弥勒 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 76
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  • Amazon.co.jp ・本 (672ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062732789

感想・レビュー・書評

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  • 私の場合正直言って、「篠田節子の書く本は面白い」という固定観念に近い予断を持って読んでいる、という影響もあるのかもしれないが、まあこれもいつもの篠田節が炸裂しているじゃないか。
    町田康や辻仁成、あるいは古川日出男に皆川博子といった諸氏と同じように、人心の深奥に響く文学性とエンターテインメント性とが見事に両立している作品を、この人は書く。
    「弥勒」も例外ではなく、良質のミステリーを読んでいるかのように、「この先はどうなるんだろう?」と早くページを繰りたくなる気持ちを読者に感じさせつつ、同時に読む者に、我々の人生とは畢竟何なのか、という根元的な問い掛けを投げつける。
    生きるとは、生まれるとは、死ぬとは、喰うとは、救いとは、文明とは、自然とは、愛とは、いったい何なのか。

    そしていつものことながら名人芸だなあ、と思うのだが、高邁な観念も分かりやすい平易な言葉と文脈で綴られているので、ともすれば説教臭くなりがちな登場人物の発言やモノローグもスッと心に入ってくる。
    「結局自分は、死ぬまで出口を探し続けるのかもしれないと思った」。
    「殺し、殺されることによって成り立つ人の生を救済するものはあるのだろうか、とふと思った」。
    こういった独白に共鳴している自分に気付き、あたかも荒野に独りぽつねんと佇んでいるかのような想いに至ることがある。

  • 凄い強烈な小説でした。
    読んでいて昔何かできいたクメール・ルージュを思い出しました。人間の極限状態を垣間見せられた感じがする。

    人間を腐敗させるものとして文化や宗教、さらに近代的なもの一切を排除し、すべてを人間の、合理的判断で作り直す。ゲルツェンが結局、神として決断を下すしかないわけだけど、やはり人間は神にはなれないわけで、現実にやったとしてもこの小説と同じようにあっけなく崩壊してしまうんだろうな。

    ただ、不完全という意味ではカターの町もまさに不完全だったわけで、自分自身のいる社会だって実は異常な社会なのかもしれない。でもそんなこと言い出したら、正常な社会ってなんなんだ?とも思えてきて。。。

    とにかく細部まで細かく事象が記されている分、リアリティがあって、いろいろと考えさせられる小説でした◎

  • £1.0


  • ヒマラヤの小国・パキスムの首都カターは、仏教美術に彩られた美しい町だった。
    インドから北上するヒンドゥー教とチベットから南下するチベット密教が共存して金銀宝石を駆使した美しい仏像を作りだしていた。

    一度この国の財宝を展示企画した事のある永岡は、今は新聞社で美術品の展示や美術館系の仕事をしていた。
    永岡はパキスムの展示をもう一度しようと計画を立てていた。
    あるパーティーの日。
    妻が髪の毛に刺した櫛に目が留まる。
    パキスムの美術品は、国外に持ち出された事がないのに何故妻がしてるのか?
    突き詰めると、パキスムでクーデターが起きたらしい。
    永岡は、仕事でインドに行った時にパキスムの情勢が気になり国交を閉ざしたパキスムに単身で潜入する。
    そこで、見たのは僧侶達の虐殺された姿だった。
    そして、永岡も革命軍に捕らえられた。
    捕らえられた永岡は、想像も絶する日々を送る。
    生きる事、平和、理想、人とは、そして救いとは?
    篠田節子が送る超大作です。

    え〜と〜疲れました。
    中身の濃い重い作品です。
    都会で働いてた永岡は、貧困の国で革命軍に監視されながら暮らす一年。
    想像を絶する日々の中で、救いとはなにか?訴えてます。
    現代の日本に生きる事は、物凄く幸せな事なのかもしれません。
    壮大なスケールなので、読むときは気合を入れていきましょう。
    こういう作品は、凄く価値があるのでは?

  • 架空の国のお話とは思えないほどのよくできた話。話の導入部がすばらしい。
    これを書き上げた労力も並大抵のものではないだろう。

    ただ筆者がここまで語らなくても読者には伝わるのではないかと思う部分が多々あり。
    説明が長くなりがちで、本も厚くなってしまった印象。
    もっと簡潔にかいても充分素晴らしい本だと思った。

    でもこの本に出会えてよかった。
    数年後また読みたい。

  • おそらくはチベット近辺の某国をモデルにしたパスキム。
    その仏教美術に魅せられた日本の「文化人」である主人公が足を踏み入れたのは、今まさにクーデターの最中の国。
    緻密な筆致が読むごとに迫力を増し、生と死と、宗教と国家、そして命を問いかける重厚な内容。
    人の価値観の根底をがっつり掴んで揺さぶりをかけ、果たして自分の信じていたものが正しかったのか、と問いただす読了後。
    精神状態が万全なときに読むのをおすすめ。
    かなりヘヴィです。
    ただし、覚悟して読むだけの価値あり!
    厚みもあっぱれ、読み手への挑戦をがっしりと受けて立ちましょう!


  • 11月23日読了。「このミステリーがすごい!」1999年度の第17位の作品。中国・インド・ネパールに国境を接するとされる架空の国パスキムの文化・芸術に魅せられた日本の新聞記者が、政情不安の只中のパスキムに潜入しそこで見たものと、1年のパスキム滞在で彼が体験することとは・・・?高潔と堕落、文明と退廃など異なる価値観が交錯し、宗教とは?国家とは?幸福とは?人間とは?と、「答えは様々なのだよ」などとしたり顔の結論では済まされない問いかけが押し寄せる傑作。読み進む間の緊張感もたまらないものがあり、重い読後感が残る。オチでアッと言わされるようなカタルシスミステリーを求める人には向かないだろうが、実に読み応えのある傑作。

  • こんなに凄い小説は読んだ事がない

  • 伝統美術の保護を求めて革命中の国へ密入国した主人公。
    首都の華麗な姿にひかれて入国したものの,
    そこにあったのは破壊と殺戮。
    しかも首都以外は予想だにしなかった状況。
    革命軍は霊的なものを全て否定するが,
    物語の最初と最後は盗み出した弥勒の罰という霊的なものに挟まれているという構造が面白い。

  • ヒマラヤ近くの架空の国のお話。
    衝撃的で重たい内容ですが、国とは社会とは宗教とはと考えさせられます。中国の共産主義やポルポト政権を題材としているそうです。

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著者プロフィール

篠田節子 (しのだ・せつこ)
1955年東京都生まれ。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。97年『ゴサインタン‐神の座‐』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。ほかの著書に『夏の災厄』『弥勒』『田舎のポルシェ』『失われた岬』、エッセイ『介護のうしろから「がん」が来た!』など多数。20年紫綬褒章受章。

「2022年 『セカンドチャンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

篠田節子の作品

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