あとは野となれ大和撫子

著者 :
  • KADOKAWA
3.37
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本棚登録 : 954
感想 : 154
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041033791

感想・レビュー・書評

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  • 近いようで遠い、中央アジアに惹きつけられる。なぜか、憧れてやまない。いつか必ず行きたい、と強く思っている。
    森薫さんの『乙嫁語り』も、嬉野君さんの『金星特急』も好き。そして、この本も。
    まずタイトルからしてものすごく素敵なのだ。

    危機に瀕したどうしようもない土壇場で、その場にいる人だけでどうにかする、というシチュエーションがすごく好みで、しかも女の子(と、あえて言うけれど)たちが表立って縦横無尽に活躍するストーリーも大好きな私が、引き込まれないはずがないのだった。すごく緻密につくりあげられた世界で、伏線も情報のだしかたも巧みで。

    「けれども、そうやってわたしたちは殺されてきた。心を。あるいは、命そのものを。」
    「わたしは国体と信仰、そして人権の三権分立を確立したい。」
    「わからないのだ。自分たちは、この地球という惑星のことを。そればかりか、目の前のことさえも。」
    「ことによると国さえ滅ぼしかねない、より大きな義」
    政治、民主主義、経済、外交。国家、テロ、信仰、多民族、環境問題まで。1冊のなかに内包されるテーマは多岐に及ぶ。同時に、20代の女性たちの―世界中のどこでも変わらない、親近感さえ抱かせる―日常を描いてもいる。美味しくてハイカロリーな甘いもの、得がたい友人たちとのなんでもない会話、常連のお店、推しの芸能人。私たちと同じように。
    この物語は、私たちと地続きだ。場所も時代も違うけれど、書かれていることは実は私たちの生活とそう変わらない。政治も、テロも、民主主義も。どこか遠いところの話じゃない。ぜんぶ、今、ここにある、この日常と隣り合わせなのだ。

    雨の巫女、そしてレインメーカー。最後の最後の、その言葉遊びが好きだ。
    不完全であれと言った、『ブランコ乗りのサン・テグジュペリ』をどこか思い出した。

    「でも、お生憎さま。いまこの場に、私は二本の足で立っている。それも、主役として!」
    「自分もまた、傷ついていたのだ。皆と同じように。馬鹿みたいに、ずっとそのことに気がつかずにいたのだ。」
    「そうであればこそ、残された一厘をわたしはやり通したい。一厘の希望が七代先まで受け継がれたそのとき、はじめて、この砂漠に理念の雨が降りはじめるのだから。」
    「人は世界に関わりたいと願い、そして世界から疎外され続ける。」
    決して軽いテーマの物語ではない。けれど暗い雰囲気がないのは、それらが日常生活の延長線上にあるから、というのと、もうひとつ挙げるとすれば、中央アジアの乾燥した明るい空気を感じられるからかもしれない。

    忘れ物が多くてどこか抜けていて、遊牧民族に憧れていて、度胸と技術の知識が豊富なナツキも、ものすごいカリスマ性とリーダーシップと美貌を持っているけれど、どこかあやういアイシャも、恥ずかしがり屋で姉のように面倒見が良くて、けれど表舞台からは途中退場してしまうジャミラも、大柄ことサミアも眼鏡ことシルヴィも、レイヤーのジーナも。いかにもな叩き上げの軍人だけれど父親のようなアフマドフ大佐も、アイシャと同じくらい、ナツキとの縁をもつ、ストイックでとても格好いい―いつも、ヒーローみたいな振る舞いだと思う、ご多分に漏れず私も好みだった―ナジャフも、「吟遊詩人」イーゴリも。そのほかの人もみんな魅力的で、そして、生きて、生活している。個人的には、いつか、ナジャフの持つスザニが、ナツキの手に渡って、彼の願いが叶えられるといいな、と思うのだけれど。

    主要な登場人物が、ほとんど誰も死なないのが良いな、と思った。世の中なんでもそんなに簡単に解決しない、と思えるから。
    蛇足でしかないけれど、日本が、ODAといういわばお金の話と、民間の技術でしか登場しないことも象徴的だと思った。

    やることはやった。あとは野となれ、大和撫子。
    ため息の代わりに深呼吸をして。背筋を伸ばして、胸を張って。考え抜いて、やることはやったと言えるように。そうして、何にも負けずに生きていこうと。読んだあとにそう思える物語だった。

    自由がありますように。

  • 3.5

  • 三葛館一般 913.6||MI

    和医大図書館ではココ → http://opac.wakayama-med.ac.jp/mylimedio/search/book.do?target=local&bibid=90181

  • 3.5
    5才の時、西アジアの小国アラルスタンでODAの技術者だった父と母を、ウズベキスタンの空爆によって一度に失ったナツキ。 その後引き取られた後宮で知り合い、友となったジャミラ、アイシャと共に、指導者アリーの暗殺で混乱極まる中、男達が見捨てて捨て去った国を立て直そうと立ち上がる。
    謎の武器商人・イーゴリ、過激派AIMの幹部・ナジャフらと、周辺諸国の利権を巡る思惑がいり乱れる。

    序盤、重めの物語の感触だったのだが、意外やマンガチックな展開。
    ナツキの両親以外、登場人物が死なない(正確には二人生き返ってる笑)のも、扱っているテーマの割に明るい理由のひとつかな。

  • 後宮の女子たちが男さながらに奮闘、立ち上がるという物語。登場人物みんなキャラが濃くてかっこいいです(*´∀`*)ただ、私が中東の歴史・情勢を知っていたらもっと手に汗を握るドキドキハラハラ感を味わえたんだろうなぁと感じました(;´д`)2017.11.16読了

  •  幼いころ、紛争で孤児となった日本人のナツキは、中央アジアの小国アラルスタンの後宮に引き取られ育てられる。
     あるときクーデターが起き、とっさの判断で臨時政権を打ち立てたナツキたち後宮の女性たちは、ゲリラや諸外国との紛争に対応しながら、異国民の自分たちを育ててくれたアラルスタンを守ろうと奮闘する。友情と裏切り、ゲリラにスパイ、紛争のさなかでも開催される外交アピールを兼ねた歌劇の練習、と息をつく暇もないはずなのに、彼女たちはなぜか楽しそうだ。

     後宮の女性がひょんなことから戦いの表舞台で活躍する小説というと、すぐ酒見賢一著『後宮小説』を思い浮かべる。本書に登場する女性たちもさまざまな内憂外患に対して、軽やかに奮闘している場面が続くが、背景にある複雑な政治・国際情勢に加えて、地球環境問題まで語られるので、なかなか噛み切れない歯ごたえのあるシュークリームを食べさせられているようだった。

     あらゆる要素を混ぜこむのはこの作者流のエンターテイメントだとわかっているが、もう少し単純なストーリーでもよかった。

  • アラル海にできた国で、色々な背景を持つ後宮の少女が活躍するお話。
    話は都合よくテンポよく進んで行って、読みやすいです。歌の歌詞では、さほど感動できないかったのは、私の知識が足らないからでしょう。
    最後の方はチョット都合よすぎかも。まあ、良しです。

  • 中東の小国アラルスタン。ひょんなことから後宮の少女達が国家の運営を任されることに。一見ライトノベル風だがソ連崩壊後の中東情勢や最近の武器のことなどなかなか硬派。特に前半の電気もネットもない状況での息詰まる攻防は低汗握る。

  • なんで手に取ったのか・・・・
    きっと直木賞候補で題名がとっつきやすかったから。
    私のイメージは不思議な少女でも出てくる
    「夜は短し歩けよ乙女」的な柔らかい読み物だったのに・・・・

    アジアのどこか ウズベキスタンやカザフスタン、旧ソビエトや過激派集団。何やら胡散臭い言葉が続いて、小さな国を襲う内戦。

    そこから立ち上がっていく、いろいろな事情を抱えた乙女たち

    荒唐無稽ではあるが、世界のどこかでそんな気持ちを抱いている乙女がいるのかもしれない。
    ちょっと(こうあればいいな)の展開が多いが、
    結構 面白く読めた・・・かも。

  • ○世界第4位だつた、アラル海が環境破壊で消滅状態であること。
    ○チェルノブイリ事故によるモスクワへの死の灰を防ぐため、ベラルーシへ人工降雨を行ったこと。

    小説ながら事実が盛り込んであり、
    いかに自分が中東の歴史を知らな過ぎ
    ということを知りました。

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著者プロフィール

1979年生まれ。小説家。著書に『盤上の夜』『ヨハネルブルグの天使たち』など多数。

「2020年 『最初のテロリスト カラコーゾフ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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