夜明けの縁をさ迷う人々 (角川文庫 お 31-6)

著者 :
  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (207ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043410064

作品紹介・あらすじ

静かで硬質な筆致のなかに、冴え冴えとした官能性やフェティシズム、そして深い喪失感がただよう――。小川洋子の粋がつまった粒ぞろいの佳品を収録する極上のナイン・ストーリーズ!

感想・レビュー・書評

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  • 妄想、ホラー、人間ドラマ、官能、フェティシズム等など、様々なジャンルを持ちながらも、共通しているのは、風変わりながらも、愛すべき人たち。

    たとえ、風変わりすぎて、周りから疎んじられたり、存在すら意識されなくても、たった一人の愛があるだけで、その人の生き様が報われたかのように思われたことには、読んでいて共感を覚えたが、哀愁も感じた。永久という言葉は、一見、素敵に思えるが、あくまで捉え方次第であるし、私だったら、相手の心の中ではなくて、せめて自分の心で報われたという実感が欲しい。まあ、たった一人の愛に出会えただけで、充分だと思えるのもありますがね。そのたった一人が、実はすごく難しい。

  • 小川洋子ワールドの短編9編。どの作品も小川洋子ならではのユーモアに満ち溢れながら、突出した嗜好のためにある種疎外された人々を、ある時は哀しみをもって、またある時はホラーテイストにて、そして、短編ならではのスピード感と意外性をもって、珠玉に紡がれた小説群になっています。
    どの短編も短編ならではの趣向が滲み出ていますが、しかし例えば、曲芸師と野球少年の心の交流を描いた『曲芸と野球』であったり、また、老舗中華料理屋のエレベータを生涯の住処とした『イービーのかなわぬ望み』や、楽器に有効な不思議な涙を持つ女性が人体楽器に寄り添う『涙売り』は、小川洋子の他の長編でもみられるそこはかとない哀しみを描いた作品であり、ちょっと短編で終わらせるには惜しい構想を持った作品だったと思います。
    それから、どの作品も次にどんな展開があるのだろうかとわくわくするような緻密な構成になっていますが、特に『教授宅の留守番』や『銀山の狩猟小屋』は小川洋子のユーモアにカモフラージュされながらも、次第に盛り上がっていくサスペンスな展開が面白かったです。
    『ラ・ヴェール嬢』は最もエロティックな内容であり、『再試合』はフェチシズムに溢れながらも底冷えのする内容ですが、どちらも状況の2重構造をクッションとすることにより巧みに終局に向けてまとめあげた作品で技巧的な構成がなかなか面白かったと思います。
    反対に、不動産を題材に様々におかしな人々を描く『お探しの物件』や、チェス好きのシッターの奇妙な過ごし方とその家に住む「何か」と少女との会話を描いた『パラソルチョコレート』は多面的な作品であり、これらはそれぞれの局面が折り重なるように繰り出される面白さがありました。
    全体としてどの作品も読者を飽きさせない様々な趣向を凝らしつつ、小川洋子ならではの可笑しみの奥底に潜む悲哀や恐ろしさが余韻となっていつまでも残る物語群であり、秀作揃いの短編集だったと思います。表題のごとく、暗さと明るさの織りなす境目に蠢く多様な人間たちの妙が面白い一冊でした。

  • 奇妙で微笑ましくも少し怖い9つの短編。

    狭い。小さい。無くなる。
    待ってましたと言わんばかりの小川ワールド。

    野球や甲子園の描写が魅力的。
    生き生きとした人や風景と匂いが伝わる。

    「夜明けの縁」とは何か。
    しばらく思いにふける。

  • 丸い部屋で眠るのって、どんな気分なのかしら。 きっと深い安らぎに包まれて、小さな心配事なんて全部消え去ってゆくんでしょうね。
    だって丸い部屋で眠る時の自分は、円の直径になるのよ。

  • 小川洋子の短編集。純文学と構えるほどでもなく、ちゃんとオチらしいオチがある。

    9作のうち、やはり印象に残るのは、ちょっとホラーやファンタジーがかった「教授宅」「イービー」の話。小川洋子は、後ろからゆっくり迫ってくるような恐怖を描かせたらやはりいい。

    さらに、他の本もだけれども、なんてことはない言葉にスポットを当てて、どんどん際立たせて盛り上げていくところが、小川洋子作品の醍醐味であって、この本においても、そういううまく際立って光る言葉がいくつも出てくる。

    小川洋子というと「博士」から入る人が多そうだが、その次あたりにおすすめできるのは、この本や「海」だろうなあ。

  • 小川洋子の短編集。九つのお話のそれぞれが、内容も語り方も多様でとても面白かった。短編だからこそ、相当突飛な設定と物語構成が生きていると思う。小川さんの小説は物語が先にあって登場人物がその流れに乗っているのではなく、人物と要素が先にあって、それらのダイナミックな関係性の中で物語が生まれているように思う。そうした関係性、構造からストーリーを動かしていくのは、村上春樹の作品にも共通している気がして、私がこの二人の作家を好む理由はそこにあると思った。そして両作家とも、その構成要素が持っている特性が根源的な人間の心理を表していることが多く、二人とも河合隼雄との豊かな対談集を出していることに納得する。
    九つのお話の中だと、長い年月を掛けて完成した宝箱か目録をじっくり見ているような「お探しの物件」と、まさにユング心理学でいう影が登場し、子供が大人の物語をそっと見出す「パラソルチョコレート」が特に好きだった。「教授宅の留守番」も構成要素の絡み合いが段々加速していく感じがかなり面白いが、ラストで落ちを直接語りすぎてるのが残念に思った。あと、「イービーのかなわぬ望み」は「猫を抱いて象と泳ぐ」の前身のような物語だし、「涙売り」は小川さん特有の病的な献身さから身体部位が喪われていく物語で、九編とも小川小説のダイジェストの趣もあって楽しめた。

  • 何とも表し難い読後感であった。収録作はどれも、日常ありそうな風景の中に一抹のファンタジー要素を含んでおり、不穏な気配を漂わせている。
    普段小川洋子さんの作品にはしっとりとして柔らかな静けさを感じるのだが、本書ではそれがあまり感じられず、ストーリーの運びは紛れもなく小川洋子作品であると思えるのだがどこかにずっと違和感があり馴染めずにいた。
    最後の「再試合」を読み終わった今は、私も同様に日常にありそうでなさそうなことが起こり引き伸ばされた世界で小川洋子を読んでいるのではないかという気持ちになっている。

  •  僕がバッティングの腕を上げたのは、三塁ベース脇数メートルのところにある小屋の横で椅子を積み上げながら逆立ちの練習をする曲芸師のおかげだった……。(『曲芸と野球』ほか8編)

     心地よさと気持ち悪さの間(あわい)、恐怖と切なさが絶妙に入り混じった掌編をじっくり味わいました。個人的には、狂気がむしろ気持ちいいとさえ感じる『教授宅の留守番』、ユーモラスでノスタルジックな『パラソルチョコレート』が印象的でした。深まる秋におすすめの短編集。

  • ブラック絵本といった感じで、結構短い、短編集であり、"教授宅の留守番"は小川洋子さんにしては珍しい堂々とした発言もあり。
    "涙売り"の終わり方や、"お探しの物件"はそのまま、絵本にしても良さそう。
    今作では、"教授宅の留守番"と、"パラソルチョコレート"が好みだった。チェスの駒をすすめる終わり方も好きだ。

  • 「曲芸と野球」「イービーのかなわぬ望み」
    「パラソルチョコレート」「ラ・ヴェール嬢」が好き
    小川洋子さんらしく野球に始まり野球で終わる9つの短編集だった
    特別な寂しさの風が通りすぎてゆくような
    心もちになる
    月虹をみるひとたちの物語

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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