陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず) (講談社ノベルス)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (752ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061822931

感想・レビュー・書評

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  •  胡乱な話である。
     冒頭、胡乱な男、関口巽が真相に気がつく場面がカットバックされているが、胡乱な男が真相に気づくような胡乱な話である。あまりな真相は読後16年を経た今も覚えていて、結構、細部を忘れていて初読に近かった他の作品よりも楽しめなかったことを告白しておこう。
     信州は白樺湖湖畔の屋敷に住む由良伯爵。もう華族制度がなくなっているので、伯爵ではないのだが、伯爵と呼ばれているという設定は、ドラキュラ伯爵を連想させるためである。由良伯爵は、23年前からこれまで4回、婚礼の翌朝に花嫁を殺されているという経歴を持ち、いま5回目の花嫁を迎えようとしている。不謹慎なことに、評者は2週続いた結婚式の間にこの本を再読した。
     由良伯爵は儒教学者でもあるが、大変な富豪のため、働いたことはなく、また無数の鳥類の剥製が置かれたこの鳥の城から出たことがなく、世知は書物を介して得たという変人である。
     5回目の不幸を防ぐために伯爵が召喚したのは探偵・榎木津。だが彼は体調不良で一過性の失明状態にある。そこで急遽、関口が助けに遣わされたのだが、探偵は婚礼に集まった親戚や使用人の前で「おお、そこに人殺しがいる」と言い放つ。彼は他人の記憶が見えるのだが、現実の視力がないので誰の記憶か照合できない。榎木津がいても謎が解けないように、失明させられているのである。

     今回はすべて一人称記述である。が、その一人称は3人に振り当てられる。関口巽、由良伯爵、1回目から3回目の花嫁殺害を捜査した退職刑事・伊庭が叙述者だ。5回目の不幸は当然起こらないことには話にならないのだが、鳥の城での惨劇への道筋は関口と伯爵によって、そして、過去の経緯と京極堂の動きは伊庭によって叙述され、伊庭も鳥の城に出向くに至って、記述は白樺湖畔になだれ込んでいく。
     陰摩羅鬼は中国由来の妖怪で新たな死者の魂が妖怪化したもの。黒い鶴の形をし、目が爛々と光る。本作は鳥の妖怪をテーマにし、関口の内面が描かれ、そして認識の問題が謎に関わっている点で、『姑獲鳥の夏』の姉妹作のように思える。

  • 此の秋に始めて読み始めて京極さんですが、
    女子高校生やら、お坊さんやら・・・今度は伯爵。
    守備範囲が広いですね。

    この本も、素晴らしく謎めいていて、読了したら未明。
    ついに朝まで変な夢にうなされることになりました。

    榎木津さん目的で読み始めてのですが、
    関口君の良さを改めて認識するという結果に。

  •  百器徒然袋 雨を読んでうきうきした気持ちで読み始めました。
     私は勘が悪くて、小説のオチを予想できたことがありません。それでもこの物語は最初からそれがわかった作品でした。読むのが3度目だから思うのか、わざとわかるように書いているように感じました。
     だからこそ、伯爵の悲しみがズンと胸にのしかかってきました。花嫁が殺されてしまうことを知っているからこそ、悲しくて、どうにもならないのかと思ってしまいました。だって、このシリーズ1勘の悪い関口くんが気づいたくらいですもんね。
     最後、雪絵さんとお出かけしているくだりにほっこりしました。関口くんの出番が多くてうれしかったです。
     でもやっぱり悲しすぎるお話でした。

  • この世には知識だけでは理解できない事柄がある。
    特にその知識に偏りがあると、大きく道を誤る可能性がある。
    百聞は一見に如かず。

  • 関口さんへの好感度がうなぎ昇りの一冊
    がんばった!えらい!!
    榎木津が関口さんの下の名前を覚えてることに感動して
    京極堂は知人だ友人じゃないなんていいつつ関口さんの為に仕事を断らずわざわざ白樺湖まで行くし
    なんだかんだいってもあの人たち、仲良いですね!
    今までのシリーズの中で一番面白かったです^^

    常識のズレというものは怖いものだと思いました

  • もしもニュースなんかでこの事件を知ったら、伯爵のことを異常な連続殺人者だと思うのかもしれない。
    でも伯爵の人柄や生育環境、事件の動機を知ってしまえば伯爵を責めることなんてできないし、むしろ妻を心から愛していたのにあんな事になってしまったのが可哀想で、伯爵の世界が崩れてしまった時は泣いてしまった。
    でも花嫁達を殺害してしまった事実は変わらない訳で、遺族のことを思うとやりきれない、本当に哀しい事件だったと思う。

    こちらの世界で生きて罪を償うことを選んだ伯爵は強い人だし、山形さん達が待ってくれてるっていう救いがあってまだ良かった。

    それも京極堂が丁寧に伯爵とこちらの世界の齟齬を擦り合わせてくれたからだよね。
    確か茜さんが京極堂は人を追い詰めすぎないように言葉を選んでて優しいというようなことを言ってた気がするけど、今回も介入すべきか迷ってたし伯爵を気遣って話してたし優しいよ。もし京極堂がいなかったら、それこそ伯爵は誰にも理解されず異常者として逮捕されてたと思うから。

  • 久しぶりの再読。
    以前は地味でつまらないと思ったが、今回は凄く面白く読めた。歳とったのかな?

  • 10年ぶりくらいの再読。大オチは覚えていたのでサクサク読めました。
    なのに真相解明の場面では号泣してしまいました。悲しい話です。

  • 結末はよめた。ただそこまでの過程が楽しみで読んで実際もおもしろかった。

  • 京極さんの本の中で一番好き。読みやすいし、他の百鬼夜行シリーズに比べて理解しやすいと思う。
    何より関口がほぼメインですごく嬉しかった。この本の語り部は関口、伊庭、伯爵と三人だけで、しかも風景描写よりも人物の精神内面を書いているから、百鬼夜行シリーズにしてはするする読めた。3日かけて読んだけど、続きが気になるし面白いし久しぶりにわくわくする本に出会えたと思う。
    『塗仏の宴』後の関口の描写もあり、前作での不満はやや解消された。廃人関口……。妻と主治医以外に口を利かないとか、もう本当に大丈夫か関口は。もっと関口の鬱に関しての描写が欲しい。
    最後の後日談で木場に心配されまくってて笑った。木場はいい人である。
    というか今回の関口は色んな人に心配されまくってて、よっぽどヤバい状態が続いたのかと会得。榎さんもお前にここは危険だとか、京極堂も榎さんは放っておいても構わないとか言ってるし。雪絵さんもすごく心配してたんだろうなぁ。
    伯爵から見た関口の貧相だという描写が、他人から見た関口として面白かった。いや、伯爵と関口は友人か。友人という他人。多分二人は友人なんだと思う。少なくとも伯爵側は関口を友として扱っていた。伯爵がいい人でよかった。救われないというか、犯人の見当はうっすらついてたから、寂しい話だった。でも、百鬼夜行シリーズで唯一欲しいと思った冊子である。
    榎さんが「面白くねぇ」と暴言を吐いたのが似合わなすぎてビビった。
    榎さんは今回も傍若無人だったけど、ちょくちょく関口を心配している素振りを見せていて、榎さんは榎さんの常識の中でまともなのだと感じた。
    帰りの電車の中で伊庭、京極堂、関口、榎さんの4人が、どんな会話をしていたのか考えると楽しい。かなりの珍道中になったんじゃないかなぁ。伊庭が関口に理解を示していて嬉しかった。まぁ関口は、相手が関口を理解してないと関係が続かなそうである。伊庭はこれからも時々出てくるといいなぁ。望み薄だけど…。
    益田は、帰ってきた榎さんに何であんな奴を寄越したんだと怒られ、京極堂には電話ごしに文句を言われてそうである。
    伊庭が関口が取り調べを受けてた件で、訴えられてもおかしくなかったと言っていたから、増岡が警察に向かって脅しというか威嚇をしていたり、取り調べた奴が降格させられてたりしていたのかも、と考えるとちょっと溜飲が下がる。増岡はいい人である。

著者プロフィール

1963年、北海道生まれ。小説家、意匠家。94年、『姑獲鳥の夏』でデビュー。96年『魍魎の匣』で日本推理作家協会賞、97年『嗤う伊右衛門』で泉鏡花文学賞、2003年『覘き小平次』で山本周五郎賞、04年『後巷説百物語』で直木賞、11年『西巷説百物語』で柴田錬三郎賞、22年『遠巷説百物語』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『死ねばいいのに』『数えずの井戸』『オジいサン』『ヒトごろし』『書楼弔堂 破暁』『遠野物語Remix』『虚実妖怪百物語 序/破/急』 ほか多数。

「2023年 『遠巷説百物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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