悪人(下) (朝日文庫 よ 16-2)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022645241

感想・レビュー・書評

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  • 大事な人のいない人は、自分が強いつもりになっているだけ。大事な人がいる人の強さは、それぞれの登場人物のクライマックスで表現されている。人の「強さ」のパワーはものすごいと感じました。
    罪を犯したのは祐一で、それは祐一の弱さだったけど、大事な人を見つけた後は、祐一もぐんと「強さ」を身につける。

    人間が決めた「罪」だけでは、「悪人」かどうかなんて、はかれない。物語を通して、罪には問われない増尾と、罪を償う祐一の対比がされています。そんな2人を物語の中で実際に比較したのは1人被害者の佳乃だけ。見かけや条件しか見ていない薄っぺらい女の子だったのかもしれないけど、そんな彼女にも様々な側面があります。彼女は「悪人」だったのかな?悪人と言い切るまで悪い人間ではないかもしれないけど..。いろいろなかたちの「親子」が描かれるのもキーワードかなと思います。

    この物語の根底にある「悪人」の定義は、245ページの佳男のセリフなのかなと感じました。

  • 2014.2.18読了。
    悪人は誰なのか。映画の影響もあって結局のところ、悪人は祐一と言うところなのかもしれないけど、ヘルス嬢と一緒に住むためのアパートを借りてしまったり、佳乃に謝って欲しかったって追いかけて手を掛けてしまったり、本当の母親に金をせびり『どっちも被害者にはなれんたい』と呟いてみたりする不器用な祐一は、あの最後の警察に捕まってからの供述を読んでも、大切なひとのことを思って言っているように思う。でも読者も入り込むことによって光代みたいに祐一を信じたのかな。とも思う。
    母が先に読んで、私に「早く読んで!話したいっ」と言っていたのがわかった 笑
    週末にでもじっくり話すかな。
    しかし、増尾圭吾は腹立つー!!私のなかでの悪人は増尾圭吾だ。佳乃もとんでもないけど、彼女に彼女を想う両親がいたことと、彼女を想う両親が居たことが救い。
    久々に一気に読んだ。上下巻を10日で読むなんて、いつもの私にはない。

  • おばあちゃんがスカーフ買って勇気出してたとこがよかったな

  • 映画版の評判が、悪くなかったようなので読んでみた。

    登場人物を丹念に、(ネチネチと?)描き込んでいき、登場人物の行動に、有無を言わせぬ説得力を与えていく作風。宮部みゆきあたりでもこんな作品があったのだけれど、自分のツボにはかなりはまっている。映像化作品は、どうしても色眼鏡で読んでしまうのだけれども、それでもこれだけ読まされたというのは、作品に力があるのだろう。描き込みが多い分、ストーリーの展開から考えると文章量は多すぎなのだろうが、引っかかりなく読めてしまった。

    結末はあまりに切ない。不器用すぎる登場人物の、不器用すぎる想いの伝え合い。結局、信じ切ることができなかったのか。でも、そんな、物語みたいにお互いを盲目的に信じ合うなんて、できるわけはない。そんなところまで登場人物に感情移入できてしまったのは、人物の心の起伏を丁寧に描写し続けたからだろう。

    章のタイトルの付け方もいい(理屈っぽい自分には)。また何より、作品名「悪人」こそ、まさにこの作品のテーマにふさわしい名前だった。

    この作品が、新聞の連載小説だったと知ってびっくり。しばらく前に読んだ「英雄の書」が、物語の起承転結のバランスを欠いているように感じさせたのとは対極的な、バランスのよい構成。題材自体の向き不向きもあるのだろうけど、どういう題材を選ぶかも含め、作家による新聞連載の向き不向きを感じさせられてしまった。

    とても良い作品だったと思うのだけど、結末が結末だけに、読後感の悪さから、手放しで満点はつけられなかった。

  • 殺人を犯してしまった若者と、彼と一緒に逃亡する女性。舞台は九州。

    悪人だから人を殺したのではない。
    殺さなかったから悪人じゃないわけでもない。

    『どっちも被害者にはなれん』
    それは誰もがわかっているけど、だから自分が加害者役を演じようとは誰も言わない。
    加害者役を進んで引き受けた人間がただ1人悪人として裁かれる。

    悲しい
    切ない
    悲しい
    九州なまりの言葉で切なさ加速

  • やられました。
    久々の大ヒットかも。

    苦しくて切なくて
    終わり方も個人的に完璧。

    誰が本当の“悪人”なのか。

    読み終わった後、真剣に考えました。

    読んで良かった。

  • 子どもの頃、母親に「お父さんに会わせてあげる」と言って連れ出され、灯台の見える港に祐一は、置き去りにされた。
    「お母さんはここに帰ってくる」と言う祐一の言葉を、誰も信じてくれなかった。
    お母さんは帰ってこなかった。

    27歳になった祐一は公園で佳乃のことを待っていた。
    約束の時間をとうに過ぎても佳乃は現れない。
    やっと、現れたと思ったら、目の前で別の男の車に乗って、走り去ってしまった。
    祐一はまた、置き去りにされた。

    峠の道で増尾に車から蹴り出され、興奮状態にあった佳乃は、自分を助けてくれようとする祐一に対して「人殺し」などと過激な嘘を叫びつづける。
    そして出てきた「誰があんたの言うことなんて信じる?」の言葉。

    このまま佳乃が嘘を叫び続けたら、そして、また誰も自分の言葉を信じてくれなかったら……
    祐一が殺したかったのは紛れもなく、佳乃の嘘だ。


    細部まで緻密に練られた小説だと思った。
    どの登場人物にも、共感できる箇所があり、まるで実際に起きている事件を追っているようだった。
    祐一や光代を支配する田舎の閉塞感、世の中の不条理、友達関係…いろいろなものがリアルに描かれていた。


    読む人によって感想が変わるかもしれない。
    人生、順風満帆な人と、そうでない人では、後者の方が作品に入り込めるのではないかと思う。
    私も、もしこの作品をもっと早い時期に読んでいたら、特に印象に残ることなく通り過ぎてしまっていたかもしれない。

  • 最後を小綺麗に持っていきすぎたような気もするけど、
    それぞれの場面が目に浮かぶようにドラマチックだ。
    絶望と再生の物語。

    寂れた燈台で確かめあった体温と言葉を、二人はこれから手放さなければならない。
    最後に、祐一は光代によって救われた。
    果たして光代は、どう感じているのだろうか。

    小説を読んだという気にさせる、とても良い小説だった。

  • 誰が悪人なのか?
    法律に問われることのみが罪なのか?
    それすらも罪にしていいのか?
    タイトル通り考えさせられる内容だった。

  • 世の中白黒つけられることの方が少ない。

    読み終わった後で、この中で本当の「悪人」とは誰だろうかと考えさせられる。
    事件は毎日のように起こっている。
    テレビをつければ、殺人事件の報道が流れ、
    ひどいことする人がいるものだ、と思いながらも直接関わりがないため
    そこから私たち傍観者にはなかなか重みが伝わらない。

    だから増尾の友達の言葉の意味がなんとなくよくわかった。
    人の気持ちに「匂い」がするというその表現はすごく的確だ。

    私たちはブラウン管から物事を傍観する癖がついてしまって
    色んなことに対する神経が麻痺しているように思うことがある。
    それでも傍観者から参加者になると当たり前だが話は違う。
    そこに色がつく、匂いがついて、実感が沸いてくる。


    殺人を犯したもの=悪人
    という形式ができあがるのはあたりまえのことだ。
    しかし、その裏では本当は何が起こったのか。
    なぜそうならなければならなかったのか。
    その過程を追ったこの作品はなかなか読み応えがあって
    私も九州出身なので、懐かしい方言とか地名が、その風景をよりリアルにした。

    犯人。彼の友人、家族。
    ”被害者”。そしてその友人と、家族。
    色んな視点が織り込まれることにより浮かび上がってくるそれぞれの姿。

    現代が抱えるさまざまな問題をうまく混ぜ込んで
    やけに生々しくて、読み終わったあとのなんともいえない後味の悪さは拭えない。
    問いかけられるのだ。「ほんとうの悪」とは何か。
    そもそも「悪」とは何なのか。

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著者プロフィール

1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年『最後の息子』で「文學界新人賞」を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で「芥川賞」を受賞。07年『悪人』で「毎日出版文化賞」、10年『横道世之介』で「柴田錬三郎」、19年『国宝』で「芸術選奨文部科学大臣賞」「中央公論文芸賞」を受賞する。その他著書に、『パレード』『悪人』『さよなら渓谷』『路』『怒り』『森は知っている』『太陽は動かない』『湖の女たち』等がある。

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