作品紹介・あらすじ
『寄生獣』で世を震撼させた岩明均氏が漫画家としてデビューする前から温めていた物語、それがこの『ヒストリエ』。舞台は紀元前、後にアレキサンダー大王の書記官となるエウメネスの波乱に満ちた生涯を描いた歴史大作です。蛮族スキタイの出身でありながらそれを知らず、都市国家カルディアでギリシア人養父母に育てられたエウメネスは、そのおかげでギリシア的教養を身につけることとなる。ある日養父がスキタイ人に殺され、自分の出自を知ったエウメネスは奴隷の身分に落とされてしまう。それが彼の波乱の旅の始まりだったのです。
マケドニア王フィリッポスに見初められ、書記官となったエウメネス。そこで 出会った王子アレクサンドロス(後の大王)の二重人格の秘密に触れ、さらに は王の依頼でマケドニア将棋を開発する。一方、マケドニア軍は近隣に覇を唱えるべく東進を開始。拠点になるのはエウメネスが育った町カルディア。マケドニア軍の一員としてエウメネスは旧知の人々と再会した。目指す攻略先はビザンティオン(現在のイスタンブール)である。
感想・レビュー・書評
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この7巻。
まず奇妙な表紙が目に入る。
古代の壁画ちっくなのっぺりとした立体感のない顔。
誰だろうか。
6巻までには出てきていない人物である。
そんな表紙の謎がわかるのは、
アレクサンドロスが少年時代を回顧するシーン。
アレクサンドロスが夜中目覚めて、
奇妙な予感に背中を押され母親の寝室へ足を向けると、
そこで母親とまぐわう男の姿を見る。
この母親の浮気相手が表紙の人物である。
男は結局、
息子への言い訳のため「慮外者(無礼者)」扱いされ殺されてしまう。
この男はなんなのか。
父親を匂わせてはいるが、
7巻を読み終わった時点でははっきりしないように思われた。
そうして読み終わってからも、
「父親かもしれないがよくわからない男」を表紙に使うのは、
どうも変、おかしいという思いが募ったので、
もう一度よく表紙を眺めてみた。
すると、ひとつの発見が。
胸の甲冑のところにメドゥーサと思しき絵が描いてあったのだ。
ということはつまり、
ペルセウスかそれにあやかるなにか英雄的人物であろう、
という推測が成り立つわけである。
そこで早速「ペルセウス」をウィキペディアで調べてみた(現代っ子)が、
この絵にまつわる話は出ていなかった(・・・情弱)。
けれども挫けず考える。
然る後、はたと気付く。
そういやこの漫画、やたらと蛇が出てきやがるな、と。
「蛇」とくれば、
畢竟「メドゥーサ」に突き当たる。
てなわけで、
改めて「メドゥーサ」で調べた。
「ポンペイ遺跡のモザイク画に、メドゥーサの胸当てを付けたアレクサンダー大王が描かれている」
とあった。
やっと尻尾を掴んだ。
壁画を画像検索。
おー!おぉぉーー!
表紙とそっくり!
すなわち、
表紙の絵の男は、
成人のアレクサンダー(アレクサンドロス)大王だったのである。
・表紙が成人のアレクサンドロスである。
・母親の浮気相手の顔は表紙にそっくりである。
この二つから、
少年であるアレクサンドロスが成長すると、
母親の浮気相手とそっくりな顔つきになることがわかる。
彼はやはりアレクサンドロスの父親であったのだ。
そういう視点で見ると、
父親が出てくるシーンはものすごくよく出来ている。
壁画の絵から父親の顔に変わっていくたった3つのモンタージュで、
彼が父親であることを無言のうちに見事に現しているのである。
いやーすばらしい。
閑話休題。
ここからは完全に憶測。
この漫画はメドゥーサ神話を非常に意識して作られている。
それは母親がメドゥーサ然としているところからもわかる。
とすると、
この巻のアレクサンドロスの父親の首を切落すというのは、
メドゥーサ神話の逆転を意味しているのではないだろうか。
(神話ではメドゥーサの首が切落される)
それは、
英雄ペルセウスに殺されたメドゥーサが逆に英雄を殺すということ。
つまりフィリッポスを母親が殺すことを暗示しているように思える。
蛇が落とされた首を飲み込むというのもその印象を強める。
また、
アレクサンドロスとエウメネスの境遇、
「親殺しに立ち会う」というところでとてもよく似ているのが気になる。
エウメネスは二度、目の前で殺されたけれど、
アレクサンドロスはまだ一度である。
このことから、
二度目はフィリッポスが母親に殺されるところに立ち会う、
という展開になるのではないだろうか。
などと妄想は尽きないが、
歴史的にはそろそろフィリッポスが死ぬあたりなので、
これからの展開が楽しみである。
なんだか最近は、
ヒストリエとハンター×ハンターだけで、
今の紙媒体における漫画表現がほぼ網羅されている気がするのだな。
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凄く面白い・・という実感はないけれど、続きを読みたくなる作品。話の組み立て方がとても丁寧。
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人体の断面まできっちりと書く画風が好きかと言われると困るんだけど、この作者さんの世界感はすばらしいと思う。(といっても「七夕の国」と「骨の音」しか読んだ事ないけど)その画風が見事に生きるこの作品、現代と相容れない価値観で動く人々の生き様が面白い。
今のところアレクサンドロスが出てくると「はやくエウメネスの出番を」と思ってしまうけど、ゆくゆくは彼の生涯の物語になるんだろうなぁ。
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ヒストリエの2012.1時点の最新刊。
コミックで読んでいる少ないマンガなのでとても楽しく読める。
エウメネスは相変わらず知恵に溢れている。
エウメネスは、自身をスキタイ人と受け容れている、というか自身の人種を一つのらしさ、として使っている。その上でユニークな人格を持つこと、これは内田樹が提唱する人物像に他ならない。
礼儀の使い方や自分の体との対話などの身体性もあてはまる。
これぞ、本当の意味での「利己的」
学びたいものが多い主人公の一人。
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刊行ペースが遅いことだけが、唯一にして最大の欠点。
本巻最大の見所は、多くの人が指摘しているように
アレクサンドロスが二重人格になった理由の回。
様々な隠喩がこめられていて、描写の残酷さとともに
非常に印象に残る。
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7巻を読む。
ヘファイスティオンは「双子兄弟」とばかり思っていたのだけど、二重人格だったのか!!
ところで、伝記ものは大概トップに立つ人間のモノが多い(しおもしろい)けれど、こういう参謀役に焦点があてられたものは少ないなぁ。
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昔の知り合いと会う
恨まれていることがばれる前に動きだす
逃げる前に始末
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贖え 始祖たる英雄ヘラクレスの血 慮外者の死体 人々を統べるすべる王族 ぞうとう贈答品 政を思案する時間が削がれる いざの時の折衝 粗相の無いよう
著者プロフィール
1960年7月28日生まれ。東京都出身。1985年、ちばてつや賞入選作品『ゴミの海』が「モーニングオープン増刊」に掲載され、デビュー。『寄生獣』で第17回講談社漫画賞(1993年)、第27回星雲賞コミック部門(1996年)受賞。2003年より「アフタヌーン」にて『ヒストリエ』の連載中。
「2004年 『雪の峠・剣の舞』 で使われていた紹介文から引用しています。」
岩明均の作品