- Amazon.co.jp ・本 (386ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062195393
感想・レビュー・書評
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満州での一期一会,おにぎりを分け合って食べた思い出が,40年を経て3人の子供達を巡り合わせる奇跡!戦争がどれほどのものを壊してしまったか,珠子,美子,茉莉の成長とともに浮かび上がらせて,心に深く染み透っていく.中脇初枝さんの万感の思いを込めた物語だ,
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ふいを衝かれた。
「きみはいい子」の中脇初枝さんの著書で「世界の果てのこどもたち」というタイトルであればたぶんこういうお話だろう、と思っていたものと、全然違っていた。まさかこんなお話しだとは。まさか「きみはいい子」の中脇さんがこんなお話しを書くとは。そして正直言うと、まさかこんなすごいものを書くとは。
戦時中の満州で出会った出自も生活環境も違う3人の少女たちのそれぞれの人生を描くことで、このたったひとつの世界の中で争うことや妬むことや憎むことのむなしさや悲しさを感じさせてくれる。そして、胸をはって希望を持つことの大切さを教えてくれる。大切なものを愛して守ることの尊さを教えてくれる。
もしこの作品を読んで政治思想や歴史認識の面から批判をする人が出てくるとしたら、それは次元が違う、と言いたい。この作品は忘れてはいけない過去の歴史を舞台にはしているが、あくまでもそこで生きた人の「感情」の物語であるからだ。あくまでも物語なので書かれていることすべてが事実でないのは当たり前にも関わらず、それを事実と受け止めてしまう読者もいるだろう。それを危惧してけしからんという声も出てくるのではないか。でもこれはやはり「感情」の物語であり、歴史物ではないのだ。デリケートな舞台設定に果敢に挑戦した中脇さんに拍手を送りたい。
面白い本、良い本はたくさんあるが、これほど心を揺さぶられたのは「きみはいい子」を読んで以来かもしれない。世界中の人が読むべき本だと思う。
子供のころ「それは秘密です」というテレビ番組があった。なんでみんなあんなに泣いているのだろう?と思っていた。その理由が、いま初めてわかったような気がした。 -
ノンフィクションのはずだが、かなり事実に忠実に書かれていると思う。
事実の方がもっともっと悲惨だったと思うけど。
日本人、朝鮮人、中国残留孤児(日本人)。
幼い頃一度満州で出会い、短い日々を過ごした3人の女の子達。
別々の場所で戦争の悲惨な体験をしながら成長する。
人を狂わせてしまう戦争。
朝鮮から日本に連れて来られて、帰国できずに残った人達が受けた差別。
日本にいて空襲で親を失った孤児が受けた差別。
語り継がれていくべき事実だと思う。 -
反戦ものは、その裏に作為を感じ、反発を覚えるが、この本は、すとんと腑に落ちる。しみじみと暖かい気持ちになる。
悲惨な情景も多いが、主人公3人の、ひたむきな強さに引っ張られ、嫌な気持ちにならない。幼少期の周囲の善意が、その後の人生の支えになる主人公たち。困難な状況でぶれない姿勢に、育ちの良さの本意を思う。 -
著者はまだ40歳くらいだから戦争については膨大な資料や調査に基づいて書かれているんだと思うが、読んでるとノンフィクションのように思える。
戦後70年。知ろうとしなかったら忘れ去られていく記憶。
実際に体験してなくても言い伝えなくてはと思う。 -
戦後70年、夏のこの時期に巡りあえてよかった。戦争の体験を伝えることは難しいかも知れないが、伝えていく必要があると思う。
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★★★★★
自分の幼い頃の思い出を辿るとき、自からぐり寄せる力では引き出すことのできない記憶や、それに覆いかぶさる感情が存在していることがある。
この小説に入り込んでいると、描かれている世界とはまた別に、自分の失ってしまっていた、たぐり寄せることのできなかった記憶が紡ぎだす世界をも旅していることに気がつく。
その記憶を引き出すフックになるのは、登場人物たちの心の動きが描かれる部分の数々。
「わたしの手をぎゅって開いて、キャラメルを取っていった人のこと。この手にね、まだ残っている」
「人生が壊れるような状況になっても、店のために、肉を仕込まなくてはいけない。それが、それでもここで生きていくということだった。」
自分のしっかりした記憶なのに、成長の過程で何処かに落としてきてしまい、そのこと自体も忘れてしまっているモノ。それに出会うには、誰かが届けてくれるか、偶然に委ねるかしない。
その誰かが、この『世界の果てのこどもたち』だった。
2015/07/28 -
作者は命を削る思いでこれを描き切ったんじゃないかな。それくらい意欲的で、傑作といえる。
毎回毎回重たく難しいテーマで挑み、書き上げる作家さんというイメージが強いが、今作はその中でも群を抜いて難しかったのでは。二十年温めてたとあるし。
以下出版社からの引用。
戦時中、高知県から親に連れられて満洲にやってきた珠子。言葉も通じない場所での新しい生活に馴染んでいく中、彼女は朝鮮人の美子(ミジャ)と、恵まれた家庭で育った茉莉と出会う。お互いが何人なのかも知らなかった幼い三人は、あることをきっかけに友情で結ばれる。しかし終戦が訪れ、珠子は中国戦争孤児になってしまう。美子は日本で差別を受け、茉莉は横浜の空襲で家族を失い、三人は別々の人生を歩むことになった。
ここにはこの時代を知らない人も、そこにあった事実を忘れてはいけないということ、繰り返してはならないということ、大切なことたちがうんとつまっている。 -
生まれ故郷から騙されるように満州へと居を移した家族がいた。
横浜で当時ではお洒落で教養豊かな生活を送っていた家族がいた。
朝鮮中部の村から満州へ希望を持って移民した家族がいた。
それぞれ全く違う環境で育った3人の少女は満州の地で出会い、互いを大切な友達だと心に刻む。将来その記憶は決して消えることは無かった。
中脇さんの著書『みなそこ』でも近所に住んでいた在日一世のおばあさんの話が出てくる。優しいおばあさんだったと描かれたその方の原型がいらっしゃるのだと思う。
一部の欲深き大人たちが始めた戦争。いつも災いが降りかかるのは弱き市井の人々だ。戦争に善悪など介在しない。あるのは勝ち負けだけ。
ピカドンが落ちてから70年が過ぎた。戦争を知らない子供たちである私が思うのはもう2度と繰り返してはならないという願いだけだ。