おまえさん(下) (講談社文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (616ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062770736

感想・レビュー・書評

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  • たくさん出てくる登場人物の人物像が様々で違っていて面白い。
    とくに女性キャラクターの描き方はアガサクリスティーを連想させるもので、女性作家だなあと思いながら読みました。

  • 上巻でまどろっこしいと感じた人々の絡みも下巻では重要な設定だったと納得。史乃、信之輔、みな哀しい。

  • 「ぼんくら」「日暮し」に続く、本所深川の同心・井筒平四郎が
    主人公の、江戸を舞台のした時代劇シリーズ、第三弾。
    ・おまえさん 十九~二十一・・・弓之助の謎解きに衝撃が!
    ・残り柿・・・おでこの実の母おきえの動向と語る告白に政五郎は。
    ・転び神・・・賑やかになった丸助の周辺。助っ人淳三郎が登場!
    ・磯の鮑・・・逡巡する信之輔を立ち直らせたのは多くの人の言葉。
    ・犬おどし・・・二人の行方が判明・・・そして、おまえさん!
    きっかけは様々です。それは些細なモノかもしれない。
    たまたま聴いてしまったこと。
    しかし、その後の人生は綱渡り。
    それで生まれた因縁を断ち切って綱を渡り切れれば良いが、
    因縁に飲まれて足を踏み外せば、奈落に落ち、悪事を重ねる。
    おまえさん本編は謎解きから始まり、暴かれた首謀者たちの、
    逃走で一旦幕が引かれる。
    続く3編の事件の幕引きの間にも捜索は続き、
    最後の1編で「おまえさん」の幕が閉じ、完結する。
    男はどこまでも馬鹿で、女はどこまでも嫉妬やき。
    恋は盲目と言いますが、これが物語の核に。
    多くの登場人物が描く人間模様は、絡み合って終結を迎えますが、
    相変わらずの方々のみならず、新しい登場人物も個性的で、
    また、シリーズに登場していた人物も名前だけでも登場するのが、
    なんとも嬉しい。それと終盤に登場する淳三郎が、良いんだな。
    それにしても、人だなぁ。
    恋もあれば嫉妬あり、人だからこその愛憎劇だなぁと、しみじみ。

  • 「ぼんくら」から始まる同心 井筒平四郎と周辺の人々の物語の最終巻を読み終えた。村上豊さんのひょうひょうとした挿画も味わいがあって、手に取るのが楽しみなシリーズだった!

    宮部さんの時代小説は、人物造形や描写について、その背景や人物描写がとても丁寧で、作り込まれたあざとさも感じず自然で、興味深く読み易いという印象。

    おそらく、宮部さんと描かれる登場人物たちの程よい距離が、読んでいて心地よいと感じるのだと思う。遠すぎず、近すぎず、それぞれ魅力もあれば、誰しも認めたくない人間の業や性由来の気性に、どこか自分を重ねながら読んでいるのかもしれない。

    ただ、この長編シリーズ、さすがに最終編のため、多めの登場人物たち。記憶がすぐ飛ぶので、忘れないうちにと、私自身がこの下巻は消化試合の感否めず。

    女性の嫉妬にスポットを当てている描写が少しばかり多めで、事件の種明かしも「さもありなん」。もう少し毛色の違うエピソードや背景があれば、さらにぐいぐいだったかな。

    個人的には、おでこ君の実母おきえの来た道、行く道が人間臭くて良かった。自分勝手で、子を捨てる事すら厭わない女性。女性の道を選んだようでいて、実は自己決定をきっちりと。宮部さんが善悪ではなく、描き切っている様が心地よかった。

    さてと、次は「あかんべい」読もう。楽しみが続く。

  • 上巻で弓之介がある程度、事件の道筋をつけ、
    下巻ではその謎解きと事件のその後がたっぷりと。

    うーん、女の子はわからん。
    恋は盲目、恐ろしや。

    丸助さん、夜鷹のお仲さん、
    弓之介の兄の淳三郎のやり取りが楽しく、
    ちょっと重めの事件に光を指していてホッとしてさせてくれる。
    淳三郎が活躍するような続きを期待してしまう。

    前2作の方がが人情ものの色が強かったのでサクサク読めたなぁとは言え、よく見れば、今作が1番ページ数多くボリュームがあるので、それからすると、やっぱり続きが気になってサクサク読めたのであった。

    やっぱり宮部氏のシリーズものは続きを期待させてくれる。

  • 今年の「読み初め」にしようと思って我慢していた、とっておきの一冊。元日と二日にわたって読みふけって、たっぷりと堪能した。こういう全幅の信頼感を持って読んでいける作家さんはちょっと他に思いつかない。素晴らしかったです。

    時代小説は苦手で、宮部さんの作品も現代物が好きだ。でも、本作に連なるシリーズは楽しんで読んできた。いつも感じるのは、登場人物がみんな生きていて、ほんの端役に至るまで人間としての奥行きがあることだ。のっぴきならない「その人らしさ」が立ち上ってくるようだ。特に、善人とは言えない人たちの描写に力がある。「人間」というものを抉りだしていくその筆致は、現代物ではしばしば胸に痛すぎる気がしてしまうが、こういう時代物ではワンクッションある感じがして、ほっとする。

    善人といえば、本シリーズおなじみのお徳さんがその代表だろうが、本作では丸助さんという、これまた絵に描いたような「いい人」が登場していて、しみじみ温かい気持ちにさせてくれる。こういう人たちが、宮部作品では実は主役なんじゃないかといつも思う。こういう人間を書きたいから小説を書いているんじゃないかなあと勝手に思ったりしている。

    考えてみると宮部さんの書かれるものではいつもそうかもしれないが、本作では特に、印象的で語りたくなる人物が目白押しだ。老番頭の善吉さん、本宮源右衛門、弓之助の兄淳三郎、玄徳医師、夜鷹のお仲…、まだまだいるが、どの人をとっても主人公となる物語が作れそうだ。いやまったく素晴らしいです。

    • じゅんさん
      ホントに!ホントに!(*^_^*)
      ほんの脇役である人までが、しっかりと血肉を持った人物として立ちあがってくるのが嬉しいですよね。
      玄徳...
      ホントに!ホントに!(*^_^*)
      ほんの脇役である人までが、しっかりと血肉を持った人物として立ちあがってくるのが嬉しいですよね。
      玄徳医師だって、お仲だって、顔の輪郭や佇まいまで私の頭の中に浮かんでますもの。

      そっか、お徳さんや丸助さんが主役・・。(*^_^*)うんうん、そんな風に思うと、新年早々気持ちが温かくなります。
      たまもひさん、どうぞ今年もよろしく!でございます。
      2012/01/03
    • たまもひさん
      こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします。
      昨年は多くの方にとって大変な年になってしまいました。被災者の方を思えばたいしたことはないので...
      こちらこそ、今年もよろしくお願いいたします。
      昨年は多くの方にとって大変な年になってしまいました。被災者の方を思えばたいしたことはないのですが、私個人もちょっと辛いことの続いた一年でした(たなぞうがなくなったことも、その中のちっちゃな一つかもしれません)。
      今年はなんとか良い年になってほしいなあと祈りながら、力づけられるお話をまず読みたいと思い「おまえさん」をとっておいたんです。本当に宮部みゆきさんはすごいですね。
      今年もたくさんお話しさせてください。今年の初コメントありがとうございました。
      2012/01/04
  • 宮部みゆきの時代小説。「ぼんくら」「日暮らし」に次ぐシリーズ3冊目。
    2006年から2009年にかけて連載され2011年に刊行された近作です。

    「ぼんくら」の2年後、「日暮らし」の翌年、同じ舞台で前作以前から登場しているキャラクターと近作で新たに登場したキャラクター、いずれ劣らず魅力的な彼ら彼女らのエピソードが一つ一つ丁寧に描かれます。
    こういう作品を表すのにいい言葉はないのか見回してみて、どうやら「群像劇」が一番しっくり来るのではないかと思いつきました。

    本作では生薬を商う瓶屋にまつわる事件を、人情味溢れる井筒平四郎と切れ者超絶美少年弓之介という二大主人公にとどまらず、その周りのキャラクターとの関わりを通して描きます。
    試しに、思いつくままに登場人物を書き出して見ます。
    井筒平四郎、弓之介に加え、名前が与えられていない平四郎の細君の存在感が増しています。弓之介の生家からは、新たに四男弓之介の上の兄、三男の淳三郎が登場人物に加わり、今作特に下巻ではやや影の薄い弓之介を差し置いてその世慣れた振る舞いで読者を篭絡します。
    回向院の茂七親分チームでは、相変わらず圧倒的な存在感を放つ政五郎は「女」に押され気味で、一方おでこの三太郎は異能を活かした便利なツールであったはずが、「日暮らし」に増して扱いが大きくなり、生みの母おきえのエピソードにとどまらず彼女すらできそうな勢いです。
    「鉄瓶長屋の心」の二つ名を持つお徳は煮売り屋から大出世を果たし、前作からの2人に加え本作で3人目の使用人を抱え、随所に美味そうな料理や弁当を手配しています。前作から登場している彦一とお六は所帯を持って一膳飯屋を営むことになりそうです。さらにお徳の男版の丸助は、調子のよい丸助節を駆使し、読者の心をほっこりさせてくれます。
    そして信さんチームでは、本作の最重要人物といっても過言ではない「金壺眼」間島信之輔と本宮源右衛門。それぞれ莫迦な男と居場所のない男という、本作で繰り返し語られるテーマを体現しています。
    最後に美女トリオの史乃、佐多枝、女差配人おとしは、それぞれ「女」として容姿にコンプレックスのある信さんを苦しめます。特にみすずに次いで超絶美少女枠に収まった史乃が、不幸へと一直線に向かう道を誠実な男の手を振り切ってまで歩み続けるさまは、乃南アサの「結婚詐欺師」を思い出しました。

    ほんの少し振り返っただけでこれだけたくさん思いつく登場人物一人ひとりにつき、その人となりが語られ、事件との関係が明かされ、登場人物同士がかかわりあって世界がどんどん厚みを増していきます。各キャラクターに十分な紙幅を割き、先を急がずにじっくりとと語る作者の姿勢からは大人気作家となった余裕すら感じられます。

    自分は、そんな群像たちの中で、誰よりも信さんこと間島信之輔に肩入れしながら読みました。むき出しのコンプレックスにごしごしと塩を擦り込まれるような体験を通じて町方役人の顔になった信さんと一緒に酒でも飲みたいと思う一方で、擦り込んだ側が自らが選んだはずの不幸に落ち込んだのを見て、ちょっと溜飲を下げ、その後、うんと遠くへ行ってしまったことに歯噛みしました。ああいけないいけない、こんな気持ちが募るとネットリンチに参加するようになってしまうかもしれません。

    まだまだ語りつくされていないこの世界、何よりも弓之介の養子問題が決着していませんし、新キャラ淳三郎と一回り成長した信さんを見てみたいですし、おとく屋二階の耕人堂の様子も気になります。
    「初ものがたり」のあと書きにもあったように、ゆっくりでいいので、これからも語り広げていただきたいと切に希望しておきます。



    初出
    「おまえさん」小説現代 2006年8月号~08年9月号
    「残り柿」 小説現代2006年11月号~09年1月号
    「転び神」 小説現代2009年2月号~4月号
    「磯の鮑」 小説現代2009年5月号~7月号
    「犬おどし」 書き下ろし

  • このシリーズは本当に登場人物の人物造形が魅力的。新たに登場した弓之助の兄、淳三郎がまたとてもいい。軽い、女あしらいが上手い、顔もいい、一見馬鹿に見えるけどそうではない。読者としても彼の魅力はよく分かるし、普段は大人びている弓之助がいちいち彼に突っかかるのも微笑ましい。
    そして間島信之輔が思い悩むシーンが多かった今作だが、彼の苦しみもよく分かる。この下巻は普段より恋愛に焦点が当たっていたようだが、お徳の「幸せ者のそばには必ず気の毒な者がいる。それは仕方ないことなんだから、それに一生囚われたままでいる方が不幸だ」という台詞が胸に染みた。
    ただ、ミステリーとしては前作『日暮らし』の時も感じたことだが、あまりにも弓之助の推測頼り過ぎるのでは。彼にも間違うことがそろそろないと割に合わないと思ってしまった。
    とりあえず弓之助ロスになってしまっているので、次回作に期待したい。いつか出るのかな、、

  • 再読。下巻の最初に謎解きがあり犯人がわかったにもかかわらず、結末までにまるまる1冊を費やす、宮部さんにしかできない展開。これだけ魅力的なキャラクターを様々に描きだすのに、こと色恋のからんだ女性を描くとなんと辛辣なことか。またそれを同じ女性の視点でばっさりと切り捨てるあたりが秀逸。男はみんな振り回されっぱなし。しかしおでこまでいつの間にか色恋とは、ビックリさせんなよ。これも続編が待ち遠しいシリーズのひとつ。巻末に解説がないなあ、と思ったらこれ単行本と文庫本が同時発売された大サービスだったんだっけ?

  • 下巻も600ページを超える大作。読みきりました。

    宮部みゆきの時代小説もありだな。

著者プロフィール

1960年東京都生まれ。87年『我らが隣人の犯罪』で、「オール讀物推理小説新人賞」を受賞し、デビュー。92年『龍は眠る』で「日本推理作家協会賞」、『本所深川ふしぎ草紙』で「吉川英治文学新人賞」を受賞。93年『火車』で「山本周五郎賞」、99年『理由』で「直木賞」を受賞する。その他著書に、『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』『三鬼』『あやかし草紙』『黒武御神火御殿』「三島屋」シリーズ等がある。

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