- Amazon.co.jp ・本 (402ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062645690
感想・レビュー・書評
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記憶狩りによって消滅が静かに進む島の生活。忘れていく人々と一部の忘れることができない人のお話。
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とても不思議な話。非現実な事象がすぐそこにあるように書ける小川さんはすごい。”消滅”を繰り返し、その”消滅”をできない人には警察に消されてしまう。全体にひっそりとした緊張感の漂い、避けられない喪失感にせつなくなる。ラストはそこまで消えてしまうの?と胸が痛くなった。
小川洋子さんは「博士の愛した数式」が有名だけれど、私はこれが小川さんの作品のなかで最高傑作だと思う。
女の人に読んでもらいたいお話。女の人ならきっとわかる気持ちがつまってる。-
「女の人ならきっとわかる気持ちが」
と聞いて、読みたくなった。小川洋子は結構好きだけど、この本は未読(男の私に判るかなぁ~)「女の人ならきっとわかる気持ちが」
と聞いて、読みたくなった。小川洋子は結構好きだけど、この本は未読(男の私に判るかなぁ~)2012/06/20
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題名も物語に負けず劣らず美しい。
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自由とはなんなのか。自由が、あるいは権利が剥奪されていく過程を静かに受け入れてしまう人々の心理に対して、こちらは「なんでそんなに簡単に諦めるんだ!」と思ってしまう。そんな読者と同じ感覚を持つ人物R氏は、隠れ家に閉じ込められ、物語が終わるまで出られない。それも読者と同じである。
藤子F先生の「流血鬼」はハッピーエンドとも読めるが、『密やかな結晶』を読むと、やはりあれはバッドエンドだったのではないかと思う。そう単純なものでもないけど。
小川洋子さんの文章は基本的に完璧で、素晴らしく読みやすく、つるつると入ってくる印象だが、1箇所だけ、ハーモニカの描写で「ここが、ド。次が、レ」というのがあり、そこだけ気になった。ドは吹音で、レは吸音なので、間違いではないけど微妙な表現だと思う。小川洋子にしては珍しくおやっと思うところだった。 -
「記憶狩りによって消滅が静かにすすむ島の生活。人は何をなくしたのかさえ思い出せない。何かをなくした小説ばかり書いているわたしも、言葉を、自分自身を確実に失っていった。有機物であることの人間の哀しみを澄んだまなざしで見つめ、現代の消滅、空無への願望を、美しく危険な情況の中で描く傑作長編。」
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【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/682308 -
息が詰まるような島で、それでも希望を失わずに生きていくーー……
という明るいストーリーで終わらず、最後までちゃんと小川洋子していて良かったです。
解説を読んでこの閉塞感への既視感がとこからのものかが分かってスッキリしました。
予想外の設定が予想外の方向に転がっていく、これぞまさしく小川洋子…!毎度ながらどうやって思いつくんだろう。すごいな…!
p.45
机の上で指を組み、その指によって形作られた半円の空間に、声を閉じ込めるような調子で教授は言った。
p.190
彼は唇をふさいでいた指を頬にはわせ、あごに滑らせ、そのまま真っすぐ喉に下ろしました。そして喉のくぼみの一つ一つを時間をかけて撫でました。まるで声が本当に失われたかどうか、確かめているかのようでした。
わたしは思い切り大きな声で叫びたい気持でした。彼を振り払い、ここから逃げ出したい気持でした。でも実際は、ただじっと身体を固くしているだけでした。彼の指の感触が針金のようにわたしをぐるぐる巻きにしていたからです。
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消滅を繰り返す島。そこに住む小説家のわたしと、昔からの知り合いで何かとお世話をしてくれるおじいさん、担当編集者の男性の話。消滅のあと、人々はその物を認識することができなくなり、なにも感じなくなる。少数だが消滅に影響されず記憶を保てる者もいる。その記憶保持者をゲシュタポのように狩る秘密警察。まるでホロコーストのユダヤ人狩りのようだった。本が消滅したとき、街中で本を燃やしている様は禁書狩りのようであったし、隠れ家に住まう様子もまさにそれ。物語の冒頭から静かな世界だったが、消滅がすすむにつれてそれは増して、真冬の朝のような静けさになる。消滅したはずのものを集めている様は『薬指の標本』を思い出した。作中の別小説がもっとそれに近い。何かを失ってそれを忘れることと、はじめから何もなかったということの違いは何なのだろうか。作中である人物が、何かを感じることが大切なんだとしきりに訴える。「物語の記憶は、誰にも消せないわ」という叫びが印象的だった。それは作者の願いのようでいて、実は我々読者の気持ちの代弁なのかもしれない。
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淡々とした狂気というか、静寂な美と捉えるかは人それぞれだろう。思いの外時間がかかった。埃っぽい図書室とかで読みたかったな。演劇に向いてそうと思ったら既に作品化されてた
・何かを祈るなんて、久しぶりのことだった。
・「完全といえるかどうかは分らない。記憶はただ増えるだけじゃなくて、時間をかけながら移り変わってゆくからね。時には消えてゆくものだってある。でもそれは、君たちの身に降りかかってくる消滅とは、根本的に違う種類のものだけど」
・「ただの小さな紙切れかもしれないけど、この中には奥深いものが写し出されているんだ。光や風や空気や、撮っている人の愛情や喜びや、撮られている人のはにかみや微笑みがね。そういうものはいつまでも心に残しておかなくちゃいけない。そのために写真を撮ったんだからね」
・「それほど深刻で難しい考察じゃないんです。何かもっとさり気なくて、つつましくて、ありふれたものなんです。台所に置き去りにされた、誰かの食べ残しのショートケーキみたいな存在としての考察なんです」