単純な脳、複雑な「私」 (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社
4.31
  • (185)
  • (138)
  • (52)
  • (5)
  • (2)
本棚登録 : 2236
感想 : 144
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062578301

作品紹介・あらすじ

「心」はいかにして生み出されるのか? 最先端の脳科学を読み解くスリリングな講義。脳科学の深海へ一気にダイブ!

ベストセラー『進化しすぎた脳』の著者が、母校で行った連続講義。私たちがふだん抱く「心」のイメージが、最新の研究によって次々と覆されていく──。「一番思い入れがあって、一番好きな本」と著者自らが語る知的興奮に満ちた一冊。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 本書の終わりに、著者は、アウトリーチ活動について述べていた。アウトリーチ活動とは、研究者が、専門家ではない一般の人たちとの対話の場を持ったり、一般書を著したり、易しい講演を行ったりと、その労力をいわゆる社会活動についやすことである。

    本書は、著者の出身高校の現役学生に対し、全校講演を行った内容と、その内容に特に興味を示した9名に対し、その後行われた3日間に渡る特別講義の内容を収めたものである。すなわち、後輩学生たちへのアウトリーチ活動の記録である。

    アウトリーチ活動については、賛否あり、「一般向けにかみ砕く行為は真実の歪曲」などという否定意見もあるそうだが、本書を読む限り、科学的なテーマについて、実際に検証を行いながら真実を確認するやり方で行う講演であり歪曲に値するとは感じなかったし、さらに未来の科学者に対し、科学的課題究明のプロセスを体験してもらえるという教育的側面でもとても有効な取り組みであると感じた。

    「ロウソクの科学」でファラデー氏が、子どもたち相手に実験を交えながら講演した光景とダブルものがあった。

    本講義は、脳科学に関する講演であると思う。第一章では、「脳は本当はバカなのだ」というような話が、実例とともにたくさん紹介されていた。「ゲシュタルト群化原理」という脳の早とちりの話、能動的に視線を動かせば好きでないものも好きになるという「錯誤帰属」の話、長く接することで好きになってしまうという「単純接触現象」の話、というように専門的な内容を卑近な事例で紹介してくれる。

    本書の中では、脳の不思議を体験できるような実験がふんだんに盛り込まれている。サブリミナル効果が無意識に働きかけているという事実が、データから証明される。まるで手品でも見ているかのように不思議でかつ、興味深い。

    手首を動かす実験では、「手首を動かそう」と意識する前に、すでに脳が準備しているということが分かった。脳が「動かせ」という指令を発する前に、すでに実際に「動いている」という実験データであった。意識する前から脳が準備しているとはどういうことか?脳が指令を出す前にすでにアクションが起きているということはどういうことか?意識は、何者かに支配されているのか?

    この実験結果は、受講した高校生にも非常に印象が強かった。自分としては、意識の前に無意識が脳をスタンバイさせたり、意識の司令前に無意識の指令があったのではと考えてみたくなった。

    そのほか、講義の内容は多岐にわたり、初めて知ったことが満載である。例えば次のようなこと。

    ・「遺伝多型」というものが個性を生み出している事実(血液型の違いや、赤色を感じる受容体の違い、うまみを感じる受容体の違い、嗅覚の違いなど)

    ・生物進化の過程には、機能の「使い回し」があるという事実(今まで別の機能として役立っていたものを、全く異なる方向に転用し、新しい使い方を発見して、能力を開発していくこと)

    ・脳の働きには「ゆらぎ」があること。ゴルフクラブを握る握力は、脳のゆらぎによって異なり、それによってショットの成否が決まる。この「ゆらぎ」の仕組みの把握により、コントロールできる可能性があるということ。

    ・脳の可塑性について。これがあるから、遺伝子で決定されたデフォルトの状態から、さらに変化できる。学習や訓練によって能力を固めていけるのは、脳にこの可塑性というものがあるからだそうだ。

    ・脳のゆらぎ(ノイズともいわれる)には、3つの役割(①最適解への接近、②確率共振、③創発のためのエネルギー源)があるということ

    ・その③創発とは、数少ない単純なルールに従って、同じプロセスを何度も繰り返すことで、本来は想定していなかったような新しい性質を獲得すること。

    本書のタイトル通り、脳はシナプスとニューロンの単純な働きによって機能している。ニューロンがやっていることは、シナプスを経由の入力を足し算し、その結果を次のニューロンへ出力するという単純なものだそうである。しかし、そのシナプス入力に「ゆらぎ」が発生し、創発が起こる。

    最後にリカージョン(入れ子構造)ということについての講義があった。これが我々が心の不思議を感じる要素のようである。「複雑な私」とは、ここから来ているようだ。

    脳の構造や働きについて、高校生と共に学んだが、まだまだなんとなく消化不良感がある。高校生たちの事後の感想にもまだ完全に理解しきれていない様子は感じられたものの、彼らの視点は鋭く、著者にドキッとさせる質問が飛び交い、科学の世界へののめり込みかたは、将来への頼もしさが感じられた。。

    それと同時に、自らが脳の保有者であり、使い手でありながら、その機能について知らないこと(知らなかったこと)が多いということ、またその機能の不思議さに対する驚きがあったということも事実である。

  • 池谷裕二さんってニュータイプだよなぁ。著者一番のお気に入りであり遂にブルーバックス入りした本書を読んで改めてそう思う。日本最高峰の脳科学者が母校の高校生に行った講義で明らかになる、最先端の実験から導き出される脳に関する衝撃の事実の数々。きちんと科学的に根拠のある最新の内容をこれだけポップに語れること自体が凄いのだけど、時に己の常識や価値観すら崩れかねない実験結果の中でも職業倫理を見失なうことなく、あるべき道を提示しようとする池谷さんの姿勢には感服するばかり。これを読む前の自分には帰れない、とんでもない本だ

  • これ、、
    当時兄に貸してもらい読みましたが、
    脳神経学、脳科学から紐解く男性脳と女性脳がもたらす行動や心理の差異。

    かなあり、専門的な内容を著者の、すこぶる明確で、優しく噛み砕いた文で、小学生でも理解できる言葉で書かれていてとても良かった!

    学校図書館にぜひ置いてほしいな、と思える本。

    生まれたときの指の長さで男性性が優位か女性性が優位か手を確認して分かることや脳の神経回路の仕組みなど、身近な事例を交えて、解説されている。

    もちろん脳科学で、人間の行動や心理をすべて説明つくことは出来ないけれど、ひとは脳からの指令で動くのであれば、こんなときなぜ、あの人はあんな態度をするの?
    男性ってなんでこんな言動をするのか。

    など、思いやりと想像力の範疇を超えた悩みの予防策として、知っておきたい知識も詰まっていた。

    この著者はさぞかし頭が良いのだろうと伝わる。
    経歴からも納得を伺える。

    脳神経学、趣味で学んでみようかな。
    解明されてない悩みが少し軽くなれそう…

    あ、余談ですが、
    長らくわたしはTEDを見るのが好きですが、この著者が登壇されてる回の講演もかなり有意義、胸熱でした。。
    興味ある方はこの著書を開きながらぜひYouTubeでご覧になってみてください!

    (商品情報:https://www.amazon.co.jp/dp/4062578301?th=1&psc=1&linkCode=ll1&tag=honnoakari-22&linkId=594d2a420df5e51d33eabbb2713b22fe&language=ja_JP&ref_=as_li_ss_tl

  • 自分の「赤」は他人の見ている「赤」と同じか?といった疑問を持った事がある人にはお奨めしたい。
    「人間の脳では「絶対的な世界」を認識しきれない」「自由を感じる意識はあるが、厳密な意味で人間が信じる自由意志は無い」「よく寝た奴が一番ひらめきやすい」などなど、人間の様々な側面に想像を巡らせる内容がもりもり。
    終わりの方で「こういった社会活動(アウトリーチ活動)について批判もある」と書かれていますが、多少先鋭過ぎる情報でもこうして分かりやすく提供される事で、科学者の卵の意欲を掻き立てるんじゃないかと思います。

  • 書くことがまとまっていないが記憶のために書く。

    本書で紹介される脳や意識の話はどれもおもしろいし驚くものばかりだが、それより印象的だったのは著者の誠実さというか、優しさ。あるいは気概?のような。
    意識の話が差別の話や人類の傲慢さに繋がったりするときがあるのだが、そこに至る根拠が完璧すぎて、すげぇ説得力になる。

  • 武田さんからのおすすめ本でのメモ/
    アガサクリスティの小説
    生涯に長編小説は何冊でしょう?

    正解は..

    脳は思いでを都合の良いように記憶を置き換えてしまう。

    脳の不思議。幽体離脱を脳科学で説明。
    例えば、
    一流のサッカー選手は俯瞰で自分を見下ろす能力がある。

    脳死は人間の死ではない/

    脳(認知)と身体の行動はズレている。

  • 要点
    1
    脳の無意識の作用は強烈だ。ものごとの正しさや好き・嫌いを判断するとき、知らず知らずのうちにこれまでの経験や環境の影響を巻き込んでしまっている。しかも、私たちはそれに気づけない。
    要点
    2
    自らの意志で自由に判断、行動しているつもりでも、実は行動しようと思う前に、脳がすでに動く準備を行っている。「自由」は行動よりも前に存在するのではなくて、行動の結果もたらされるものだ。
    要点
    3
    「意志」や「意図」は、簡素なルールに従って創発されているだけなのではないか。

    似たようなことは人間の世界でもよく起こる。たとえば他人への気遣い。ある人は気がつけるけど、ある人は気づけない。気がつける人にとっては「なぜこんなことにも気がつかないのだろう」といぶかしく思ってしまうが、気がつかない人はそもそも「それが存在しない」世界に生きているから、自分がどれほど気づいていないか、にすら気がつけないのだ。だから、隣にいる人と同じ物を見ても、それを同じように感知しているかどうかの保証は、まったくない。

    正しさの基準は「慣れ」の問題に帰着し、正しさの信念は、結局記憶から生まれる。この世には絶対的な「正しい」・「間違い」の基準はなく、その環境により長く暮らし、その世界のルールにどれほど深く順応しているかどうかが、脳にとっては重要だ。

    もう一歩踏み込めば、「正しい」というのは「それが自分にとって心地いいことかどうか」、つまり「それが好きかどうか」で変わってくる。好き、嫌いは環境にも大きく左右される。たとえば、何度も見かけた物は好きになりがちで、反復提示によって好みが操作されうることがすでに分かっている。また、意識にはっきりとのぼる理由がないままに、むしろ周りの状況を引き込みつつ、好きになったり嫌いになったりもする。たとえば、「あなたは人生に楽観的ですか?悲観的ですか?」という質問をすると、雨の日より晴れの日のほうが楽観的な答えが返ってくる傾向があるのだ。

  • 進化しすぎた脳の続き
    これもまた意外な事実が詰まっている
    特に印象的だったのは
    ・意識するより前に脳は行動の準備をしている
    ・脳は常に予測している
    ということ
    これもまた読みやすく入門者向けだ

  •  最新の脳科学を高校生に語る形式で作られた本なので、一見わかりやすい。でも、普通に持つ脳の常識が揺らいでしまうような実験結果に戸惑うところも。研究の積み重ねで、人間の無意識がどんどん明らかにされてゆくのだろうか。それはどんな姿を見せるのか。私たちの現状の人間観は「作話」されたものだということに、読後、何とか納得しました。私は、どちらかというと、無意識に親近感をいだいているのです。

  • 高校生に対する授業を文字起こしした内容は非常にわかりやすいし、身近に感じることが多い。
    人間は顔の左側で男女の判断をしている…とか。
    握力検査で検査前にサブリミナルで励ましの言葉を見せることで、握力自体に加え、検査器を握るスピードも早くなっている、ということに驚いた。サブリミナルは、恐ろしいほど脳に影響を及ぼしている。

全144件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

監修:池谷裕二
脳研究者。東京大学大学院薬学系研究科薬学専攻医療薬学講座教授。薬学博士。一般向け書籍の累計発売部数100万部超え。

「2023年 『3ステップ ジグソー知育パズル どうぶつ だいずかん』 で使われていた紹介文から引用しています。」

池谷裕二の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×