炎の岳: 南アルプス山岳救助隊K―9 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101003610

作品紹介・あらすじ

“幻の名峰”として人気の新羅山。その日も登山客で賑わうなか突如、群発地震が襲う。不穏な空気が漂い火山学者は警告を発するが、行政に黙殺される。やがて噴火が始まり、逃げ遅れた人々を救うべく、救助隊員の静奈と夏実は相棒の犬と共に山頂へ向う。だが山中には凶悪な殺人者も潜んでいた。荒れ狂う山、襲いかかる魔手。決死の救出に挑む彼女たちにタイムリミットが……。『火竜の山』改題。

感想・レビュー・書評

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  • 〈南アルプス山岳救助隊〉シリーズ。未読と思っていたら第四作「火竜の山」を改題したものだった。だがせっかく借りたので再読してみた。

    昨日読んだ「クリムゾンの疾走」とは違い、こちらは山のシーン盛りだくさん。
    とはいえ、舞台は南アルプスではなく岐阜県の新羅山という架空の火山。人気の山で登山者で賑わう新羅山が噴火したことからパニック状態になる。
    作中で触れられているように御嶽山のような状況だが、御嶽山と違い前兆として様々な現象が起きていた。微細な地震や山体の膨張、そして本格的な地震。

    救助犬を使った山岳救助の講演会のため新羅山麓に来ていた夏実と静奈、新羅山の噴火予兆の研究をしている研究者、ネットで集まった登山パーティ、身代金目的で少年を誘拐した男女と逃げ出した少年、暴力団に雇われた殺し屋と、様々な視点の物語が並行して進んでいく。
    最初はゴチャゴチャしている印象だが、次第に登山パーティの話と誘拐犯グループの話に収束していき、最終的には一つの物語にまとまっていく。

    初読の時は詰め込みすぎてゴタゴタした印象だったが、今回はそれぞれにドラマがあり上手く折り畳んでくれた印象で面白く読めた。改題と共に改稿もしたのだろうか。

    初読の時にも思ったが、山の中で二度も地震が起きているのに下山をせず登頂を目指すという感覚が分からない。ましてや御嶽山の例もあるのだから私なら恐ろしくて直ぐに引き返したくなる。
    しかしこれが『正常化バイアス』というものらしい。それに沙耶のように周囲に流されたり逆らえない人もいそうだ。

    それにしても許せないのはパーティのリーダー。彼はリーダーでもなんでもなく、ただメンバーを集めただけの身勝手な登山者だった。こんな見掛け倒しのどうしようもないヤツは江草署長にこってり絞られて欲しい。逆に第一印象は酷かった北川が実は頼れる人でホッとした。
    一方殺し屋は何だか新宿鮫シリーズの『毒猿』を彷彿とさせるような哀愁ただようキャラクターで印象深かった。生まれた国と時を間違えただけで、もっと違う生き方が出来ていれば…と思ってしまう。しかしこれだけ人を殺めたのだからこの結末は致し方ないか。

    火山灰と火山岩が降り注ぐ新羅山の中を登山者の誘導や救助に駆け回る夏実と静奈、そしてそれぞれの相棒犬が頼もしい。ハンドラーとバディ犬との絆も固い。
    そして危険を顧みず夏実を救出に山に戻る静奈も格好良い。多分逆の立場なら夏実もそうするだろう。

    そういえばこの作品で静奈と出会った自衛隊員が良い雰囲気になったのを思い出した。このまま上手く行きそうな二人だったのだが、武闘派クールビューティーと爽やか自衛隊員カップルではベタ過ぎて樋口さんの趣味に合わなかったのか。今ではおじさん刑事が相棒になっている。

    解説が大倉崇裕さんなのも嬉しい。やはり山岳小説が多い大倉さんだが、登山の方はすっかりご無沙汰らしい。まぁあれだけハイペースで作品を書かれていたら登山に行く時間は作れないだろう。

  • <南アルプス山岳救助隊K-9>シリーズの4冊目。今度は新潮になった。
    見慣れた北岳周辺の地図ではなくなったと思ったら、今回の舞台は幻の名峰として人気の新羅山(岐阜県のどの辺りにあるか調べたが架空の山だった…)。

    やくざの世界から抜けるために誘拐を企てた男女と攫われた少年、彼らを追う組織に雇われたヒットマン、噴火の兆候を感じる火山地質学の大学教授、登山サイトで募集された山岳ツアーの参加者、そして救助犬チームの講演に招かれた夏実と静奈にメイとバロン。
    前半は物語の舞台に集まってくる人々が丹念に描かれて、少しじれったくなるくらい。
    しかし、舞台が整ってからは一気呵成。山は動き出し、教授は焦り、少年は脱出し、誘拐犯はそれを追い、ヒットマンは更にそれに迫り、ツアーの参加者はバラバラになり、救助隊は山に入る。
    これでもかという噴火の描写に加えて、それぞれの行動が徐々に距離を詰め縦横に絡みあって畳み込むような展開に頁を繰る手が止まらず。
    前作に続いて静奈とバロンが頼れるところを見せるが、今回はメイにも見せ場あり。異様な状況の中でも人を信じて駆け回る姿が出色。

  • 樋口明雄『炎の岳 南アルプス山岳救助隊K―9』新潮文庫。

    南アルプス山岳救助隊シリーズ。徳間文庫、ハルキ文庫と続き、今度は新潮文庫からの刊行となかなか忙しい。『火竜の山』の改題。

    相変わらず面白く、このシリーズはハズレが無い。今回、静奈と夏実の前に立ち塞がる敵は自然の猛威と誘拐犯に謎の凶悪殺人犯だ。山岳アクション冒険小説とピカレスク小説の二つが同時に楽しめる贅沢な作品。

    登山客で賑わう幻の名峰、新羅山を群発地震が襲う。火山学者は噴火の警告を出すが、行政側に黙殺される。やがて噴火が始まり、逃げ遅れた登山客を救出するために静奈と夏実はバロンとメイを伴い、山頂へと向かう……

  • 「天空の空」を読んで面白かったので読んだ。夏実の成長もあり、メイ・バロンも相変わらず可愛い。誘拐に救助に、火山噴火にと盛り沢山。お腹いっぱいな感じもある。

  • 火山の中の救助の話かと思ったが色々な話が重なり盛り上がっていく。

  • 山梨県警山岳救助隊の静奈と夏実が、岐阜県に講演に招かれる。無事に講演を終えたが近隣の新羅山(仮想の山)に噴火の兆候が。約100名の登山客に下山要請をするが、取り残された登山者の救出活動にあたる。それとは別に誘拐犯と人質の少年、更には殺し屋が山中に。静奈、夏実とバディのシェパードのバロン、コリーのメイが必至の救出劇。やがて、マグマ噴出の噴火、火砕流が流れ炎に包まれていく。御嶽山と普賢岳を思い出す。臨場感溢れるクライマックスに手に汗握りながら読了。バロン、メイの勇敢さと絆に感激した。

  • 山岳救助隊シリーズ
    犬が出てくる話が好きなので読み始めたこのシリーズ。
    今作は、その中でも良かったです。
    メイが、夏実のために静奈を探して走る。
    そしてヘリに乗って行ってしまう静奈に取り残されたメイの悲しみと決意、読んでいて愛おしくなりました。

  • 多くの人と同じで安心した

    本のタイトルが変わったので騙されました

    以前読んでいます(笑)

  • ある程度の追体験ができる立場にあるので、現場をどのように表現しようとしているかについても気にしながら読み進めた。全体にスピード感はあるし、すっきりとした表現は悪くない。ただ、お約束事のように交わされるいくつかの会話については気になった。危機迫るところで呑気な自己紹介があるようなところはもっとブラッシュアップすべきだし、犯罪者の個性についても、誘拐者については食い足りない。しかし、それらを除けばそれなりに面白かったし、映画化すれば評判を呼ぶだろう。機会があれば次回作も読んでみようかと思えるほどの訴求力はあった。

  • “幻の名峰”として人気の新羅山。その日も登山客で賑わうなか突如、群発地震が襲う。不穏な空気が漂い火山学者は警告を発するが、行政に黙殺される。やがて噴火が始まり、逃げ遅れた人々を救うべく、救助隊員の静奈と夏実は相棒の犬と共に山頂へ向う。だが山中には凶悪な殺人者も潜んでいた。荒れ狂う山、襲いかかる魔手。決死の救出に挑む彼女たちにタイムリミットが…。

    ちょっと要素を盛り込みすぎかな。

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著者プロフィール

1960年山口県生まれ。明治学院大学卒業。雑誌記者を経て、87年に小説家デビュー。2008年『約束の地』で、第27回日本冒険小説協会大賞、第12回大藪春彦賞をダブル受賞。2013年刊行には『ミッドナイト・ラン!』で第2回エキナカ大賞を受賞。山岳救助犬の活躍を描く「南アルプス山岳救助隊K-9」シリーズの他、『狼は瞑らない』『光の山脈』『酔いどれ犬』『還らざる聖地』、エッセイ『北岳山小屋物語』『田舎暮らし毒本』などの著作がある。有害鳥獣対策犬ハンドラー資格取得。山梨県自然監視員。

「2022年 『南アルプス山岳救助隊K-9 それぞれの山』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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