希望(仮)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
3.80
  • (8)
  • (30)
  • (8)
  • (2)
  • (2)
本棚登録 : 93
感想 : 20
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784041102930

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  この小説好きだなぁ。大好きな花村萬月の中でも特に私の好きな感じの物語。『たびを』によく似ていて、主人公が幸司。確か、たびをの主人公も虹児(こうじ)ではなかったか。

     この幸司。東大受験のため東京で受験前に1人ホテル暮らしをすることになるのだが、ブラブラ歩いた山谷で出会った男に電話番号の紙を渡され、受験中、その紙をなんとなく見ていたらカンニングを疑われ、失格となる。

     その瞬間から幸司の人生プランは180度変わることに。山谷で出会って親切を受けた戸賀沢。戸賀沢の突然の死。1人電話番号を渡してきた男を頼って行った京都。出会いは最悪だったが、大親友となった味舌。原発での仕事、沖縄への移住。

     次々とやってくる出来事に翻弄されながらもしっかりと成長していく幸司。オドオドしていて自分を持たないような幸司だが、なぜかみんなから好かれ、そういうところも虹児と似ている。言うならば『人たらし』といったところだろうか。最後にはそんな幸司の成長が見られて読者冥利に尽きる。

     花村萬月らしく、ノワール的な要素もあるが、これは間違いなく青春小説。素晴らしい物語の中に、作者の意図が、意思がヒシヒシと伝わってくる。

  • 白い花村萬月......と言うか、ま、彼にしては珍しい、爽やかな系ロードムービー的青春冒険譚。
    で、タイトルも「希望」なんてつけようとして、こりゃ柄でないな.....と、照れ隠し的に「(仮)」なんかつけたのか(笑)......とか思ったりもしたが、そこはしっかり(仮)をつけるべき立派なオチはついている。

    もちろん花村萬月なんで、暴力とセックスはキチンと描かれているのだが、それも今回はかなり控えめで、氏の小説のエグさが苦手な方にも、それなりの萬月ワールドを楽しんでいただけるだろう。

    あと、秀逸なのは「あとがき」で、これのおかげで、氏の古くからのファンも納得できる作品になっているのではないかと、思ったりもする。

    ま、でも、花村萬月.......きほん全然変わらないよな(笑)

  • 書店で良く見る作家さんでしたけど、読んだのは初めてでした。なかなかスケールの大きな話を書かれるのですね。四角四面の山さんの成長物語ですが、かなり変化と波乱に富んでます。読後感も良かったです。

  • 東大だけが大学じゃない。自分が本当に学びたいことかあるなら、何処の大学に行こうが関係ない。自分が学びたいという気持ちが本物なら何処の大学でも学べる筈だ。世の中には、どんな事情にせよ厳しい環境でしか働き口が無い人もたくさんいる。逆に言えば、そういう人達が末端で頑張っているから社会が成り立っているのかも知れない。エリートしか居ない世の中は成り立たないのか?多分色んな人がいるから成り立つのかも知れない。どんな人であろうと社会に貢献しているなら、それでいいんじゃないか。そして、自分がやりたいことがあり、状況が許されるなら置かれる環境にこだわらずそれに向かって進むべきだ。そんなことを思ったりした。

  • 東大に行くはずが、なぜか原発で働き、沖縄で道路工事…。主人公は、さまざまな人に出会い、教科書には載っていない人生の奥深さや真理(?)を実地で学んでいく。
    ひと癖もふた癖もある、主人公を取り巻く人たちがおもしろかった。
    それにしてもあきれるほど女性とのあれこれが出てくるのに辟易…。

  • 「東大生になっていたはずなのにどうして原発で働いているのだろう」という帯に興味を惹かれて購入。
    東大を合格できたはずなのに山谷で出会った有働産業の社長から貰った紙のせいでカンニング行為を疑われ試験失格となった主人公、山さんが、福井の原発の原子炉建家の検査人や、沖縄の道路工事員としてユンボを動かしリアルな働く姿を学ぶお話。
    弱肉強食の世界において最も有効なのは力だと気づく山さんの複雑な心境が、戸賀沢さん、味舌や石嶺、尚史さん、下世話だけれども憎めない飯場の人々によって描き出されるのがなんとも痛快で、中盤以降本の厚みを忘れるほどにのめり込んだ。荒くれものには荒くれものの生き方があるのを感じとり、そこに順応していく山さんの姿は、実は結構憧れる。
    平たく言うと、すごく楽しそうだ。読み終える前とあとでは、逞しさが段違いである。
    舞台は昭和の福井だが、この話の同時代性は震災以後福島の原発メルトダウンに沸く現在にあると思う。ここで最後に指し示される希望、果たして先伸ばしにし続けて、後の世に叶うのだろうか、という問いかけが隠されているのではないだろうか。この話の終わりと現在の状況は、どうにも被る気がしてならない。問いかけると同時に、作者自身もその状況にたいして答えを出してはいないようであるが。
    花村萬月を読むのはゲルマニウムの夜に続いて二作目であるが、社会に寄ったこの作品は同氏の性描写にやや抵抗があっても読み進めやすいのではないだろうか。

  • #読了。1970年代後半、東大の受験中にカンニング容疑をかけられ受験資格を取り上げられた山下幸司。山谷をぶらぶらとしている際に知り合った手配師を頼りに、原発で働くことに。青春小説ではありながら、原発(事故)というものに対しての警鐘を鳴らす。最後は、筆者として言いたかったことであろうが、その前で切っていても。。。

  • 久々の花村萬月でしたが、やはり面白かったです。
    昨今の過剰な反原子力発電運動に不気味さを感じている僕は、原子力発電所の作業員の実態やその周辺地域の経済的依存性を知るほど日本の電気事業への不信感を募らせますが、結局それも今身近に原子力発電の存在を感じないが故の思いに過ぎないのだろうと感じました。

    また、博打に対する尚史の思想は、一般社会や人間関係にも通じると思われ、ギャンブルも思考を極めれば深いものだと思いました。

  • とにかく題名が秀逸だと思った。しかし、読み進むと、何だかよくある優等生がドロップアウトして、世間の荒波に揉まれながらも成長していくという青春物のように思えた。花村萬月のことだからきっとひと捻りあるのだろう、と思ったのだが、それは読み終わって初めてわかった。それこそこの秀逸な題名が語っているのだ。それは読んでのお楽しみだ。

  • 花村萬月、初読み。
    東大受験でカンニングを疑われた山下幸司が、山谷で拾われ原発の下働きや沖縄の工事現場をとおして世間を知っていくというストーリー。
    『原発ジプシー』が下敷きになっている作品。

著者プロフィール

1955年東京都生まれ。89年『ゴッド・ブレイス物語』で第2回小説すばる新人賞を受賞してデビュー。98年『皆月』で第19回吉川英治文学新人賞、「ゲルマニウムの夜」で第119回芥川賞、2017年『日蝕えつきる』で第30回柴田錬三郎賞を受賞。その他の著書に『ブルース』『笑う山崎』『二進法の犬』「武蔵」シリーズ、『浄夜』『ワルツ』『裂』『弾正星』『信長私記』『太閤私記』『対になる人』など。

「2021年 『夜半獣』 で使われていた紹介文から引用しています。」

花村萬月の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×