界最悪の旅~スコット南極探検隊』、シャクルトン『エンデュアランス号漂流記』、ツヴァイク『南極探検の闘い』や、角幡氏の『アグルーカの行方~129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』などを読んで(極地)探検には関心があり、新古書店でたまたま本書を目にし、読んでみた。
    本書は、題名の通り、20世紀初頭に南極点初到達を巡って繰り広げられた、ノルウェーのアムンセン隊とイギリスのスコット隊の大レースについて、なぜ、アムンセン隊が勝ち、スコット隊が敗れた(しかも全員が遭難死した)のかを、両隊の状況を同時並行的に記述して、考察したもので、『本多勝一集 第28巻 アムンセンとスコット』(1999年)の前編「アムンセンとスコット」の初めて文庫化である。
    読み終えて、私は上記の通り、ガラードやツヴァイクの書いたものは読んでいたので、スコット隊の様子は知っていたものの、それをアムンセン隊と対比すると、ここまで明確に勝ち負けの要因がはっきりすることに少々驚いた。本多氏が本書を書いた主たる目的が、勝敗の分析にあるので、それが明確に浮き上がるのは当然のことなのだが、こうした競争には必ず勝者と敗者がいるのだということを強く再認識させられた。
    勝敗の要因については、アムンセンが根っからの極地探検好きだったのに対し、スコットは海軍出身で隊長に任命された立場であったこと、アムンセンが徹底した事前調査に基づき完璧な計画を立てて遂行したのに対し、スコットはしばしば感情に流されて計画を変更したこと、また、技術的には、アムンセンが犬ぞりを主力としたのに対し、スコットは馬ぞりを使ったこと(これもいわば事前調査・分析の差だが)などがあるのだが、本書では、コンサルタントの山口周氏が解説を書いており、次のような分析をしている。一つは、「マネジメントの側面=権力格差(リーダーとメンバーの間の権力の差)の大小」で、アムンセン隊はこれが小さかったのに対し、スコット隊はこれが大きく(スコットが隊長になった経緯から当然と言えるが)、南極探検という不確実性・不透明性の高い環境においては、前者のようなリーダーシップが有効だったという。もうひとつは、「パーソナリティの側面=内発的動機の有無」で、これは上述したように、南極探検に関しては、アムンセンが「内発的動機により、夢中になる人」であったのに対し、スコットは「外発的動機により、一生懸命頑張る人」であり、「頑張る人は夢中になる人に勝てない」ということを示しているという。なるほどである。
    二人の勝負は、確かにアムンセンの完勝に終わったのだが、後の記録や作品については、寧ろスコットに関するものの方が多いと思われ、歴史が敗者に優しかったことは救いといえるのかも知れない。
    (2024年4月了)

  • 我慢するのが美徳だと思っている日本人どんまい

    自分らの基準で残酷だ野蛮だちゅーのは危険
    異民族との接触が少ない歴史をもつ日本人の弱点

    えーエスキモーが自殺なんて絶対やめてほしい
    そういうのめっちゃ無縁そうなのに自殺者数が日本の30倍てやばすぎ
    レーダー基地の人間とかもうエスキモーのためを思うなら一切関わらないでほしいわ

    こんなすごい文化がまもなく地球上から消える運命なんて悲しみ

  •  しあし、権力格差の大小はどのようにしてチームのパフォーマンスに影響を与えるのでしょうか? 南カリフォルニア大学の組織心理学研究者、エリック・アニシックは、過去五〇年分、五六カ国のエヴェレスト登山隊(計三万六二五人)のデータを集め、登山隊の出身国の権力格差と遭難事故の発生率について調査しました。この結果から、権力格差の大きい文化圏の登山隊の方が、他方の登山隊と比較して、死者が出る確率が著しく高いということが明らかになりました。ちなみに単独登山の場合、死亡率と権力格差になんの相関も見られません。これはつまり、死亡率の格差は、国別の登山技術や体格ではなく、純粋に組織的要因によって生まれるということです。
     権力格差の大きいチームでは、地位の低いメンバーが発言を封じられることで、彼らの発見、あるいは懸念、あるいはアイデアが共有されず、結果的に意思決定の品質が悪化するのです。これは、想定外のことが次々に起き、リーダーの認知能力・知識・経験が限界に晒されるような環境下では致命的な状況と言えます。
     一方で、アシニックの研究で非常に興味深いのは、
    想定外のことが起きないような安定的な状況においては、権力格差の大きさは、むしろチームのパフォーマンスを高めることがわかってます。そのような状況では、リーダーの意思決定が上位下達され、一糸乱れず実施される組織の方がパフォーマンスが高いのです。これはつまり、リーダーの認知能力や知識・経験の範囲内で対処が可能な状況においては、権力格差の大きさはチームのパフォーマンスにプラスの影響を与えるということです。
     よく「理想的なリーダーシップ」といったことが語られますが、そんなものは存在しません。リーダーシップというのは極めて文脈依存的なもので、どのような状況・環境においても有効に機能するリーダーシップなどというものはあり得ないのです。
     アムんセンとスコットの対比に関して言えば、アムんセンによる、権力格差の小さいリーダーシップは、南極点到達という、極めて不確実性の高い営みにおいては有効に機能し、一方のスコットによる、権力格差の大きいリーダーシップは、有効に機能しなかったわけですが、だからといってここから「どのような状況においても権力格差の小さいリーダーシップが有効なのだ」と断ずるのは暴論でしかありません。
     この示唆を、現代に生きる私たちに当てはめてみればどのようになるでしょうか? 当時の南極は、前人未到の大地であり、そこがどのような場所であるかはよくわかっていませんでした。それはまさに、現在の我々にとっての「これからやってくるアフターコロナの世界」のようなものです。このような不確実性・不透明性の高い環境において有効なリーダシップとはどのようなものか? について考える題材を本書は与えてくれると思います。

     次に「アムンセンとスコットの圧倒的大差を生み出した要因」についての二つ目の点、すなわち「パーソナリティの側面=内発的動機の有無」について述べたいと思います。
     内発的動機というのは「好奇心や衝動、内側から湧き出る感情によって喚起された動機」ということです。一方、たいち概念となる外発的動機というのは「評価や賞罰等、外側から与えられた刺激によって喚起された動機」となります。言うまでもなく、本書の文脈で言えば内発的動機の持ち主がアムンセンであり、外発的動機の持ち主がスコットということになります。別の言葉で表現すればアムンセンは「夢中になる人」であるのに対して、スコットは「一生懸命頑張る人」ということになります。そして、これまでになされた数多くの動機に関する研究は「頑張る人は夢中になる人には勝てない」ということを示しています。本書は、この命題を詳細に説明する事例として非常に優れたものだと思います。
     アムンセンは、同じノルウェイ出身の探検家フリチョフ・ナンセンによるグリーンランド横断に感動して、十六歳の時に探検家になることを決意しています。その後は、ありとあらゆる探検記を読み耽って成功・失敗の要因を分析する等、知識レベルでの研鑽を積み重ねる一方で、極地の寒さに体を慣らすために真冬に窓を開け放って寝たり、あるいは極地で必須となるスキーや犬ぞりの技術を身につけたりといった身体レベルでの研鑽を積み重ねており、人生のあらゆる活動を「極地探検家として成功する」という目的のために一分の隙もなくプログラムしていきます。
     一方、スコットはもとから告知探検に興味を持っていた人物ではありません。スコットはもともと提督になることを夢見て海軍に入隊しています。おそらくは謹厳実直で非常に優秀な人物だったのでしょう、知り合いの有力者から「南極探検の隊長に最適の人物」と推挙され、おそらくは本人もその抜擢が海軍での出世のチャンスになると考えたと思いますが、最終的にこれを引き受けてあむんせんと争うことになります。
     このくだりはさらりと読み過ごしてしまいそうな箇所ですが、私は非常に切ないものを感じるのです。というのも、南極探検の太陽を引き受けて欲しいというオファーに対して、二日間これを預かったのちに、引き受ける旨の返事を出しています。この「二日間」という微妙な時間に、スコットという人物の優柔不断さがよく出ていると思います。もとから極地探検のような営みへの志向性を持った人物であればその場でそ即答したことでしょう。
     こういった抜擢人事は現在の企業においてもよく見られます。多くの企業において「未踏の領域へと踏み出すイノベーションプロジェクト」のリーダーは、それまで高い実績を出してきた謹厳実直で優秀な人材が抜擢されます。そして、これまでのイノベーションの歴史が明らかにしてくれているように、このようにして抜擢された「頑張る人」は内発的同期に駆動された「夢中になる人」には結局、勝てないことが多いのです。
     しかし、なぜ「頑張る人は夢中な人には勝てない」のでしょうか? 本書を読めばその答えはよくわかると思いますが、一言で言えば「夢中な人」と「頑張る人」とでは「累積の思考量が全く違う」のです。特にこのケースの二人を比較してみれば、アムんセンは一〇代からすでに極地探検になるための知識の蓄積・t実地の体験を積み重ねてきたのに対して、スコットは南極探検隊隊長のポジションを打診されてから、言うなれば付け焼き刃的に知識やスキルを詰め込んだに過ぎません。このように比較してみれば、二人の累積思考量の違いには天と地ほどの開きがあったことでしょう。この思考量の違いが最終的に大きなパフォーマンスの違いになって現れるのです。

  • リーダーがチームの将来を変えてしまうことがよくわかる素晴らしい書籍であった。

    アムンセンがゴール(南極に行き無事に帰ってくる)達成に向けて綿密に計画(自分達のそりを引く犬を殺す、食糧にする。その見立てが想定通り)を立てる一方、スコットの準備不足が勝負を分けた。
    本書の解説でも記載があったように、内発的動機で立ち向かっていく人に頑張る人(外発的な刺激で立ち上がる人)が勝てないんだということが戒めとなった。
    また冒険小説、リアルサバイブ小説としても本書は面白い。

  • アムンゼンとスコットの違いを、具体的なデータ•事実関係の積み上げから考証した労作。「隊員に対してひたすら従順であることを要求」していた可能性のあるスコットに対し、「隊員の自主性を尊重するチームワークで運営した」アムンセン、という巻末解説も説得力がある。


  • 2023年の1冊目。昔、小学校か中学校の教科書で、アムンセンとスコットの話を読んだ気がする。本書は同時並行的に二人の南極点への冒険を追いかけるノンフィクション。

    用意周到でスムーズに冒険を遂行するアムンセン隊と、やや場当たり的で、次々と想定外の困難に遭遇し、最後は全滅してしまうスコット隊。あまりに対照的な両者の物語は、組織のありかた、リーダーシップなどについて、多くの示唆に富んでいる。中でも、解説で山口周さんが指摘しているように、一生懸命頑張る人(スコット)は、夢中になる人(アムンセン)には勝てないという点が印象的だった。内発的動機(好奇心や衝動。「冒険が好き」)は、外発的動機(評価や賞罰。「軍で抜擢された優秀な隊長」)よりも強いということ。

  • 冒険譚自体も非常に興味を惹かれる内容だが、そこからの学びもある。

  • 人類初の南極点到達レースがドキュメント調に描かれています。アムンセン隊とスコット隊の行動が並行して描かれており、思わず続きを読みたくなってしまうような臨場感にあふれていました。

    最近再版された本書ですが、大きな困難に打ち勝ちことを成功させる要因は何か、ということが見えてきます。自分が感じたところを、まずは3つ挙げていきたいと思います。

    1つ目は、ことを成すにあたっては、心から夢中になれるよう、自分自身の意志からスタートすることが大切だ、ということです。

    他人からから依頼されたからやる、という義務感ではなく、自分自身がやりたいからやる、心から自分が没頭できるようなことを自ら進めていく、ということが大事なのではないでしょうか。

    では、ことに臨むに当たり、そのような心持ちになるにはどうしたらよいのでしょうか? 

    答えとしては(逆説的ですが)「夢中になれるような仕事やことを自分自身で選ぶこと」なのではないかと思っています。もちろん、組織に所属していたら、全てにおいてそういったことを選択していくのは難しいでしょうが、仮にそういった自分が夢中になれることを仕事にできる環境を得た場合、それはめったにないチャンスなのですから、そういった機会を逃さず大事にしていくというおとが重要なのではないかと思います。

    また、はじめはそうでなくとも「興味を持ち色々と調べること」により夢中になれるような気がします。興味を持って色々と調べれば自然に思考量が増え、それにともない事前準備をし、それがさらに成功に近づき…といった好循環に持っていける。本書に書かれているアムンセン隊のスタッフがどういった心持ちだったかはわかりませんが、アムンセン隊の成功体験からは、そういったことが読み取れるのではないかと考えています。

    2つ目は、リーダーとして振舞う場合、メンバーに参加意識を生み出すようなリーダーシップや行動が必要である、ということです。

    本書でも、アムンセンは自分なりの答えを持っている問いをあえてスタッフに意見を求めたりしています。また、最終的に南極点に到達したスタッフに対し、リーダーではなく仲間とともに旗を立てよう、と提案したのはこのことを著す象徴的なシーンであるとも思います。

    危機管理やプロジェクトの進め方といった本を読み込んでいくと、時々「権威勾配」「権力格差」というワードが出てきますが、こういった困難に打ち勝つような場面では、一人でぐいぐい引っ張ってくリーダーよりも、スタッフの自主性や参画意識を高めていくリーダーの方が良い結果が出せる、ということです。

    (本当に時間が無く素早い意思決定が求められる場面ではまた別だとは思いますが)誰も見通しが分からないプロジェクトについては、それぞれの面で優秀なスタッフが集められているはずなので、広く意見を聞いてリーダーが責任をもって決めていく、というやり方が、自身の経験からも経験上も一番良いように思います。

    3つ目としては、ファクトをしっかりととらえた合理的な意思決定が必要、ということです。

    「自分たちのゴール達成を第一に置き、そのために必要なことを冷徹に、感情論を排して決めていく、という態度が必要である」ということは、頭ではわかっていても、人間ですからなかなか難しいと思います。

    本書でも、それまで一緒に旅を続けてきた犬を計画的に処分して食料にするシーンや、極地を目指す人数を行程の負担を減らすために意図的に絞る、といったシーンが出てきます。感情的にはグッとくる場面ですが、改めて「合目的的に行動するとは」ということはこういうことである、と唸らされました。

    本書はスコット隊の悲劇的な結末、およびアムンセンのその後の生涯が記載されて終わるわけですが、総じて「目的を達成するということ」および「リーダーのありかた」について改めて考えさせられた良書でした。

  • 2つの隊の行動を同時進行で書いているのが、ワクワクして良い。
    組織とリーダーシップを学ぶのに何度か読み直したい。

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