細雪 (下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101005140

感想・レビュー・書評

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  • 鶴子、幸子、雪子、妙子の四姉妹の物語だが、ほとんどが次女の幸子の視点で語られており、幸子の住居のある蘆屋を中心に話は展開していき、長女の鶴子は当初大阪に住んでいて、物語の前半で東京に転居するため、鶴子の登場場面は少ない。
    良いとこのお嬢さんたちの話であり、歌舞伎を見に行ったり、高級料亭で食事するなど、その暮らしぶりの描写に階級の高さが垣間見える。
    私は男性なので、それほど関心が持てない話ではないかと思っていたが、予想以上に引き込まれる物語であった。私は神戸市に住んでいるので、馴染みのある地名が数多く出てきて、場所のイメージがしやすかったということもあるが。
    雪子のお見合い話、阪神大水害に遭遇する話、板倉と妙子の間の出来事、雪子の再度のお見合い、妙子の病気、雪子の再々度のお見合い、妙子の爆弾発言とその顛末、といった大きな出来事が次々と起こり、最後まで読者を退屈させない。
    この物語の根幹にあるのは、当時の日本に重く存在していた「家」中心の考え方。雪子や妙子の結婚相手には、家柄、階級というものが何よりも重要視されているなど、当時の人の生き方において、いかに「家」や「家族」が大きな存在を占めていたかを感じさせる作品だ。
    幸子、雪子、妙子の三人の性格の違いも印象的である。
    幸子は家のことを第一に考え、家族思いな日本の平均的な女性。
    雪子は、大人しくて控えめで、外では自分の意見を言うことができない、内向きな、古いタイプの女性。
    妙子は、活動的、開放的で、自立した、新しいタイプの女性。
    面白いと感じたのは、鶴子の夫の辰雄も、幸子の夫の貞之助も、雪子のことは大事に思っているが、妙子を疎んじていること。雪子のような女性が当時の男性には受けが良かったのだろう。
    幸子は、雪子にも妙子にも、その行動にイライラさせられるのだが、それでも二人のことを憎むことができない。性格は大きく違う姉妹だが、お互いを理解し合って、尊重しており、強い絆で結ばれている。
    三姉妹が離れ離れになるラストの場面には、そぞろに淋しさを感じた。

  • こういう終わり方なんですね、覚えてない、、、
    まぁさておき意図的なものだったらちょっと鳥肌もんですが、ほかの作品とかも見るにどうもそうでもないような気がする。時代に逆らってないんじゃないかな、この作家。無理言うなと言われること必至ですが、だからこそ余計に残念感が募るというか何というか。
    まぁそれは横においても特に雪子・妙子の描写がしつこくて若干ええ加減にせい、と突っ込みたくなる。ちょっと時間の感覚が現在とは異なるってことかな?

  • 上巻、中巻は絵巻物らしい風光明媚さが際立っていたようだったが、下巻は四姉妹それぞれの駄目なところというか、人間らしい至らなさが目につく書きぶりであったと思う。
    姉妹の中でもわけてイデア的な存在だった雪子も最終行において、風に散った桜が地面に落ちたような、現実感を示されて物語が終わる。

    まさに「物語」という感じ。今は古典とされるものも、当時読む人にはこの作品のような活き活きとした情景や心情のもとで読まれたのだろうなあということに思いを至らせるような。
    面白かったです。

  • 読了に先立って、先般放映されていた映画版を見ていたので、そちらの大団円的な幕引き(貞之助を除く)に比べて、なんと不穏な印象が残る結末だろうか、と思った。最後の一文が下痢のこととは。。。

  • 作家が、戦前~戦中~戦後の時局下で書き続けた、強い反戦の思いがこもった作品、という解説の手引きを受けて読むと、作品が理解しやすいように思われた。

    作品の読後感は、耽美的、叙情的な美しい作品かという先入観より、はるかにデモーニッシュであり、一部グロテスクにも感じた。これば主に四女妙子を中心に展開する大洪水や赤痢罹患、男性関係などからの印象だが、進歩的で才能もある彼女が、四姉妹の中でだんだん鬼っ子のように、自己抑制も効かず変化していく様は、台頭していく軍国主義と重ね合わされているのかもしれない。

    一方、大洪水の場面の息をのむ迫真の描写もすごいが、三女雪子のお見合いをめぐって、二女幸子が様々な気配りや段取りを考えるところなど、複雑な状況や分析、人物のそれに対する内心、つまり「その間の事情」を仔細に十二分に語りつくし、綿々と続く文章も息をのむように美しい。作家が源氏物語の現代語訳を完成した影響といわれていて興味深い。

    さらに、舞台の神戸らしく、外国人家庭との交流も描かれ、大戦に巻き込まれていく世界の状況も描かれる。最後は晴れて縁談がまとまり、上京する雪子だが、下痢が止まらないとは妙子の赤痢などを思いださせ、明るくない将来を暗示しているのではないだろうか。

    作家が愛し、描きとどめた古からの上方の風物、そして焼け野原で敗戦を迎える前の東京の文化。
    一体戦争に関連して亡くなる人の中に、「なんでこんなことに!?」と思わない人はいるのだろうか?
    繁栄を極めたあとの閉塞感、現代は「細雪」の時代に似ているようにも思われ、たいへん心配だ。

    原作を読んでから、市川崑監督の同名映画も、映画のもつ時間的制約を逆手にとり、思いきった取捨選択でまとめていることがわかった。作中の一文を巧みに捉えたシーンや、オリジナルで加えられた台詞、場面など。映画は比重として雪子のお見合いをめぐる美しい風物詩がより強く印象に残る。公開から早くも20年以上になるようだが、映画ならではの映像美、音楽、主役どころはもちろん脇まで豪華な俳優陣の名演技をとどめ、もうなかなかこんな映画はとれないのでは、とこちらも記念碑的作品に思われる。

  • 上流社会の家庭の日常、事情をつらつらと描いているだけのことである。しかし読むうちにその家族の一員あるいは傍らにいる者になって気にかけずにはいられなくなる。四季折々の花、風景、衣装を思い浮かべながら読み進む。なるほど絵巻物だ。職業婦人、自由恋愛が当たり前の現代に通づるものがある。

  • いやぁ、やきもきさせまくった上に、最後はこうでしたか・・・
    一種の反則技のような気もしますが、
    「これでいい」とか「これがいい」とか「これだからいいのだ」とか思ってる人も多いんでしょうか・・・
    上中下で、すごいページを読んだと思うのですが、飽きもせず楽しめたのは事実です。

  • 雪子の縁談がようやくまとまるが、妙子はバーテンダーとの間に子どもを授かる。そのことで
    啓坊を諦めさせてできちゃった婚に仕向けようと画策するが、死産に終わる。
    雪子はようやく結納や結婚へと着々と事が進むが下痢にかかって終わるという。なんという終わり方や笑。

  • 最後の最後、下痢だなんて。
    谷崎さん、いいなぁ。
    嫌いじゃない。

  • 展開が気になってついに読了。数十年を経て三度目。
    三度目とはいえ、引き込まれる内容だし淡々としていてもなお、趣深い文章だし感情移入できる箇所もあるけど舌を巻くところもあったりでとても楽しめた。
    最後のシーンは印象になかったけれど余韻ということを考えればあれでよかったのでしょうね。

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著者プロフィール

1886年7月24日~1965年7月30日。日本の小説家。代表作に『細雪』『痴人の愛』『蓼食う虫』『春琴抄』など。

「2020年 『魔術師  谷崎潤一郎妖美幻想傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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