慈雨 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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感想 : 464
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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087458589

感想・レビュー・書評

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  • 何回も泣きそうになるくらい、濃い内容。冤罪がどうなったかを読者の想像に委ねたみたいだけど、作者としても、どう着地させようか迷ってたのかも。上手い着地ができれば最高の作品になったかもなだけに残念!

  • 組織の論理に屈し、真相を明らかにできなかった男の悔悟の、再生の物語。読み進めるうちに明らかにされる神馬や香代子、幸知の過去。それぞれの覚悟や絆。うん、これは泣かされた。
    人生には、光もあれば闇もある。だが、闇がなければ光のありがたみも分からない...。
    題材は足利事件なのかな?

  • 中古本屋で欲しかった本、とりわけ新刊に近いものを見つけると、やっと会えたねという感じで、とても嬉しい。

    警察を定年退職し、妻と二人で四国へお遍路に出た、元刑事の神場。
    定年で一区切りつけた中、色々な気持ちを込めた遍路の旅路で、これまでの仕事のことや家族の中での出来事が思い起こされる。
    家庭も顧みずに仕事一筋で生きてきた神場と、それでも長年連れ添ってきた妻・香代子の、夫婦の物語として、同じような世代の者には、これがなかなか沁みてくる。
    が、旅先で幼児殺害事件のニュースを聞いたところから、過去に自分が担当した同じような事件で残した悔いが蘇る。
    その、今でも残る古傷の中身が、進行中の捜査とシンクロしながら徐々に明らかになる筋立ては、ミステリーとしても結構面白い。

    と書きながら、神場があれほどの男でありながら、過去の悔いを引きずって、ひとり、ああだこうだと思い悩むのが、なんだかしっくりこないところもあったのだなぁ。
    刑事の妻であることを誇りに思っていると言ってくれている妻に対して正直な心情を吐露することが出来ないのは、背負っているものの大きさ故ではあるが、ああまで妻や娘に対して頑なでなくても良いのにね。
    奥さんが本当に素晴らしい人であるだけに、仕事しか出来ない男の昔気質の心情がいささかじれったかった。
    まあ、私も結婚30年以上経っても、嫁さんの言葉に、そういうことを考えていたんだとか、何を考えているんだとか、私の言葉をそういう風に受け取っていたのかとか、いまだに複雑な心境になる場面も多いけどさ…。

  • 柚月裕子の小説を初めて読みました。
    定年退職した刑事が関わった16年前の少女誘拐強姦殺人事件の犯人冤罪疑惑に苦しみながら、四国お遍路の旅中に起こった極似の少女誘拐強姦殺人事件。引退した身でありながら元部下の刑事に電話で自分の推理を教授して犯人逮捕に協力するのだが、それは同時に16年前の事件が冤罪であることを教唆することにもなる可能性があった。
    主人公の定年退職した刑事神場智則60歳とお遍路に同行している妻香代子58歳の夫婦の絆に感動し、神場の指示を受ける元部下の刑事緒方圭祐32歳の捜査能力と正義感に感服する。
    緒方は神場夫婦の娘の恋人でもあるため、神場の関わった事件が冤罪であることの可能性に苦渋しながらも腹をくくる。緒方の上司の県警の捜査1課長の鷲尾訓58歳は神場の2歳年下ではあるが神場の現役所轄時代の上司でもあり16年前の事件に神場と同じく冤罪疑惑に苦しんでいた。神場の推理に鷲尾も同調し、緒方に独自の捜査を命じる。3人が各々の責任と信念に基づき行動し、捜査陣を犯人逮捕に導く。
    緊迫した捜査状況、進行状況に緊張し興奮している自分がいる。そして幼少時代の苦難を乗り越えて警察官になった神場の生い立ち、夫婦で地方の駐在勤務から所轄、県警と2人3脚で克服してきた夫婦の歴史、一人娘幸知の秘密、数々の物語が加わり感動の結末を迎える…。
    柚月裕子の他の小説も読んで見たくなった。柚月裕子の小説、好きになりそうです。

  • 警察官を退職後、妻と四国巡礼の旅に出た神場。

    四国自体一度も行ったことがない私には、お遍路について、自ら旅するように興味深く読んだ。
    お遍路さんは自分達に代わって巡礼してくれているので、地元の人はお遍路さんをお接待すること。
    お寺に参ることを「打つ」という表現も独特だ。
    1~88までのお寺を順番通りに打つことを「順打ち」、逆に打つことを「逆打ち」。
    歩くのが苦手で体力に自信のない私でも、一生のうちに一度は経験してみたいかも・・・と思ってしまいました。

    幼女へのわいせつ殺人事件と家族愛が、この本の主題。
    お遍路しながら、神場が警察官人生を振り返る・・・。
    警察官でなくても、仕事をしていると、後悔が残ることはあります。
    それが、人の人生を左右することならなおさら。忘れられないだろう。

    ちょっと違う話かもしれないけど、私は子供の時から人の気持に気付きすぎたり、傷つきやすいタイプだった。大人になってからも、人生の生きづらさを日々感じている。大雑把な人に出会うと、ああなれたら人生の苦しみは少ないだろうな・・・と何度も思った。だから我が子が生まれたとき、自分のような苦しみはこの子は感じませんように、私の性質に似ませんように・・・と強く思った。
    神場が、妻、娘、娘の恋人に対して抱いた思い(苦しませたくないという気持ち)って、神場自身が相当苦しみ抜いたからこその感情だったのだろう。
    警察官が神場のような真面目な人ばかりだったら理想だな、と思うけど、組織としてはこういう真面目な人ばかりでは回らないという現実もあるんだろうし。難しい兼ね合いだ。

    司法に携わる身としては、最終的に裁判官が判決を下したのだから、裁判の結果について神場が責任を感じて全財産を処分する・・・なんてことはしないでほしい。
    それをし始めたら、その判決を下した裁判官は、公判を担当した検事は、弁護士は、どうなってしまうのか。
    神場が誰かの人生を狂わせたというのなら、その後神場が全財産を処分することで神場の人生も狂い、神場の人生が狂ったことを知った他の関係者は正気でいられるだろうか。一つの事件が人の人生を狂わせるドミノは、どこまで倒れていけば良いのか・・・。憲法で保障されている裁判官の立場すら、揺るがすことに繋がりかねないのではないか。
    財産を処分しなくても、弔いの気持ちや反省の気持ちを持ちながら生きていくことが、贖罪になると、私は思うんだよ。
    じゃあ、誰が悪かったのか?それはもちろん、幼い子どもをターゲットに卑劣な犯罪を犯した犯罪者だ。真面目な神場がこうまで苦しむそもそもの原因を作ったのも、犯罪者だ。
    そこを忘れてはいけないと思うんだよ。

  • 3.5★
    ミステリーっぽくなかったかなという感想です。
    正義感、家族や同僚の人間関係にウルっとしました
    人は様々な苦しみを抱えて生きているのかもしれない…
    いろいろと考えさせられる作品でした

  • やたら、電車の広告で見かけることが多く、気になってたら、貸してもらったので読んでみた。

    ジェンダーレスの時代に、こんな言い方は古いのかもしれないけど、著者が女性であることと年齢からは想像できない感じの文体であり、ストーリーだった。

    思ってたのと全然違った。

    とにかく堅い。

    すごく「王道」の刑事もの。

    過去の冤罪(かもしれない)を止めることができなかった贖罪から、お遍路さんの旅に出る。

    お遍路さんの基礎知識が何もない私には、地元の人たちとの交流、八十八箇所の廻り方など知らないことが多く興味深かった。

    刑事物としては、犯人の特定の仕方など、とくに「まさか!」ということもなく。(っていうか、それならもっと早く見つけられそう)

    最終的に、色々解決して欲しかったし、真犯人も爽快に懲らしめてほしかったけど、すーっと終わった感じ。

  • 読み終えて本書が評価されている意味がよくわかった。

    主人公は警察官を定年退職した神場。

    その神場は在職中に自身が捜査に加わった殺人事件の真相に疑問を感じ、その事件の謎を解き明かそうとする。

    ここまではよくある警察小説であり、ミステリー小説。

    しかし、描かれた世界はそのどちらのジャンルにもおさまらず、人間の真相を描いたヒューマン小説との表現の方がしっくりくる。

    そして本書に引き込まれたもう一つの要因は色の描写の旨さだろう。

    物語の世界は決して幸せな世界ではなく、人の後悔や苦悩を描いた作品で、そこには白黒の世界観で描かれた絵が浮かびあがる。

    辛く苦しい感情を、内面だけでなく周囲の背景も含めた色をあわせて描写された世界に自分自身が見事に引き込まれていった。

    苦しんでいる(きた)神場の人生にただ一つ優しい色を添えてきたのは、養女である幸知の存在で、幸知が描かれる時だけピンク色等の優しく温もりのある色が登場する。

    根っからの刑事である神場をもっとも近くで見守ってきたのは、根っからの刑事の妻である香代子。

    そんな香代子の存在なくしては、きっと神場は自身が苦しみ続けてきた過去に立ち向かうことは出来なかった。

    そして、幸知の恋人であり神場の後輩でもある緒方の弱さと強さ。

    物語のラストはハッピーエンドではなく、晴れた空から優しく降り注ぐ慈しみの雨。

    『慈雨』がお遍路の旅と本書を結ぶ最後に最も相応しい情景であり、個々の登場人物の心理描写とそれぞれの関係性の深さを見事に描ききった本作は壮大なヒューマンドラマであった。



    説明
    内容紹介
    極上のミステリーにして慟哭の人間ドラマ!!
    引退し、お遍路を旅する元警官が少女誘拐事件の発生を知る。難航する捜査、渦巻く悔恨と葛藤。
    時間と空間を超えたドラマは、驚きと感動の結末へ──! 待望の文庫化

    警察官を定年退職し、妻と共に四国遍路の旅に出た神場。旅先で知った少女誘拐事件は、16年前に自らが捜査にあたった事件に酷似していた。手掛かりのない捜査状況に悩む後輩に協力しながら、神場の胸には過去の事件への悔恨があった。場所を隔て、時を経て、世代をまたぎ、織り成される物語。事件の真相、そして明らかになる事実とは。安易なジャンル分けを許さない、芳醇たる味わいのミステリー。
    内容(「BOOK」データベースより)
    警察官を定年退職し、妻と共に四国遍路の旅に出た神場。旅先で知った少女誘拐事件は、16年前に自らが捜査にあたった事件に酷似していた。手掛かりのない捜査状況に悩む後輩に協力しながら、神場の胸には過去の事件への悔恨があった。場所を隔て、時を経て、世代をまたぎ、織り成される物語。事件の真相、そして明らかになる事実とは。安易なジャンル分けを許さない、芳醇たる味わいのミステリー。 

  • 事件解決に向けた刑事さんの執念をこれでもかと書いてある刑事もの小説を読むにつけ、本当にそんな刑事がいるものなんだろうか?と不謹慎だがちょっと疑ってしまう、けしからん自分。いつかは四国巡礼してみたいものだと思った(たぶん行かないだろうけど笑)

  • 本筋の事件の進行は遅く、
    主人公にまつわる数々の思い出話がメインという印象。

    本筋の事件も含め、不幸というか嫌な気分にさせられる事案ばかり。
    特に幼い子供のいる親にはこたえるものがる。

    トリックというか仕掛けは、正直なところ「えぇ・・・」。
    今までリアリティのある展開だったのが、
    急に「コナンくん」が暴きそうな仕掛けが出てきてガックリ。
    探偵が「犯人はあなたです」と指さす推理小説ならまだしも、
    「警察の威信が~」「刑事として信じる正義の~」と言ってる傍であのトリックは稚拙というかありえないというか。

    それでも、個人的に一番弱い「本当の親子ではない」系のお話しが挿入されていて、
    そこはやはり少し目頭が熱くなった。

    先が気になる読ませるお話しであったが、
    読了後振り返ってみると辛いエピソードがメインで、
    言われているような感動はなかった。

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著者プロフィール

1968年岩手県生まれ。2008年「臨床真理」で第7回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。13年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞、16年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門)を受賞。同作は白石和彌監督により、18年に役所広司主演で映画化された。18年『盤上の向日葵』で〈2018年本屋大賞〉2位となる。他の著作に『検事の信義』『月下のサクラ』『ミカエルの鼓動』『チョウセンアサガオ咲く夏』など。近著は『教誨』。

「2023年 『合理的にあり得ない2 上水流涼子の究明』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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