文庫版 死ねばいいのに (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (466ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062773515

感想・レビュー・書評

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  • 世に起こる出来事は、複雑にみえて実は単純なのかも知れません。単純なものを複雑にしているのは、人間の心の有りようだったりするわけです。だからといって、ものごとを単純に考えれば心が軽くなるかというと、そうでもないわけで、人間は自らの愚かさ故に迷ったり、苦しんだり、悶絶したりしながら生きていかなければなりません。そうであるなら、いっそ〝死ねばいいのに〟と言われても、それがそう簡単なことでもなくて、この小説に登場する被害者のように、〝死ねばいいのに〟と言われて、〝はい〟と微笑みながら死んでいけるのは、実はとても幸福なのかもしれません。主人公は無学で教養もなく、社会的常識に欠け、礼儀知らずで、言葉の使い方さえ知らない青年です。アルバイトもろくに勤まりません。無職でその日暮し。一般的には社会不適合者とみられても仕方のない人物です。けれど彼は、人が複雑にしたものを、単純明快な形に置き換えて理解します。人の語る言葉の虚飾を剥ぎ取り、ものごとの本質を捉える純粋な思考回路を持っているのです。彼の有する善悪の基準は、社会に適合した一般人より、ずっと明瞭です。現にあまりに素直な彼の問に、明確な答えを出せる人物はいませんでした。彼はただ、教養を身につけるに相応しい環境で、生きてこなかっただけなのかも知れません。が、そんな彼でさえ、最後の最後のところで、純粋を通り越した理解不能な出来事に遭遇し、怖くなってしまったのでしょう。この世の中は、ものごとを素直に受け入れるだけではすまされない、神仏の慈悲すら拒まれてしまうほど、不可解なものなのかも知れません。いずれにしても人間は、愚かで罪深い生きものなのですから、この世という地獄に生きて、常日頃の行いを償わなければならないようになっているのかも・・・ですネ。

  • すらすら読める。なんかこう、身につまされる思いもあるし、登場人物に対してイライラしたりもするのだけども、ケンヤが憑き物を落とすように相手を言い負かすのは、すっきりすることもあれば、極論すぎるだろと思うこともあり。結末も楽しめたし、やっぱり京極さん好きだ。

  • 他の誰でもなく、自分が暴かれていく感覚に頁を捲る手が止まらない。

    彼女だけは過ぎるほど素直に生きていて「菩薩」のようではあるけれど
    彼女だけが与える恐怖がある

  • 「死ねばいいのに」

    渡来が、殺された鹿島の関係者に鹿島の話を聞いてまわる。
    渡来はすっとぼけててだらしない口調なのに、会話が終わる頃には、鹿島の関係者は大事なことに気付いたようになっている。
    どこかしら京極堂の憑物落としのように感じられた。

    登場人物のどれもが言う不平、不満は、ともすれば自分の口からついて出そうな不平、不満ばかりだ。読了して渡来に憑物を落とされた。

  • タイトルにびびりながら、また、このタイトルが作中で繰り返されることにも、若干びくびくしながら読了。この人の作品は、ひっそり後引く感じがなんとも言えないのです・・・

    • cherryonaさん
      うわ!どきっとするタイトル!こないだそういえば書店見かけた時もどきっとしたんだった。
      読みたくなってきた(笑)
      うわ!どきっとするタイトル!こないだそういえば書店見かけた時もどきっとしたんだった。
      読みたくなってきた(笑)
      2012/12/02
  • 言葉は悪いが正直すぎるくらい正直な健也の前に建前やプライドをバリバリと引き剥がされていく人たち。

    唯一、亜佐美だけが驚くほどに素直だった。世間一般からすれば惨め過ぎる人生なのに、それでも自分は十分幸せだったと。だから健也の「死ねばいいのに」ということばにも、幸せなうちに死にたいと。

    健也が亜佐美に『協力』してしまったのは、許否されると思った究極の選択に、亜佐美があっけなく同意したことに動揺し、コントロールが効かなくなったからだろう。

    でも本当に亜佐美は幸せだっただろうか。虐待され続けた故に、それに合わせることに慣れてしまったからではないか。最期の時の笑顔も。

    健也のこの後は書かれていない。情状酌量はされたとして、彼は幸せに生きられただろうか。
    健也が「幸せとは何か」を考えられなかったことも、この事件の引き金だったかもしれない。

    つい頭にくると軽々しく言ってしまう「死ねばいいのに」。
    その言葉を発っしてしまう時、「今渡しは幸せじゃない」という悲しみが入っているとしたら、とても辛くはないだろうか。
    自分の失態がたいしたことでなくても、この言葉を向けられれば、心は痛みを感じる。
    じっとこらえて、発話者の怒りや被った状況に共感をもって考えられる人であるよう、この物語を教訓としたい。



    「死」という言葉に惹かれれて、この本を手に取った。

  • 我が身を振り返ったね。

    最初に登場する菩薩の絵、人形。
    つまり彼女は菩薩だと。

    昔「奇跡の海」という映画があってあれは超名作なのに
    日本人にはちょっと難しかったから知る人ぞ知るだろうけれども、
    この小説の彼女がその映画の主人公にダブるんだよね。

    でもこの小説の彼女は菩薩でもさ
    殺人をさせてしまうわけだから、そこはどうなんだろう
    そのあたりの破たんがどうも論理的にううむ。

    でもおもしろかったな。
    京極さんやっぱりすごい。

  • そう来るかーっていう!
    ケンヤくんの軽い口調が痛快。
    さすがの京極夏彦という感じでした。

  • 京極夏彦作品の割りには読みやすく、すんなりと読了出来た。
    これがミステリーかと問われれば、難しいところだが、著者の訴える
    べきことは十分伝わってくる作品であった。

  • さすが京極夏彦、文章が凄くて引き込まれる。どちらかというと好き嫌いの別れる作品で、ミステリィとは言い難いかもしれんけど、俺は嫌いじゃない。

    登場人物の一人一人の言い訳が、自分に当てはまり、主人公の言葉が胸に刺さる。

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著者プロフィール

1963年、北海道生まれ。小説家、意匠家。94年、『姑獲鳥の夏』でデビュー。96年『魍魎の匣』で日本推理作家協会賞、97年『嗤う伊右衛門』で泉鏡花文学賞、2003年『覘き小平次』で山本周五郎賞、04年『後巷説百物語』で直木賞、11年『西巷説百物語』で柴田錬三郎賞、22年『遠巷説百物語』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『死ねばいいのに』『数えずの井戸』『オジいサン』『ヒトごろし』『書楼弔堂 破暁』『遠野物語Remix』『虚実妖怪百物語 序/破/急』 ほか多数。

「2023年 『遠巷説百物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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