わたしが棄てた女 (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (279ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061311411

感想・レビュー・書評

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  • 著者の生涯のテーマでもある「キリスト教的」愛とは何かを感じさせる、読み応えのある一篇。戦後3年当時を舞台にした物語なのに、それから約70年を経た現在に起き替えてもなお、登場人物やその心象の展開が無理なく読者に訴えかけて来る、その汎用性にも唸らされた。

  • 失恋したとき、
    「大切な恋を失ったあなたへ」(仮) 的な本で
    傷心を温めるのもストレートな手段かもしれない。

    でも、「私、フラれました」体で
    書店のキャッシャーやAmazonへ己を晒すのは、
    ちょっと嫌。

    ならばいっそ、
    棄てた側のマインドに触れてみてはどうか?
    遠藤先生なら、
    何かしら応えてくれるんじゃないか?

    10年ぐらい前でしたか、
    血反吐を吐くような失恋をしたときに、
    藁にもすがる想いで手にとった1冊です。

    前半部。
    「先生、もう腹いっぱいです」というぐらい
    棄てる側の赤裸々なマインドにえぐられました。

    後半部。
    遠藤節、炸裂。
    難病への周囲の無理解。生きるとは? 献身とは?

    棄てられた女が、どんな生き方をしたのか?
    知るはずもない「その後」に
    触れたときの男の心境は?

    寝食を忘れ、塩をなめながら
    一気に読破したときは、
    手にした理由すら忘れていました。

    荒療治ではありますが、
    失恋に限らず、何かを失ったとき、
    出口が見えないときこそ
    おすすめしたい1冊です。

  •  遠藤周作(1923~1996 享年73)著「わたしが・棄てた・女」、1997.12発行。男の身勝手さ、いい加減さを象徴する吉岡努、その吉岡努と2度の逢瀬であっさりと捨てられた森田ミツの物語。森田ミツの純情、健気さ、人の良さが胸を打ちます。「人間の生き方」を深く考えさせてくれる作品だと思います。森田ミツのひたむきな生き方は涙を誘います。読後の余韻が続く作品です。
     もはや神すら超えた存在の森田ミツを描いた遠藤周作の逸品「わたしが・棄てた・女」、1972.12発行。社長の姪三浦マリ子と結婚した吉岡努は大いに反省をしなければなりません!

  • 男なら誰もが一度は経験する・・・・というエクスキューズを付けてくれているが、そういった「誰もが」ということがないと、耐えられないのだろう。
    そのくらいミツは衝撃を与えたと言ってよいと思う。

    もちろん、そこには偶然が働きミツのような女性と出会えたからに過ぎない。本当に何でもなく過ぎ去っていくような人物がほとんどだろう。皮肉にもミツは吉岡に好意を持ってしまった、その1点にある。(この好意がどういった観点かは不明確だが)

    当然、この主題は「ごみのように女性を棄てるな」ということではなく、その女性の人格を通じた周囲の人間への影響を汲み取るところであろうが。吉岡は生涯ミツという存在を忘れることはないだろう。

  • 人間は他人の人生に痕跡を残さずに交わることはできないんだよ。
    人間のずるい部分と人間の優しい部分の両面が丁寧に描かれている作品。
    遠藤周作らしくないと感じた。
    ミツは幸せだったのかもしれないが、自分だったら救われない

  • 思い切り後味が悪い。ミツがもっと神様レベルの善人ならばこんなに重い気分にはならなかったかもしれないですが、森田ミツは長所と言えばお人好しなところがあるだけの平凡で地味な女性です。人間として誰もが持っているだろう優しさや純粋さを素直に口にしたり行動に移すことができますが、病気に絶望したりダメ男を想い続けたり、どこか間の抜けたところがあって、身近に感じるぶんだけ居たたまれなくなって後味が悪いです。
    ミツのことなんか忘れてる吉岡が彼女をふっと思い出すのは、こういう後味の悪さが忘れられないからかなぁとも思いました。
    要領の良い人はとことん要領良く生きてくのに、世の中は不公平にできてますね。吉岡はこれからも当たり前の日常の中に突然ミツを思い出したりするんじゃないかなと思います。

  • ミツのような女性を聖女と呼ぶのだろうか。。無償の愛を実践した、聖女なのだろうか。。

    もし私がミツの友達であったなら、もっと自分自身が幸せになる努力をするべきだと、えらそうに言うに違いない。自身は、唯一無二の存在であり、自分の存在や未来を卑下し、諦めてはいけないと。。

    ミツという人が到底現実にいるとは思えない人物であるがゆえに、人間が清く正しく生きるなんていうことは、なんてほど遠いことだろうと感じた。

  • 純粋と愚かさは紙一重なのかなぁという気がした。
    押しつけがましくない自己犠牲ってありうるのだろうか。
    ミツのような人、本当に存在するかなぁと思いながら読んだが、ミツのモデルになった人がいたと聞き驚いた。
    他人の不幸を見ていられない性質、それは確かに「聖女」なのかもしれない。
    けれど、そういう生き方は自分にはできないし、身近にそういう生き方をしている人もいないので、どこか遠い存在のように感じた。
    善を実行するって意識していないとできない事だと思う。

  • 遠藤周作の作品を、純文学と軽小説に分ければ、この作品は軽小説の部類になるようです。前半は確かに軽い感じですが、読みすすめるうちにだんだんと遠藤周作の世界が広がっていきました。
    人の心の弱さと強さ。その間での揺らぎ。そういった人間の心情は間違いなく純文学です。

  • この作品は遠藤氏の作品群の中では「純文学」ではなく「通俗的」な部類に入れられることがあるそうだが、私的にはれっきとした純文学である。
    出てくる主人公の男女もそれに関わる人たちも、あまりに魅力がないが、それが等身大の人間だと思うし、全編を通して、『神』と『愛』を意識させるところは、遠藤周作ならではだと思う。
    読んで良かった。

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著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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