- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101006116
感想・レビュー・書評
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昭和二十年秋、連載の際に読者に送る言葉がいかにも太宰らしい。
パンドラの匣という題については、この小説の第一回に於て書き記してあるはずだし、
ここで申上げて置きたい事は、もう何も無い。
はなはだぶあいそな前口上でいけないが、しかし、
こんなぶあいそなあいさつをする男の書く小説が、案外、面白い事がある。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
収録の2作品とも、青年を主人公をしているために、良くも悪くも若さが前面に出た作品となっている。
特に表題作はどこまでも明るく前向きで、その爽やかさが胸を打ってならない。 -
結核診療所を舞台にし、「人間は死に依って完成せられる」という太宰治の死生観、戦後という時代背景から、主人公ひばりが求める「新しさ」、それらがこの小説のテーマになっているのだろう。
自分はどこか特別なんだと感じてしまう感情、どこから出てくるのかわからない自信、素直になれない自分、どれも共感してしまって切なさを感じてしまう。
ただ、それらの感情を持ったひばりが結核という病気、同じ塾生の死、助手への恋心など様々な人間関係を通して、「自分」というものを受け入れていく様子は、太宰の心に流れてくる文章と相まってとても美しい。
物語の背景は暗いものだが、そこに描かれる生き生きとした登場人物たちがその暗闇を照らす光となって、一層眩しく感じられる。
溢れる希望で心が満たされる、太宰流の青春小説。 -
生と死
重く難解なテーマでありながら、
このパンドラの匣では
明るく軽やかな雰囲気のなかで
物語が展開されていく
この作品で説かれている
「生の在り方」「死の意義」を通じて
生きることに困憊し、何度も心中を試みた
太宰の死生観、命に対する考えを
垣間見たような気がした
−人間は
死に依って完成させられる。
生きているうちは、
みんな未完成だ。
死は「無」になることではない
人間が
人間らしくあるために通る最後の道
そして
あのパンドラの匣の
片隅に転がっていた
小さな「希望」の石が
未完成な私たちを 生かしてる
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貸してくだすった先輩曰く
「太宰はこんな瑞々しい文章も書くんだよ」とな。
何すかその粋な表現!
でもおっしゃられる通り、すごく遊び心満載で、最後とかちょっと
「えぇー太宰さんそんなえぇ終わらし方しはりますの」的な。
やっぱ要所要所太宰節みたいなとこはあるけど、
とっても生き生きしていて新鮮な1冊でした。 -
「正義と微笑」が可愛くてしょうがないですけど。「お前の日記見たよ。あれを見て、兄さんも一緒に家出をしたくなったくらいだ」「でも、そいつぁ滑稽だったろうな。無理もねえ、なんて僕まで眼のいろを変えてあたふたと家出してみたところで、まるで、ナンセンスだものね。木島も、おどろくだろう。そうして木島も、あの日記を読んで、これも家出だ。そうして、お母さんも梅やも、みんな家出して、みんなで、あたらしくまた一軒、家を借りた、なんて。」とか言うお兄さんラブ。!冗談言うのに気の弱いお兄さん。可愛すぎる。「パンドラの匣」の手紙という形式から現実と矛盾した情報を読者に植え付ける技術。ひばりの心の動きに、読んでてあたふたします。やっぱり若いんだ、青春なんだ。ああ青春ていいなあ。
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人間失格だけが太宰じゃないのですよみなさん!
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勉強は人格を形成するに共感した。僕もそう思う。勉強の姿勢によって人格が歪んでしまうのを理解しているから。勉強をしなさいで勉強をすると塞ぎ込み、檻の中で生活しているような感覚に苛まれる。檻の中にいると狂うのです。懲罰房の話を聞いたことがあるだろうか。あいつらは手足を縛られ、1ヶ月間会話と身体の自由をほとんど奪われるらしい。自由を奪われると人は狂うのだ。懲罰房の人間はげっそりして、歯茎から血を出し、目が虚ろになって出てくるらしい。そうだ、勉強は自分がやりたいようにやるのが1番なのだ。したくないものをやれと言われりゃ歪んでく、やりたいものをやれば良くなってく。いい形成のされ方をする。そんなことを考えさせられた。と言うより、明確化された。
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「正義と微笑」は何度も読み返している。
漠然とした理想を掲げていた主人公が、生活人として地道に努力をするようになる。物事を継続できないときに読むと、自分も努力しなければならないと気が引き締まる。
「微笑もて正義を為せ!」「人を喜ばせるのが、何よりも好きであった!」という主人公の理念にもよく共感できた。「パンドラの匣」と合わせて、どちらも爽快な読後感だった。 -
読後すっきり