潜水服は蝶の夢を見る

  • 講談社
3.82
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感想 : 83
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  • Amazon.co.jp ・本 (167ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062088671

作品紹介・あらすじ

すべての自由を奪われても魂の叫びは消せない。難病LISに冒され、すべての身体的自由を奪われた『ELLE』編集長。瞬きを20万回以上繰り返すことだけで、この奇跡の手記は綴られた。愛する人たちや帰らぬ日々への想いが、魂につきささる。生きるとはこれほどまでに、切なく、激しい。

感想・レビュー・書評

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  • たまにはブグログによる”あなたへのおすすめ”に従ってみるかなと、手に取った一冊。

    有名なノンフィクションですよね。映画にもなったのかな。

    ファッション雑誌「ELLE」の編集長、ジャン=ドミニック・ボービーは、43歳の若さで脳出血を起こし、ロックトイン・シンドロームと呼ばれる、日本語でいえば「閉じ込め症候群」に陥ってしまう。
    意識ははっきりしているものの動かせるのは左目の瞬きだけ。
    後にリハビリでわずかだが首も動かせるようになったとか。
    【体じゅう、重たい潜水服を一式、着込んでしまったようなのだ。】と書かれている。
    本書は、20万回以上の瞬きによって綴られた当人の手記である。

    当人の資質によるものか、フランス人気質というのもあるだろうが、こんな状態にありながら愚痴や不平不満はほとんどない。凄いね。
    文章も洒落ているな。

     テオフィル(十歳の息子)は、紙ナプキンを何枚も使って、閉じた僕の唇から流れ出る涎を、そっと拭いてくれた。やさしく、でもおっかなびっくりで。どんな反応が返ってくるかわからない動物を、前にしているかのように。
     彼らの母親が押していた車椅子が、ゆっくり止まった。すると今度はセレスト(八歳の娘)が、むき出しの腕で僕の頭に抱きつき、そのまま額に、キスの雨を降らせ始める。呪文でも唱えるように、繰り返し「あたしのパパ、あたしのパパ」と言いながら。

     黒々としたハエが一匹、僕の鼻の頭に止まる。そんなところからは下りてもらおうと、僕は顔を振ろうとする。しかしそれが、僕にとっては、オリンピックのグレコ・ローマン・スタイルのレスリングにも勝る、死闘となっていく。
    今日は日曜日。


    彼の著作のおかげで、いわゆる植物状態というか、肉体の自由は効かなくても、意識は正常を保てるというのがわかったのは大きいと思う。

    フランスで大ベストセラーになり、28ヵ国で出版された本書。
    しかし、残念ながら、フランスでの出版のわずか2日後に著者は亡くなってしまう。感染症による合併症を起こして。

    出版された自分の本は見れただろうか。
    もっともっと書きたかったろうな。

    • yukimisakeさん
      1Qさん、魔界水滸伝のせいな気がします!笑
      でもあれはBLじゃない…とも言い切れない…笑
      1Qさん、魔界水滸伝のせいな気がします!笑
      でもあれはBLじゃない…とも言い切れない…笑
      2024/03/26
    • kuma0504さん
      「魔界水滸伝」でBLって‥‥。
      で、自分のおすすめを見直したら、流石上橋菜穂子、ノンフィクションとフィクションが半々。
      でも、既に読んでブク...
      「魔界水滸伝」でBLって‥‥。
      で、自分のおすすめを見直したら、流石上橋菜穂子、ノンフィクションとフィクションが半々。
      でも、既に読んでブクログにも登録している本が6/40冊もある。電子版とかですけど。多分、アルゴリズムとかなんとか、その人の読書傾向を、計算式でだしてるんだろうし、今更気持ち悪いとか言えないけど、なんだかなぁ、と思う。

      あ、土瓶さん、無視してごめんなさい。
      植物人間に実は意識あったという話は、テレビでよく紹介されていますよね。ということはニュースバリューがある事で、殆どは意識ないという事なんだろうな。家族の心労は如何ばかりか。
      でも多分、新石器時代に不具者が生涯を全うできた様に、彼らが生かされているのは、なんらかの意味があってのことだと思うのです。
      2024/03/26
    • 土瓶さん
      実はね、俺の父親も似たような状況でした。
      脳出血で倒れてしまい、動かせるのは首から上と両手をほんの少し。
      体内の酸素濃度が低いために喉を...
      実はね、俺の父親も似たような状況でした。
      脳出血で倒れてしまい、動かせるのは首から上と両手をほんの少し。
      体内の酸素濃度が低いために喉を切開されてそのまま固定されているので声も出せず、食事も摂れません。
      あるとき、調子のよかった時に、意思の疎通を試みようとしてマジックを持たせて紙に書いてもらったことがあります。
      ぷるぷると震える手で、ミミズののたくったような文字が四つ。
      俺には「こ ろ し て」と書かれたように思えました。
      でも怖くて「殺して欲しいのかい?」とは、訊き返せませんでしたねー。
      だって、そこで頷かれたら。
      「とうさん。これなんて書いてあるのかさっぱりわからないよ」
      そうごまかして「ちゃんと動けるようにしようね」と、手のマッサージをするので精一杯でした。
      でも、とても苦しそうだったからなー。
      ああなったらどんなに苦しくても自殺すらできないだろうから。それが不憫で。
      俺にもう少し勇気やら根性やらがあれば、たぶん首を絞めて殺してあげてたと思う。
      もう亡くなったけど、今でも少し後悔してる。
      誰にも家族にも言ったことのない秘密です。
      そんなこんなでこの本を借りました。
      他の人はどうなんだろうって。
      でもこの著者はまったく死にたいなんて言わないんだよな。凄いなー。
      まあ年齢も性格も違うけど。
      ということでみなさん。脳出血には気をつけようってことですよ。
      でも俺も血圧高いからやばいんだよなー。塩気のある物好きだし。油物も。

      ああ、暗ーい独り言みたいになったからレスは不要で。

      はい。ご唱和ください。
      脳出血には気をつけよう!!(笑)
      2024/03/26
  • 三砂慶明『千年の読書』より。まず左目しか機能していない身体でこの本を執筆したのが信じられない。言葉が綺麗すぎたし、著者の生をめちゃくちゃ感じ取れた。生きる上で心の持ちようってものすごく重要で、これが証明されたような気がした。(図書館本)

  • 書かれたこと、それ自体が最大の価値。美しい日向で読むことを推奨する様な美しい文体です。いつか原文で読みたい。

  • 基本3~4ページからなる、著者がみる日常の描写が書かれている。ただ、その捕らえ方が美しく、強く、ちょっとした皮肉もおしゃれ。まさに洒落たシャレ。どれだけの経験と議論と読書を重ねればココにゆけるのだろう?むしともって生まれた物?奇異をてらったわけでもなく、突飛な発想があるわけでもない。でも深い知識と教養があれば、世界がこれだけ色鮮やかに見えるのだろう、という印象を受けるほど色鮮やかだった。その分、作者の状況を思えば、心苦しくもなる。マリア像との対話の話が好き。

  • 生存する意識、エイドリアン・オーウェンが書いた本は、脳科学者から見た閉じ込め症候群を外から見た本。
    こちらは、左目による瞬きしか外部に感情を発露できない脳出血によりロックトイン症候群本人の内部からの本。
    LIS、ALSとは違い、突然体内に閉じ込められる。
    下準備もなく、フェ「Lisは、ある朝突然に」
    分かる人には分かるけど、分かんない人には分からないだろうなぁ。

    根気のいる仕事だった。
    ジャン本人と助手のクロードにより、文字盤を用いて一文字一文字を指差し、表現したいアルファベットに左目で頷く。
    右目の瞼が動かすことは、彼にはウェイトリフティング並みに力が必要。

    さすがファッション誌ELLEの編集長だっただけあり文才があり、想像的で豊か、エスプリが効いている。
    しかし根気のいる仕事だ。

    生存する意識の患者の中には、脳内にウィルスが入り脳炎によりLISになった人も居れば、原因不明な人もいる。
    あなたも、わたしもLIS.
    作る人、売る人、食べる人、分かる人には分かるが分からない人には分からないだろうなぁ。

    また突然目覚めることもある。
    共働きの両親が自宅に帰り、ふと息子の部屋からボンジョビの「リビング・オン・プレイヤー」が聞こえて来た。
    息子がLISになり、医師に反応ができないだけで耳は聞こえているから好きな曲を流して刺激を与えてやってくれと言われた。息子思いの実直な両親は、7年間ボンジョビの「リビング・オン・プレイヤー」だけを24時間繰り返し聴かせ続けた。
    ある日突然目覚めた息子は、もうウンザリと囁いた。

    彼らの恐怖は、意思表示を外部に出せないため、ナースコールも押せない、サッカーをやっているチャンネルに変えてもらうため、8時間かかる。
    8時間待たされても、誰も彼が怒っている事にも気付かれない。
    逆に看護師に悪態をつかれる。

  • 体の自由を奪われた時、絶望感しか生まれてこない様に思う。しかし著者は唯一かろうじて動く瞬きで、その心情を遺す挑戦をする。子供達はこの偉大な父親をずっと感じて生きて行くのだろうな。

  • 10月新着
    東京大学医学図書館の所蔵情報
    http://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2003577148

  • 沈む潜水服に身を委ね、心は蝶のように自由に飛び回る。人の心の尊厳と、骸と化した身体。命って何

  • 魂のエレガンス

  • 生きるということをここまでリアルに綴った本はない。切なく、美しく、そしてスピーディーかつドラマチックに語られている。
    何度も読み直したくなる。きっと、読み直す度に感じることが違ってくるだろう。

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