世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(下)新装版 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101001586

感想・レビュー・書評

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  • 人間を人間たらしめるものは何か。心なのか体なのか、はたまたその両方なのか。原始体験に基づく、深層心理なのか今を生き、考える自我なのか。
    25章の食事・象工場・罠のところで博士が私の意識の核をどのようにして単離したかをつらつらと語る場面が秀逸。博士のマッドサイエンティスト感と知性の鋭さの恐ろしさにゾッとしつつも博士が人間のエゴについてどう考えているかを語るシーンには唸らされた。
    心を捨てて永遠の平和世界に生きるか、心と共にこの不条理に満ちた世界を生き抜く、いや死に抜くか。自分自身、等身大の人生を歩むこと(いわば文化的雪かき)の素晴らしさを村上作品に教えてもらった気がするから後者がエンディングとして相応しいと感じていたがまさか、主人公が死ぬことになるとは、、、。きっと博士が持ち前の才能で全てをハッピーエンドにしてくれると思うのはあまりに虫が良すぎた。
    死にゆく主人公に自分が生きるはずだった残りの数十年への未練を語らせることが村上春樹なりの人生讃歌なのかもしれない。
    ともかく村上作品ではノルウェイの森と並び同率一位の読み応え。

    • やきにくさん
      感想、考察が深いですよね。整然とした解説に思わず納得しちゃいました。
      感想、考察が深いですよね。整然とした解説に思わず納得しちゃいました。
      2021/01/26
    • Big Bさん
      ありがとうございます!そんなふうに読んでもらえるとは嬉しい限りです
      ありがとうございます!そんなふうに読んでもらえるとは嬉しい限りです
      2021/01/27
  • 例えば他の小説だったら、”やみくろ”の意味することとか、やみくろの本当の意味とか、何の比喩なのかとか考えてしまうんだろうけど、村上春樹の小説だと”やみくろ”を”やみくろ”として認識してしまう自分がいる。やっぱりそれって村上春樹の文章がそうさせてるんだろうか。これが俗に言う村上ワールドなのか…?(沼に足を踏み入れてしまったかも)

  • 上巻は読み進めるのに時間がかかったが、下巻は気持ちがこの世界に入り込んでいたので、ぐいぐい読むことができた。
    とは言え、やはり難解。

    本当に大切なものって、何だろう。
    生きていくのに必要なものって?
    生きるって大変だ。
    楽しいこともあるし、幸せに感じることもある。
    しかし、辛いことも悲しいこともある。
    そして自分から逃げ出すことは出来ない。

    このラストは予想していなかった。

  • 「世界の終わり」と「ハードボイルド・ワンダーランド」という2つの物語が交互に進んでいく作品。
    どちらも独特の世界観があり、全く別の物語だが、中盤あたりから作品同士の繋がりが見えてくる。

    この作品は以前読んだ「ノルウェイの森」よりも難解だったが、読む手は止まらなかった。村上春樹特有の純文学に近いじめっとした雰囲気は変わらないが、考察記事などを読まないと気づけない点も多いので、じっくり1作品を読み込みたい人におすすめな作品でした。

    「世界の終わり」の世界は、心がない永遠の生を手にできる世界であり、主人公は最後までその不完全で完全な街を受け入れることは出来なかった。死にたくないと思う一方、心なしで永遠に生きることも拒むところは、人間の『心』というものの重要性を再確認させてくれた。

  • 「街とその不確かな壁」を読む前に、関連のある本作を再読。

    現実世界である「ハードボイルド・ワンダーランド」と、精神世界である「世界の終り」の2つの世界を交互に描いた作品。
    2つの世界の繋がりは、物語を読み進めていくうちに明らかになっていく。
    最後の最後まで、主人公がどのような選択をするのか、この物語がどのように終わりを迎えるのか、予想がつかなくてとても面白い。
    取っつきにくい物語が多い村上春樹の作品の中で、村上春樹の描く世界の魅力や面白さが派手な展開の中に散りばめられている本作は、多くの人に勧めたくなる作品。

  • 人間の深層心理、心、そして表層意識をテーマにしたSF超大作でした。読み終わった今も興奮が収まりません。

    下巻にある以下の言葉が印象的でした。失敗をしすぎるのは良くないものの、一度の失敗は必要なことだと感じました。
    「良い樵(きこり)というのは体にひとつだけ傷を持っているもんさ。それ以上でもなく、それ以下でもない。ひとつだけさ。」

  • シャフリングとか古い夢とかネーミングが好きやった
    あと2つの世界がオーバーラップする(光に目が眩むとか)する瞬間が気持ちよかった 純愛やし
    世界ってなかなか終わらないなと思った

  • 新作を買い、読もうかというところで、新作はこの本のいわば続編だ、と書かれた日経新聞の記事をたまたま目にした。それは、ということで、先にこの本を読んだ。面白い。村上春樹の頭の中はどのようにこの物語を紡ぎ出したのだろうか。物語の終わり方は、なるほど、確かに、これでは終わってないのかもと感じさせるところがあった。よし、新作である「街とその不確かな壁」を読み始めよう。

  • 不思議な世界観の話だった。
    なんだか分からないところも結構残ってるけど、どちらの世界の結末も結構好きだなと思った。


    この話、世界の終わりはハードボイルドワンダーランドの主人公の無意識領域の話だと思ってた。でもそうすると、世界の終わりの主人公の「世界=自分」が納得いかなくなるなって思った。
    けど、この話が交互に起こっていた話では無く、ハードボイルドワンダーランドの話の後に世界の終わりの話があるのだとしたら、どちらの主人公も同一の存在だと考えることが出来るから成り立つのかなって思った。
    やっぱり、よく分からなかった。

  • う~ん。この結末はどう理解すればいいんだろう。

    現代の私が博士から何を施されたのか、世界が終わるというのはどういうことなのか、そして「世界の終わり」の地の成り立ちなどは、下巻で次々と明かされていったので、本書の世界観自体は何とか理解できた。

    要するに、現代では、「組織」(計算士)と「工場」(記号士)が情報戦争を行っていて、情報保護のため解読不能な暗号が求められていた。博士は「組織」の研究者として、究極の暗号とも言える、人間の深層心理を用いたスクランブル技術を開発した。博士は私を実験台として深層心理=意識の核を凍結するシャフリング措置を施し、特定のコールサインで脳内スイッチが切り替わり、凍結された情報=意識の核を呼び出すことが出来るようにした。でも博士がちょっと余計な細工をもしてしまい、それを発動させてしまって…。

    一方、「世界の終わり」の地で私が行っている「夢読み」は、彼の地の住人が完全な存在で居られるように、一角獣の頭骨に吸収され蓄積された住人の自我を大気中に放出させて逃がす行為だった。そして、そもそも「世界の終わり」ワールドは、実は現実逃避するために私が脳の中に作り出した別世界で、現実世界の私は、博士の施した細工によって僅かな時間のうちに脳内スイッチが焼き付いてしまうと、永遠に「世界の終わり」ワールドから意識が抜け出せなくなってしまう状況。果たして、彼の地の私は影と共に外の世界に脱出することが出来るのか(上手く脱出できれば、恐らく現実世界の私の脳内スイッチが切り替わって、意識が現実世界に戻ってくるのだと思う)。

    疑問に思ったのは2点。

    私が何故自分の脳の中に別世界を持つに至ったのか、本書には描かれていないがきっと特殊なストーリーがあるはず。著者はなんでこの点を描かなかったのだろうかか??

    そして、ラストで私は何故脱出を断念し「世界の終わり」の住人であり続けることを選択したのだろうか(著者が何故主人公にそのような選択をさせたのか)??。この点も正直いってよく分からなかった。

    というわけで、初めての村上春樹は星3つです。

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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