作品紹介・あらすじ
ヒモを空中に投げ上げる。子どもがヒモを登っていく。その子のバラバラ肢体が落ちてくる…。エジプト、インド、中国など、古代文明の神秘的な魔術の世界を渉猟し、その魅力の全容を解剖する。
感想・レビュー・書評
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マジック修行中の身の知人の家にあり、手に取る。師匠から読んでおけ、と言われたらしい。マジックに興味がない人でも、そういう歴史やからくりがあったのか、と「優れた出しもの」についての知見の高まる一冊。
時系列に奇術の反映と変化を解説したマジックの歴史書である。オーソドックスな「カップと玉」に始まり、「出現/消失」「人体切断」「脱出」などの各マジックのネタと有名な演出をたんたんと解説していく。
おもしろいのが、ただのネタばらし本ではなく、そのようなネタを奇術師がどのように演出効果・心理的トリックで奇術たらしめたのか、という料理方法の紆余曲折に触れている点だ。
ネタ自体は大昔からあるものでも、その時の社会情勢や演出効果、舞台設定、小道具によってまったく違った現象に見える。奇術師、大道芸人、霊媒師、超能力者、布教者、マジシャンなど、演じ手の役割も時代によって変わったりする。
単なるいかさまではない、こんな現象があったらきっとびっくりするぞ、わくわくするぞ、という観客側の心理を読んだ芸である。何を怖れたり、何に期待したりしているのか。作りだすのはその時代の観客たちでもある。
これを読むと、だいたいのマジックのからくりが見当がつくようになる気がする。それでも技術や演出は日進月歩、思ってたのと違うことだってある。何よりも観客の「あーこれ知ってる」にきっと奇術師たちは敏感だ。
本書の現代的なマジックの中に、観客にみせているという設定で後ろ向きに演じるマジック、というのが紹介されていて思い出した。たまに大道でやっている芸でも、そういうネタばらしと見せかけて実はマジック、という、テンプレートなマジックを逆手に取るものがあったりする。そんなのも、スマートで面白いなと思う。
どれだけ技術が発達しても、マジックのネタばらしが横行しても、奇術師たちはさらにその先を考えようとする。技術もさることながら、観客を楽しませたい、退屈から救いたい、という「人情」が、今日まで脈々と受け継がれるマジックの元なのだろうと思う。
著者プロフィール
昭和5年生まれ。慶應義塾大学経済学部・法学部卒。参議院参事を経て国立国会図書館参事。日本奇術連盟副会長、、日本催眠学会理事など歴任。平成3年没。編著書に『コインマジック事典』『奇術入門シリーズ カードマジック』『奇術入門シリーズ ロープマジック』(以上、東京堂出版)、『大魔術の歴史』(講談社)など多数。
「2017年 『コインマジック事典 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」
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