世界屠畜紀行 THE WORLD’S SLAUGHTERHOUSE TOUR (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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感想 : 114
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784043943951

感想・レビュー・書評

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  • 屠畜っていうと、牛や豚などを「殺して肉にする」エグいと思われるテーマです。獣医師にとっても、と畜検査員になりたい!と免許取得後の第一選択にしていることはまずないんじゃないかと個人的には思うわけですが、本意・不本意の別なく、と畜検査員になられた方にはぜひ一度お手にとって眺めていただけると良いのではないかと思います。

    僕はこの本を読んで、自分の仕事であると畜検査がより一層好きになりました。

  • 生き物がどう殺されていくのか知りたくて読んだ。
    主題としては「なぜ日本では屠殺業を営む人が差別されているのか、他の国でもそうなのか」というルポ。
    私自身は「人間に殺されて可哀想だな、でも私も肉好きだしな…」という想いはあり、ただ屠殺業に従事する人に対して残酷だとか感じたことは一度もない。本書が書かれてからだいぶ時間も経っているから、差別意識も少しずつ無くなってきているのではないかと思うけど。

    家畜がどういう風に私たちの目の前に肉として運ばれてくるのか全然知らなかったので、本書はイラスト付きでわかりやすく解説されているためとてもイメージしやすかった。自分が読んできた本の中でも珍しいジャンルなのでとても勉強になった。正直動画とか写真で見られるかというとなんとも言えない…ので、イラストという点もありがたい。血とか苦手な人でも大丈夫そう。

    日本だけじゃなく各国の屠殺文化まで綿密に取材されていて面白かった。
    同じ仏教国でも生きるために必要だからと、差別意識などがない国、完全に汚れた仕事だと思われている国…国の数だけ価値観が多様で面白い。

    私はお肉が好きだから、しっかり家畜に感謝をして残さずお肉を食べ続けたい。可哀想と思うなら食べないのではなく、命に感謝してちゃんと頂くことが大事だと思う。

    ちなみにこの本自体は良い内容だと思うが、著者に関してはちょっと行きすぎというか、殺されるところをワクワクしながら見たりちょっとサイコみを感じてしまう。個人的には家畜を「つぶす」という表現も好きじゃない。

  • 筆者がモンゴルにて、羊を目の前で解体され振る舞われたことをきっかけに「屠畜」に興味を持ち、海外と国内の屠畜の現場を回ったルポです。文庫で450P以上と長いですが、各国の屠畜を通じて文化人類学、歴史、動物の情動、宗教観、日本特有の差別の構造にも触れ、興味が途切れることなく読めました。

    オリジナルの単行本は2007年に発表されてますが、それ以前にも屠畜・屠殺を題材にした本は多く出版されています。しかし屠畜をこのようなポップな装丁、感性、文体で本にしたことは凄いと思います。当時話題になりましたし、多くの人の価値観への見事なカウンターとなったのではないかと想像します。

    文体および文中の著者の振る舞いは、よく言えば天真爛漫、悪く言えば(著者ご本人も文中で書いてますが)不躾で、著者の素直なリアクションが伝わってきます。素直ということは当然、著者のバイアスもそのまま文中に現れるので、動物愛護の気持ちの強い人などからしたらケンカを売られているように感じる物言いも見られます。そのあたりは読者の好みによりますね。

    基本的には、動物が気絶させられたり、ノドを捌かれ吊るされたり、皮を剥がされたりする場面においても終始ネガティブな反応はほぼなく、ワクワク!な筆者ですが、文中で一箇所だけ著者が「かわいそう」と思う場面があります。それは肉の需要量に応えるため、人工授精によって牛を増やしている現実に触れた時です。人間の都合で自然な繁殖である「交尾」をせずして生涯を終える牛がいるということを知った時の筆者の心情はワクワク!の時と対照的で印象に残っています。

    日本の食肉文化の歴史は世界的に比べて浅く、そのうえ現代は家畜を飼う一般家庭も少ない。「動物を殺して生きている」という感覚は極限まで薄められています。ベジタリアンではないわたしとしては、動物がどういう風に肉へと加工されていくのかを見ずして美味しい思いだけするのはフェアではないと思ったので(フェアにはなり得ないとも思っていますが)、屠畜の現場の動画を目を逸らさずに視聴しました。おそらくその動画は動物愛護的観点に偏った編集がされていて、外国の特に残酷なものであったと思いますが…。あとはお肉を食べられることに感謝を忘れないようにしようと思います。

    個人的な話ですが、わたしの幼少期に母は移動販売業をしており、顧客の中にたまたま屠畜場で働く人がいて、学校を終えたわたしの送り迎えのついでに仕事のため2、3回ほど屠畜場へ母はわたしを連れて行きました。そこでわたしは初めて吊るされた大きな枝肉を見て、「本当にあの『牛』が『お肉』になるんだ」と悟ったことを読後に思い出しました。そして今思えば母は屠畜業に対する差別がなかったのかもしれないと気づき、今更ながら母を尊敬しました。

    日本の屠畜場は世界に比べて衛生面ではトップクラスであり(その分めちゃくちゃスタッフさんが働いてくれている)、日本産の肉を食べられていることはとてもありがたいことだと改めて感じました(ま、食肉偽装という別の問題はあるでしょうけれど…)。

  • 世界各国の屠畜の現場を見て歩いたイラスト付きの本。
    差別のあるところと無いところが国によって異なる。
    肉を食べる前に「動物」を屠ることになるが、その行為そのものが「タブー」となっているのがいまの現状。

    それを表面に出しているのが本書である。「オチャラカ」という表現がいいかどうか分からないが、著者の軽い文章が重たいテーマを明るくしてくれている。

    この次は著者の「飼い喰い」を読んでみようと思う。

  • 当たり前のように食べている肉。
    家畜→肉。頭ではわかっている。漠然としたイメージはあるけど、そのプロセスを具体的に知る機会はなかなかない。
    そんな、ある意味「タブー視」されている部分に切り込んだのが本書。

    イラストも文章も明るく、著者の純粋な好奇心を感じられる。それに引き込まれてずいずい読める。
    家畜がどうやって肉になっていくのか、ブラックボックスと化している部分が、よくわかる。そして数々の肉料理。
    国による屠畜や、それに従事する人たちへのイメージ、偏見、差別にも触れている。
    屠畜従事者が差別されている国もあれば、とくになんとも思わない、という国。尊敬されている国、色々だ。

    僕は日本で暮らしていて、今までとくに屠畜に対して差別感情のようなものは持っていなかったので、「日本で差別されている…」などの描写には、正直「?」だったが、差別する/しないの前に、まったく触れる機会を与えられておらず、そのような人々が見えないようになっていたのだと、今更ながら気づかされた。そういう歴史を進んできた国で育ったのだと。

    屠畜を知るきっかけがこの本でよかったと思う。




  • ・私が食べているお肉が生きている動物からどのように作られているのか


    ・屠畜場の重要な役割
     動物には病気や不衛生な個体がおり安全に屠り食肉にするには技術や設備が整う屠殺場が重要な役割を担っている。日本で獣畜(牛豚馬羊山羊)を勝手に解体してはいけないのも食中毒や病気の蔓延を防ぐためである。ただ少し前の沖縄では羊と山羊は捌けたらしい。

    ・屠殺やその職に関わる労働者に対する国毎のイメージや考え方

     面白いなと思ったことが国や宗教によっては屠殺にとても肯定的な考えがあること。
     例えばバリのヒンドゥー教徒の考えにお供えとして殺された植物や動物は位が上がり天国に行けたり生まれ変わったらより良い身分になれるとされている。人間の食事も人間へのお供えとそれるので屠殺は良い行為である。
     他にもモンゴルの遊牧民はそもそも食は他の生命の犠牲に成り立っているとしてる。
     屠殺という職業に関しても一部の宗教的には神様への生贄やお供えとして動物を屠ることが多々あるためその技術は良いものとされている。

    ・韓国や中国での犬食文化
     

  • なかなかしつこく屠殺について調べていて、興味深く読んだ。
    しかし、この本も相当前の本だから、今は事情も変化しているんだろうな。
    ちなみに、私は、著者と同じく、屠畜と動物愛護は別物だと思うし、肉食べてる以上、屠畜には敬意を払うべきといつも思ってる!

  • 動物を潰してさばいて肉にする営みについて、世界各地のやり方や考え方をつぶさに聞き伝えている本。工程がとても丁寧に説明してあったり、衛生環境や動物愛護との関わりが述べられていたり。
    書き手には日本の屠畜にまつわる問題意識があるにしても、日常生活で肉を食べてるから肉がどうやってできるのか知るべきだよねと、まずは身近な目的で話をしている。極端に走らないスタンスなのが頼もしく、読んでいて眉間にしわを寄せる必要もないのがありがたいが、うーんと違和感を表明するだけしてお茶を濁す箇所があったり、一応完成版の本として心許ないことも若干。
    書き手の興味か何かで話が逸れかけることもあるせいか、分量はなかなか長くて、読了に時間がかかった。

  • 屠畜の世界っておもしろい、且つ、とても重要な産業です。もっと知ってもらうが必要ですね。
    命をいただくことは生きること、生きることは命をいただくこと。当たり前のことであり、残酷なことでは無い。もっと尊い仕事として扱われてもいいように感じました。

  • 数人からオススメされた屠畜の本。いきものがお肉になるまでを描いた(本当に詳細なスケッチもある)一冊。各国の美味しく食べるための技や、衛生管理や効率化するための職人的技術はすごい。動物愛護のことや職業差別の意識についても各国でインタビューされてて、自分はどう思うだろう、どこの国のどの宗教のどの人の考えに近いだろうといろいろな視点があり面白い。モンゴルの平原のように空間だけでなく動物と人間と自然と、全てのものが平行、水平で真っ直ぐだというのは、わたしでは現地に行っても体感できない気がする。お肉は美味しく食べてるし、山羊皮の財布気に入って使ってるから、いろんな人に感謝感謝の、読んで良かった一冊です。

著者プロフィール

ルポライター・イラストレーター

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

内澤旬子の作品

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