骸骨ビルの庭(上) (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062770217

感想・レビュー・書評

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  • 「骸骨ビルの庭」
    タイトルだけだとおどろおどろしくてホラー小説のようですが、全く違う内容です。
    大体の内容をかいつまんで説明すると-。

    主人公は大会社を早期退職した男性。
    彼は再就職した会社で、あるビルに居座っている連中を早々に立ち退かせて欲しいという仕事を請けます。
    そして彼は単身その「骸骨ビル」に入居してビルに居座る人々を観察し、彼らと心の交流をもちます。

    居座る人々は以前そのビルの持ち主だった人の子供たち。
    子供たちと言っても実子ではなく、皆親に捨てられ行き場がなく、骸骨ビルの持ち主に育てられた人々。
    彼らは皆個性的で、何をして生活しているのか分からないような人やら、ヤクザ、オカマなど、どうも一筋縄ではいかないような面々。

    戦中建てられたこの骸骨ビルと呼ばれるビルは今は別の持ち主の者となり、入居している者は立ち退きを迫られています。
    そんなビルに彼らが何故、骸骨ビルに居座るのかというと-。

    やがて成長した彼らの内の一人が養父に子供の頃から性的虐待を受けていたと訴え、マスコミはそのスキャンダルを書き立てた。
    彼女は多分、立ち退きを迫る人間たちにいくばくかのお金をもらってそんな事をしたと思われますが、彼らの養父はその心痛から亡くなってしまった。
    そして彼らはその女性が謝罪に来るまではここにいると居座っているといういきさつからなんです。

    宮本輝さんの本は大体において結論が出ないんです。
    結局何だったんだ?
    これ、どうなるん?
    と思う人もいるかも知れない。
    だけどお話の中に結論があるのだと思ってます。
    登場人物の何気ない言葉とか、行動とかに。

    想像力が広がり、静かな余韻の残るお話でした。

  • レビューは下巻にて

  • 著者の「にぎやかな天地」でチラリと触れられた話が、ひとつの物語としてここに。
    (気になっていた部分だったので、とってもコウフン!)

    相変わらず美しく巧みな文章ですね。

    物語としても、宮本輝の中でかなり上位に食い込むであろう…という程好きです。
    (前編なのにこんなこと言っていいのかしらん)

    大坂は十三にある通称「骸骨ビル」
    そこのオーナー・阿倍轍正と、その友人・茂木泰造に育てられた孤児達。
    そして立ち退きを命じるためにやってきた、主人公の八木沢省三郎。

    とにかく、登場人物皆がいとおしすぎる…。
    (沢山出てくるので覚えるの大変ですが…誰か相関図とか作ってくれないものか!)
    一人一人必死に生きてきた物語があり、ヤギショウさんに語ることで徐々に明らかにされ、それが人物としての立体感を出していて思わず感情移入してしまいます。
    薄っぺらくないんですよねェ〜確かにそこに彼らの息遣いを感じるわけです。

    避けて通れない戦争の記憶。
    胸を抉り耳を塞ぎたくなるようなものばかりです。
    (とくに、ヒロコ姉ちゃんの空襲の…拙い想像力ながら映像が頭に浮かび、吐き気がする…)

    彼らがどうなっていくのか…どういった決着をみせるのか…
    かなり好きなお話なので、下巻できれいに終わらせてくれることを願うばかり!

  • 大阪弁 人のぬくもり

  • 宮本輝、予備校生だった二十年前に出会った作家。模試の国語で『星々の悲しみ』が出題されて以来の付き合い。大学二年くらいまでの間に、当時出版されていた作品の、ほぼすべてを読んだと思う。
    それからは数年に一冊、なんとなく手に取り、毎度のようにしっくりと身体に染み込んでくる感覚を味わってきた。
    たぶん、森の中の海かなんかを数年前に読んだ、次がこれになった。

  • 「わたしが畑仕事で知ったことは、どんなものでも手間暇をかけていないものはたちまちメッキが剥げるってことと、一日は二十四時間がたたないと一日にならないってことよ。その一日が十回重なって十日になり、十日が十回重なって百日になる。これだけは、どんなことをしても早めることができない。」ナナちゃんの話

  • 屋上に何本もの物干し竿が突き出していて、それが人間の骨みたいだったので、骸骨ビルと呼ばれている建物に子供の頃から住み続けている人たちの物語です。
    宮本輝さんの作品は、いつも初めはとっつきづらいけど、徐々に世界に入り込んで抜けられなくなります。

  • 宮本輝は私が初めて好きになった作家なので、思い入れが強い。でも20年は彼の作品を読んでいない。本当に久しぶりに戻ってきた感じで、とても懐かしい。穏やかで美しい日本語を感じることができる数少ない作家だ。

    終戦後に戦災孤児や親に捨てられた子供が集まって育ってきた大阪は十三にある杉山ビルディング。そこで育った人々や育ての親であるビルの所有者の秘められた過去や思い。立ち退きを求めるためにこのビルにやってきた管理人の目から彼らの美しいだけではない、裏の顔が漂ってくる。

    人情味豊かに、なおかつミステリアスに進む物語にページをめくる手が止まらない。

  • 教訓的であり、人が誰かのために生きることの尊厳を改めて考えさせられた作品だった。2度読んで2回ともおもしろかった

  • 日曜朝のFM、小川洋子さんのメロディアスライブラリーでこの本を取り上げていた。表紙のバロック風というか不気味なイメージにも惹かれ手に取った。
    表紙のイメージとは違って、大阪十三のゴテゴテしたような、侘しいようなビル。かつての孤児達の職業は猥雑さが満載だが、スッキリ書かれているので、いやらしさが無い。そのシーンを想像すると、かなり珍妙な風景も多く、笑ってしまう。女性にはこの本お勧めし辛いな。
    戦後捨てられた子供達と子供達を育てた2人の男の物語。主人公はビルの明け渡しのために乗り込んだ中年。肝が据わっているのか、いないのか、良く判らない。彼ら一人ひとりが語りだす話を聴きことが小説の眼目になっている。だから、物語は全然動かない。にもかかわらずジワジワ沁みてくる。
    料理を作ったり、庭仕事をすることが、如何にも地に着いた仕事のようで、物語に深みを与えている。

    この物語はどう収斂するのかと思いながら読み進める。何か起こったようでもあり、何もなかったような気もする。それでも深い満足を感じながら本を閉じた。
    何が言いたいのか判らないレビューになったが、今年一番良かった本になると思う。
    これから、茂木が何を求めていたのか、ゆっくり考えてみようと思う。

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著者プロフィール

1947年兵庫生まれ。追手門学院大学文学部卒。「泥の河」で第13回太宰治賞を受賞し、デビュー。「蛍川」で第78回芥川龍之介賞、「優俊」で吉川英治文学賞を、歴代最年少で受賞する。以後「花の降る午後」「草原の椅子」など、数々の作品を執筆する傍ら、芥川賞の選考委員も務める。2000年には紫綬勲章を受章。

「2018年 『螢川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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