もの食う人びと (角川文庫 へ 3-1)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043417018

感想・レビュー・書評

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  • 20世紀末の1992年末~94年春にかけての世界様々な「食」を体験したルポルタージュ。
    もう懐かしい、時代。ベルリンの壁が無くなってすぐの頃。「ブラックホーク・ダウン」の舞台で映画で描かれていた当時のモガディシオ。ソ連崩壊で不景気に突入したばかりのポーランド、レフ・ワレサ、ユーゴ紛争、ボリス・エリツィン…通り過ぎてしまったが忘れがたいある時代を「食」で切り取った本。
    私は郷愁を感じつつ読んだ。

    21世紀も1/5過ぎたが、歴史書と言うにはまだ生臭い当時の空気感を味わいたい方におすすめ。

  • 【「食」から見えるもの。ミクロからマクロを知る。考えさせられる本。貧困、戦争、チェルノブイリ、組織の腐敗、慰安婦など。】

    【"見えない像を見る、聞こえない音を聞く"】

    1992-1994。世界の色々な地域についての「食」のルポタージュ。食を通して見える、社会情勢や問題。今は、当時と状況が違う部分もあるだろうが、重く考えさせられる本。

    [特に心に残ったルポタージュ]
    ・人の食べ残しを売り、残飯飯を食べる人々
    ・残留日本兵による、島民殺しと人肉食の悲劇
    ・紛争地域の飢え↔︎各国軍の豪勢な食事 など。
    ・慰安婦の方たちの章

    [今だからこそ読みたい章]
    ・兵士はなぜ死んだのか
    (1993年ロシア軍新兵の栄養失調死の原因)

    [考えさせられた言葉] -あとがき-
    ソマリアの、死期の迫ったエイズ患者の少女に対しての著者の言葉。
    「G7的世界観が心底ばかばかしくなった。(中略)
    ここにいま、世界の密やかな中心があると私は考えたのだった。世界の中心であることを標す巨大モニュメントを建てるとしたら、(中略)ここであるべきだ、と。」

  • いきなり残飯食堂から始まる、世界を食から眺めたルポタージュ。
    その初回のテーマからわかる通り、食といっても"世界料理紀行"といったお綺麗なものではなく、もっと下世話な、社会の不条理の中でそれでも何かを食べながら生きてゆくひとびとの、もがく姿の記録。

    連載当時衝撃を受けた覚えがあり、数十年ぶりに製本版を手に取ったが、残っていたイメージと違いもっと洒脱な、冷徹というよりも感傷的な感じを受けた。初読のころから時がたち、それだけ自分も擦れたということか。

    筆者の貴重な体当たりの記録を、過度にまじめにならずに眺めるといいと思う。

  •  面白かった。
     この作品を良さを言い表すのにふさわしい言葉が見当たらず、3ウエイバックなどという仕様もない書き方をして申し訳ない。要は、切り口によって意味合いが異なる、多元的な読み方ができる本と言いたかったものです。

     そもそもは息子の高校受験の過去問で出会った作品であり、なかなか面白かったので一つ読んでやるかと購入したのがきっかけ。

    ・・・

     さて、本作ですが、以下3つの切り口から読めると思いした。

    1.紀行文
    2.現代史
    3.生活史あるいは個人史

     まず、紀行文として面白い。要は旅行本。
     旅行がしづらいコロナ禍の下では一層焦がれてしまう海外。本作は特に食べるということをテーマに挙げており、食べることが好きな私(因みにうちの家内は調理師)のハートをとらえました。その点でも本作は掛け値なしに面白い食べ物中心の紀行文と言えます。
     印象的だったのは、ダッカの残飯飯(残飯を集めてきてチャーハンやおかゆにする)やジュゴンを食べるためのフィリピン島しょ部での迷走、チョコもアイスも知らないウガンダのエイズ村の女の子の話などが印象的。
     30年前の作品ですが、今風にいうとテレビ東京でやっていた「ハイパーハードボイルドグルメリポート」に似ていると思います(多分日本のNetFlixで見れたと記憶しています)。
    https://www.tv-tokyo.co.jp/hyperhard/
     
     次に、現代史のテキストとして参考になります。
     現代史のカテゴリについては、合併後の東ドイツ、ロシアなど旧社会主義国の旧態依然たる様子、またユーゴ内戦と民族浄化など、教科書では習いきれない近年の内容が個々のエピソードを通してみることができ、参考になる。
     旧東ドイツを中心としたネオナチの勃興の理由、ロシア海軍の物品横流しと若年兵の餓死の話、クロアチアの田舎の村でセルビア兵の攻撃におびえながらで一人で暮らすアナばあさんの話。特に私の場合、ネオナチの話は頭では理解していましたが、掲載されている話を読むと、複雑さというかやるせなさを一層感じてしまいました。
     こうしたエピソードから、なぜこのような現状になってしまったのかと近現代史を辿るきっかけにもなることでしょう。

     そして最後に、ミクロな個人の記録として価値が高いと思いました。当然ですが現代史ともかぶります。
     特に韓国従軍慰安婦の話は、心に鉛が沈殿していくように、どんよりした気持ちになります。しばしば日本の報道でも目にする李容洙さんら3人の女性へのインタビューが掲載してあります。
     仕事があると誘われて行ってみたら慰安所だった、輸送中に韓国語でしゃべってたところを見つかって日本兵にレイプされた、毎日40人もの男性を受け入れコンドームを洗って片づけるやるせなさ、そのさなかでの一部の優しい日本兵との交流等々。
     このような個々人に刻まれている記憶は、政府間の取り決めとか、史実と異なる部分があるとか、取り決め・制度・他人からの印象等々という次元とは全く違う領域に存在するものだと思います。
     命が消えかかろうとしている高齢のおばあちゃんたちが訴えようとすること、それをあたらめてじっくり聞いてみたくなりました。自虐史観とかそういう話ではなく、彼女たちの話は善悪や良し悪しとは別に、次世代に語り継いで行くべき話であると感じました。

    ・・・

     ということで、気軽なエッセイを読むつもりでしたが、重たい内容も含まれていました。本作、素晴らしく色とりどりである世界の多様性を見せつける一方、人間性の残酷さの片鱗を克明に晒す秀逸なエッセイであると感じました。うちの中学生と高校生の子供たちにも読ませてみたい。

  • 世界には色んな状況の色んな人が、色々な感情を持って生きているのだなと実感出来る。ただ厳しい状況を説明されるより、その状況の飯を食うことは生々しい感覚が伝わりやすいように感じた。

    チェルノブイリで放射線を気にしながらも現地のものを食い酒を飲む姿は圧巻。「諦めで疑いを乗り切る。今日の日をそうしてつなぐ。そのような生き方もある」。今の自分自身の状況とまるで違う人達なのに、なんかわかる気がする。

    元祖「ハイパーハードボイルドグルメリポート」といった感じで、スラムや刑務所など色々な意味でハードな状況に興味のある人にはオススメです。

  • 「もの食う人びと」辺見庸著、角川文庫、1997.06.25
    366p ¥720 C0195 (2020.06.23読了)(1998.08.11購入)(1997.09.25/3刷)

    【目次】
    旅立つ前に

    残飯を食らう
    食いものの恨み
    ピナトゥボの失われた味
    人魚を食う
    ミンダナオ島の食の悲劇
    食と想像力
    胃袋の連帯
    うどんの社会主義
    ベトナム銀河鉄道

    塀の中の食事
    食とネオナチ
    黒を食う
    敗者の味
    サーカス一座の意味ある空腹
    菩提樹の香る村
    様々な食卓
    魚食う心優しい男たち
    聖パンと拳銃と
    大観覧車で食べる

    モガディシオ炎熱日記
    麗しのコーヒー・ロード
    バナナ畑に星が降る
    この王様のこの食事

    兵士はなぜ死んだのか
    禁断の森
    チェロ弾きの少女
    美しき風の島にて

    儒者に食事作法を学ぶ
    背番号27の孤独な戦い
    ある日あの記憶を殺しに
    あとがき  1994年5月 辺見庸
    文庫版のあとがき  1997年5月 辺見庸
    解説  船戸与一

    (「BOOK」データベースより)amazon
    人は今、何をどう食べているのか、どれほど食えないのか…。飽食の国に苛立ち、異境へと旅立った著者は、噛み、しゃぶる音をたぐり、紛争と飢餓線上の風景に入り込み、ダッカの残飯からチェルノブイリの放射能汚染スープまで、食って、食って、食いまくる。人びととの苛烈な「食」の交わりなしには果たしえなかった、ルポルタージュの豊潤にして劇的な革命。「食」の黙示録。連載時から大反響をよんだ感動の本編に、書き下ろし独白とカラー写真を加えた、新しい名作文庫の誕生。

  • 高校生の時に読んで激しい衝撃を受けた。
    今読み返しても、やはりとても強く揺さぶられる。
    しかし、当時は遠い話に思えていた貧困、戦争、放射能汚染などが、20年ですぐ身近になってしまったこともショックだ。
    それなのに、未だに戦争中の過ちを認めずにいるこの国。
    残留日本軍に家族を食べられた方たち、従軍慰安婦の方たちの苦しみ、怒り、悔しさを私は飲み込んで自分のものにして生きていきたい。

  • 2020.4.29 読了。
    「食う」を切り口に世界をリポートするノンフィクション。読み終えるのに約8年程の年月がかかってしまいました。
    一話一話は短いものの、重く、暗く、濃い話が多く、一話読んでは積読を繰り返していました。もちろん、全部が全部陰鬱な話ではありません。中には「魚食う心優しい男たち」のように明るい話もあります。 最初の話からかなりショッキングで吐きそうな気持ちになりながらも、でもこれは読み遂げなければならないなと感じていました。世界に起きていたこれは事実だから、目を背けてはいけないなと。

    時代は違っても今はまた違う国で同じような事も起きてたり。ここで悲惨な事が書かれてあっても、今は安定していて、観光目的で行けたり。
    日本も戦後はここに書かれていても不思議ではない状況だったんじゃないかなと思います。今でも食糧自給率40%くらいのくせに、大量の食物を廃棄している私たち。何かあったらあっという間に干あがっちゃいますね…

  • 齋藤孝さんの本で取り上げられていたご縁で読んでみました。
    なんだこの襲ってくる圧倒的な何かは。上手く説明が出来ないけど、食というテーマが貫かれているからこそ、浮かび上がってくる様々なこと。こんなものしか食べれないんだ、可哀想、という薄っぺらい感想に留まらない色々な思いがわいて出てきます。的確な言葉がみつからなくて悔しい。辺見さんすごい。

  • 食に対する著者の探究心
    世界中での様々な食の在り方にすごく衝撃を受ける
    文が非常に上手いため読みやすい
    海外に行きたくなる作品

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著者プロフィール

小説家、ジャーナリスト、詩人。元共同通信記者。宮城県石巻市出身。宮城県石巻高等学校を卒業後、早稲田大学第二文学部社会専修へ進学。同学を卒業後、共同通信社に入社し、北京、ハノイなどで特派員を務めた。北京特派員として派遣されていた1979年には『近代化を進める中国に関する報道』で新聞協会賞を受賞。1991年、外信部次長を務めながら書き上げた『自動起床装置』を発表し第105回芥川賞を受賞。

「2022年 『女声合唱とピアノのための 風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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