- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087453270
感想・レビュー・書評
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ジヴェルニーの食卓 原田マハさん
【読みおえて】
著書の魅力は、やはりキュレーターである原田マハさんが描いた世界であること。
そして、巻末のとおり、参考文献を巧みに引用しながら、当時の世界を描いていること。
そう、まるで、今、ここの世界で起こっでいるような臨場感が読み手に降りてくる。
偉大な画家たちは、結果として、いま、偉大である。
しかし、当時の画家たちは、ただ、絵画を通じて、純粋に世相に訴えたかっただけである。
描きつづけることの苦難との戦いが見えてくる。切実である。
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「ジヴェルニーの食卓」
モネ。
モネが愛したアトリエの庭。
モネが弟子をひとりもとらず、そのモネを支えた義理の娘の回想録である。
晩年、両目の手術を行う。
それでも、なお、モネがアトリエに向かいつづけた。
モネは、アトリエの庭に何をみていたのか?
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「タンギー爺さん」
セザンヌ。
セザンヌが貧してした時代。
画材の提供をしていた画廊があった。
その画廊の娘の回想録である。
画廊は、セザンヌをはじめ若い新進気鋭の画家を積極的に支援をしていた。
画材の無償提供である。
代わりに、いつ売れるかわからない絵画と交換する。
娘が、画廊オーナーの父が、なぜ、それほどまでにセザンヌを推していたのか?回想する。
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「美しい墓」
アンリ・マティス。
マティスの側で給仕していた女性の回想録である。
恍惚の一日。
それは、マティスの晩年に、親友のピカソが昼食に訪れた日のことである。
マティスが、ピカソの見送りときに、渡したものとは?
マティスの弔問にピカソが訪れなかった理由とは?
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「エトワール」
ドガの物語である。
『14才の小さな踊り子』。
生前には評価されなかった作品。
この作品の制作現場に立ちあったアメリカ/女性画家の回想録である。
ドガは、この作品で世界に何を説いたかったのか?
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印象派の画家たちの話。印象派の絵のごとく、多彩で色と光がきらめく文章で、まばゆい景色が脳裏に浮かぶ幸福な時間でした。
短編形式で複数の画家(マティス、ドガ、セザンヌ、モネ)を紹介することで、印象派がどう始まり、どんな苦難を乗り越え、どう社会に認められていったかが描き出される。印象派について知っている断片的な知識が繋がって、勉強になった。(「絵の具チューブ」というイノベーションが印象派を可能にした、と思わせる文章とか、そうだったんだー!と思った。)フィクションであるにしても、ストーリーの語りかける力はすごいな。
特徴的なのは、全て「画家の近くにいた女性」の目線で語られること。画家目線で書くと存在が失われかねない女性に声が与えられていることを印象深く思った。短編の形式も、インタビュー、回想、書簡と形式を変えていて飽きさせない。
満足の原田マハさん二冊目でした。
ロザリオ礼拝堂(Chapelle du Rosaire de Vence)はいつの日か是非行きたい。 -
四人の芸術家を、その近くにいた女性達の視点から描いている。
マティス、ドガ、セザンヌ、モネという印象派の巨匠達の四つの物語。
フィクションではあるが、芸術家達の日常や暮らし、家族や友人との関わりなど、とても興味深い。
自分が読者であることを忘れ、まるでその時代のフランスに身を置いているような感覚だった。
タンギー親父を慕って集まる画家達の様子が、何ともいとおしい。
物語としては、モネの話が一番好き。
マハさんの美術系作品をもっと読んでみたくなりました。 -
マティス、ドガ、セザンヌ、モネといった印象派の画家達を見守っていた様々な立場の女性の視点から描かれた、贅沢なアート小説❗
フィクションにも関わらず実際にこんなシーンがあったのではないかと言うように描く、原田マハさんはやっぱり只者ではないと思いました❗美術に造形が深くなくても楽しめるし、もっと印象派の画家達が知りたくなる1冊です♫
個人的には、『エトワール』が好きですが、印象に残った話しは、やはり表題作の『ジヴェルニーの食卓』です❗モネが、ジャン・ピエールを抱き上げてあやすシーンは、少し涙腺が緩みました。 -
フィクションとはいえ、美術家の生活が垣間見えるようで
とても新鮮。
各ストーリーも面白く、よく考えてると感心する。
心が洗われるような作品。 -
マハさんのアートのおはなし短編集。
アンリ・マティス、エドガー・ドガ、ポール・セザンヌ、クロード・モネがそれぞれメインとして描かれています。
いつもながら本当に文章が美しい。
マハさんの文章から想像される世界はいつもキラキラしていて暖かくて、美しいです。
ほんとに素敵な表現がいっぱい散りばめられていて、うっとりしちゃう。幸せな気持ちになれました!
今回登場したそれぞれの画家の詳細については、お恥ずかしながらほとんど知らなかったので、絵を調べたり、経歴を調べたりしながら読み進めました。
いつも思うんですけれど、マハさんのアート小説を読んでいると、偉大な芸術家たちがまるで身近にいるように感じるんです。
伝記のように、自分には程遠い偉大な人達の偉大なお話ではなく、まるでそこで生きているかのような。
いつもいつもマハさんのアート小説には驚かされまくりです。
また、美術への興味が深まっちゃった〜
素敵でしたほんとに。全部良かった。 -
印象派の画家たちの、作品への想いと苦悩や人間模様を、
近しい位置にいた女性たちの視点で描く、4つの物語。
うつくしい墓・・・マティスの家政婦になったマリアの回顧。
近くで仕えたからこそ知る、画家の芸術への想いと友情。
エトワール・・・メアリーカサットとポール・デュラン=リュエルの
回顧はドガの作品。踊り子の像のモデルとなった少女とは。
タンギー爺さん・・・タンギー親父の娘がセザンヌに送った手紙。
恨みつらみは共感、真の信愛へ。父の想いを書き綴り、願う。
「あなたのお帰りを、待ち続けています。」
ジヴェルニーの食卓・・・義理の娘ブランシュが助手として長年
見つめ続けるモネの背中。大作「睡蓮装飾画」への道程。
主な参考資料、協力一覧有り。
創作とは思えないほど、生に満ちた女性たちが語る、画家の姿。
その出会い。知ってしまった、画家の芸術への真摯な想いと
様々な感情。描く色彩と光に捉われた、女性たちもまた、想う。
マグノリアの花を抱え、マティスに仕え、残る生涯を
行くべきところで、彼の魂に仕える、マリア。
ドガの死後、再び出会った少女像。思い出すのはモデルの少女の
涙と同様に、届かぬ星があることを知った、メアリーの悲嘆。
理解者である父、タンギー親父はなくなったけれど、
あなたを待つ人たちがいる。リンゴ一つでパリをあっと
言わせる日がくると、セザンヌに綴る、タンギーの娘。
あの目に写る『先生のアトリエ』とその背中。モネが慈しんだ
二つの家族と思い出を胸に、母アリスのレシピと共に、
理想郷ジヴェルニーで彼の画業を支える、義理の娘ブランシュ。
画家たちは主人公ではないけれど、近しい彼女たちに
語られることによって、その時代の風潮のなかでの苦難、
自らが求める芸術への真摯な道程、そして生活や友情等が
くっきりと浮かび上がってくる作品に仕上がっています。
それぞれの画家とその作品への導きにもなっているなぁと、
感じました。 -
印象派の4人の巨匠、マティス、ドガ、セザンヌ、モネ。4つの物語から成る短編集。
語り手は、それぞれ画家の身近にいた女性たち。
原田マハさんならではの想像力で語られる物語は、鮮やかな色に満ちている。
《うつくしい墓:アンリ・マティス》
白いマグノリアの花にマティスとの縁を繋がれた若い家政婦、マリアが語る物語。
たった六ヶ月マティスの側に仕えたことが、マリアの一生を決定づける。
親交のあったピカソが、戦時下にあっても変わらず明るく穏やかな絵を描く
マティスに畏敬の念を抱いていた、と語られていて興味深い。
マティスの死後、マリアがマグノリアの花を手にピカソのもとを
訪れるシーンは、ピカソの深い情愛を感じさせる。
《エトワール:エドガー・ドガ》
この物語では、ドガが作成した踊り子の彫像が中心に話が進む。
ドガの描いた踊り子たちの境遇に胸を打たれた、せつない作品。
《タンギー爺さん:ポール・セザンヌ》
セザンヌの帰りを待ちわびる画材店主、タンギー爺さん。
タンギーの娘が、セザンヌに宛てた手紙として綴られる。
売れない芸術家たちの絵を引き取って絵具や画材を提供し続け、
ゴッホが絵具代の代わりに肖像画を描いたことで知られる人物。
タンギー爺さんは印象派展を見て以降、
これから出てくる芸術家を支えて生きることを決める。
そして、一番伸びる画家は『リンゴの絵』を描いたポール・セザンヌだと感じた。
「この画家は誰にも似ていない。ほんとうに特別です。
いつか必ず、世間が彼に追いつく日が来る。
わしの命があるうちにその日が来るといいんだが」
信念を貫き、貧しくとも幸せに生きたタンギー爺さんの想いを通して、
セザンヌの絵が色鮮やかに語られる。
《ジヴェルニーの庭:クロード・モネ》
本のタイトルになっている章。
義理の娘ブランシュが「先生(モネ)」について語る。
モネは、室内ではなく光あふれる風景の中を『アトリエ』と呼び、
精力的に各国を旅して仕事をする。
40代半ばで、ジヴェルニーの地に出会って歓喜したモネ。
「素晴らしい土地を見つけた。そこには光が、光だけが見えた」と手紙に綴った。
モネは、ジヴェルニーにお気に入りの家と庭を造って生涯を過ごす。
三十代で日本の浮世絵と出会い、すっかり心を奪われたモネ。
ジヴェルニーに日本的な情緒あふれる睡蓮の浮かぶ「水の庭」を作り、
すべての客人を案内したという。
晩年、睡蓮装飾画の完成に向けて苦悩を乗り越えたモネの姿が清々しく語られる。 -
たった一つの場面、それをなぜここまで美しく描くことができるのか。
4編収録の短編集で、モネやセザンヌといった芸術家の人生の断片を、彼らの周りの人から描いた短編集。
「うつくしい墓」でマリアが初めて、マティスの部屋に足を踏み入れる場面、表題作の「ジヴェルニーの食卓」の冒頭でブランシュが目覚める瞬間。
この二つの場面を読んだとき、心がどうしようもなく震えたような気がします。
絵画というものは、一瞬を永遠に閉じ込めるもののような気がするのですが、期せずして芸術家を描いたこの短編集も、同じように美しい場面を、そして語り手の感情を閉じ込め、昇華したもののような気がするのです。それは素晴らしい絵画を見て、思わず息をつくような感覚を、小説で再現したと言えると思います。
読んでからしばらく経ってしまったため、それぞれの短編の印象は薄くなりつつあります。それでもこの二つの場面が美しかった、という事実だけは、自分の中で永遠に残り続けるに違いありません。
筆力はもちろんのこと、キュレータとして裏打ちされた知識、そして何より、原田さん自身の絵画と、芸術家への愛と敬意があるからこそ、描くことの出来た短編集だと思います。