- Amazon.co.jp ・本 (386ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062195393
感想・レビュー・書評
-
戦時中の満州でひととき出会った少女3人。日本人2人と朝鮮人1人。
それから長い間出会うことなく、それぞれ戦争や人種差別に翻弄される半生をおくるが、辛いときに思い出すのは幼き日の小さな優しさ。
人生を支えるのは国籍や人種ではない。隣人のささやかな優しさや気遣いなのだと思う。
満州開拓からの戦況による苛酷な帰国への道。子ども誘拐からの中国残留孤児。
日本への空爆。焼夷弾の苛烈な被害。
やむを得ず来日して留まるしかなかった在日朝鮮人への差別。
いっきに読まされた。
様々なことを考えさせられた。
人種や戦争のこともしかり、人間の欲と他者への愛、まっとうな生き方や些細な日常まで。凄い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この本を読みながら、ずっとアンパンマンのことが頭に浮かんでいました。
お腹が減った人を見つけると、自分の顔を食べさせてあげるアンパンマン。
過酷な戦争体験のあるアンパンマンの作者・故やなせたかしは
生前『唯一変わらない正義は、飢えで苦しんでいる人に自分の食べ物をわけ与えることだ』と言っていたそうだ。
戦時中孤児となって焼け出された主人公の女の子は
たったひとつ、しっかりと握りしめていたキャラメルを
一本一本指をこじあけるようにして、どこかの大人に奪われてしまう。
戦争という極限状況の下で命を落とすことこの次に恐ろしいのは、
知らなくてもいい人間の醜い姿があらわになってしまうことだろう。
でもこの本には、お腹がすいているのに
自分のおにぎりを惜しげもなく友人と分け合う女の子も登場する。
お腹が空いて泣き続ける日本人の赤ちゃんに、
敵国と知りながら自分の母乳をわけ与える中国人の母親だって登場する。
人間の心の奥底には、アンパンマンの心があると信じたい。
人の心の優しさを信じられなくなるような戦は
どんな理由があったって断じてしてはならないのだ。 -
反戦をテーマにしながらも、懸命に生きる少女たちの眩しさが、健気さが、ずっと心に残った。
よく、戦後の混乱とか、引き上げの苦労などと、一言でまとめられてしまうが、そんな5文字、8文字の言葉では、とても収まりきらないような出来事。
それは、ほんの70年前のこと。
中国残留孤児、日本人の子どもを中国の方が育てたと聞くと、人身売買などもあったのだろうが、大陸的な大らかさからと勝手に思っていた。
当時、双方は敵対関係にあり、その間には、未だに解決されない数々の事柄を含む、差別があり、暴力があり、抑圧があり、搾取があり、限りない悲しみや涙があった。
それでありながら、中国の方は日本の子どもを保護し、育てたのである。
もちろん、悪意的な扱われ方をされた子どもも多かったと思う。全てのケースが、善意であったとは思わない。
しかし、本書や山崎豊子著の「大地の子」のように、大切に育てられた子供も、少なからずいるのも、また事実である。
戦後の日本で、たとえば中国人の子どもが、もし同様であった場合、同じように出来ただろうか。
断定はできないが、難しかっただろうと思う。
その違いは、価値観や考え方の多様さ、前述した大らかな国民性かと思い込んでいた。
しかし、きっとそんな生易しいものではなかったと、気付かされた。
あまりにも、悲惨だったのではないか。
子どもの姿が。顔が。状況が。
敵対関係とか、大人の問題を超越するほどに。
自分を守るために、武器を持つのか。
自分を守るために、あえて武器を捨てるのか。
本当の戦争を教えられた。
それなのに、生きること、人を思うことの大切さがずっと強く残る、美しい物語だった。 -
戦時中から戦後を生きた3人の女の子に焦点を当て、その時代を生きた人々の数奇な運命を描いた小説です。新「火垂るの墓」といった感じでしょうか?日本生まれで、満州に移り、中国残留孤児となった珠子、朝鮮生まれで、満州、日本と移り住み、戦後も日本に住み続けた美子、横浜生まれで、空襲で家族を失って孤児となり、施設で育った茉莉、それぞれ多様な設定をすることで、激動の時代を生きることになった子供たちの物語を描いています。それにより平和への願い、戦争を避けるためのメッセージを与えています。時代小説は、設定に馴染みがないので、どの程度事実に忠実なのかは分かりませんが、ドキュメンタリーのように感じられました。
-
第二次世界大戦中の3人の少女を主人公に戦時から終戦、終戦後の今の日本を辿って行く。
この3人の少女が時代の流れに成す術も無く流されて辿って行く人生にページをめくる手が止まらなかった。
自分が生まれる長い歴史の中で言えばほんの100年も経たない少し前の日本は、
こんな過酷で想像も絶する世界だったのかと思うと、本当に戦争を体験している世代と今の平和な時代に生まれて育った自分たちは、生きてきたと言うより生き抜いてきた時代が全く違うんだと愕然とした。
そしてどんなに辛い時でも、人の心に残るものと力をくれるものは誰かの優しさと美味しいご飯なんだと言うことに胸が詰まった。
読み終わった後に見えた今自分が生きてる毎日の平和と有難さに心の底から感謝の気持ちが溢れて、一日一日を大事にしようと強く思った。 -
残留孤児の珠子、戦災孤児の茉莉、在日の美子。満州で共に一時を過ごした少女たちは、戦禍に巻き込まれながらも三者三様、それぞれの地で懸命に、たくましく生きていく。その時の国力の違い、戦況の変化、戦後の混乱によって、彼女らにかかわる多くの人たちはあまりに無慈悲だ。今を生き抜くうえで、他者を思いやり、他民族を慮るゆとりはない。その中にあっても、彼女らは支えてくれる人との出会いによって生き抜くことが叶う。為政者や軍人の視点によらず、被災者の少女の視点で戦争の悲劇を描ききる。戦後処理について日中韓の溝は埋まらないが、戦時を知らない者として、まず可能な限り史実を知ることから始めたい。
-
本屋大賞ノミネート作。でも図書館で予約したらすぐに貸出の順番が回ってきた。あまり人気がないのかな?
読み始め後悔した。戦争のお話だった。つらいお話は嫌いなのだ。それなのに、気がついたら最後まで読んでいた。
ぬくぬくと過ごしている私たちにとって、読むべき本なのだと思う。 -
満州に高知から家族と共に移住させられた珠子、横浜で何不自由なく暮らしていた茉莉、貧しい暮らしから逃げ出すために満州に移り住んだ朝鮮人の美子。3人が終戦前の満州で出会い、戦後どう生き延びてきたのか。この国の犯した罪を、戦争の愚かさを、歴史に疎い者にもわかりやすく語りかける。ただ、茉莉が家族の死を目にしたときの情感が薄く、もっと強い哀しみがあふれた記述があっても良かったのではと思う。378Pにわたる長編だが物語に吸い込まれるように読み終えた。