三四郎 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101010045

感想・レビュー・書評

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  • 端的に言うと、“いい大学生“の物語だと思う。高校生の青春のような甘酸っぱさはない。大人のようなドロッとした濃淡のある甘さはない。また、俗物に染まった大学生──今日の多くの大学生のような──というわけでもない。大人への一歩手前の程よい甘さである。無論、これは読み手である私が丁度大学生だからこういう感興を受けたというのは一理あると思う。
    美禰子と三四郎の恋愛がこの話の主軸であるが、サブタイトル的な与次郎の物語も非常にコミカルで、騒がしくて、能動的で“いい大学生“だと思う。高校生のように財力が無ければできないし、大人のように時間がなければ出来ない。その2つの不可能を可能にした大学生だから出来る物語である。作中の与次郎は、周りに金銭的に迷惑をかけたり、広田先生を有名にしようとしてカラ回りしたりかなりめんどくさい人間である。しかしながら、そういう騒がしさがあるからこそ人が集まり、結果的に主軸である美禰子と三四郎の物語に辿り着けたのである。
    また、敢えて登場人物を「女」や「男」と客観的に記述する表現も個人的に良いなと思った。
    他にも美禰子と三四郎の関係、都会と田舎の対比構造など述べたいところはあるが、稚拙な表現力故に上手く言語化出来ないのでここまでにしておこうと思う。それに、そのことは多くの人が述べていることだろうと思う。

    漱石先生の特有の明瞭な読みやすい文体であり、伏線の貼り方や物語の展開もわかりやすいから、高校生や大学生の諸君には是非読んで欲しい所存である。

  • 美禰子への三四郎の切ない思いと引き裂かれた二人の淡い心情が美しく描かれた傑作。与次郎との掛け合いは対照的に滑稽で、小説として完璧。

  • 東大に入学が決まり、熊本から上京してきた小川三四郎を取り巻く都会の人間模様、恋愛事情。
    三四郎自体の要領の悪さを執拗に描かれており、最終的には失恋してしまうあたりに、世の男性は自らを投影したのだろうか。作中に西洋の哲人や文豪、画家等が多数出てきており、幾許かの心得がないと読みにくいことは否めないものの、要領の悪いワタクシ。結果として三四郎に感情移入してしまった。

    文学的女性の描写:『肉は頬と云わずきちりと締まっている。骨の上に余ったものは沢山ない位である。それでいて、顔全体が柔らかい。肉が柔らかいのではない骨そのものが柔らかい様に思われる。奥行の長い感じを起させる顔である。』

  • 大きな事件や変化があるわけじゃなく淡々としてるけど、その淡々とした中に面白さがある。
    時代こそ明治だけど、学生たちの生活は現代とほとんど変わらない。恋をするのも、恋が叶わないのもいつの時代だって同じ。
    与次郎はなんとなく、よく言う意識高い系の学生に見えてしまった(笑)

  • 『こころ』に続き、『三四郎』も朝日新聞で再連載が始まつてゐます。これを機に久しぶりに読んでみました。
    最初に読んだのは中学生時代。三四郎といへば柔道の連想しかなかつたわたくしは、「中中柔道を始めないな」などと考へながら読んでゐましたが、無論最後まで柔術の話は出てきませんでした。
    さうか。小川三四郎であつて姿三四郎ではないのね、とわたくしは一人恥入り、このことは誰にも言ふまいと心に決めたのであります(今書いちやつたけど)。

    小川三四郎は熊本の高等学校を卒業して、東京帝国大学に入学するため上京します。当時のことですから当然汽車に乗る訳ですが、途中で早くも色色と印象深い人物と出会ひ、今後の東京生活を暗示するやうな出来事もありました。
    初対面の女性とイキナリ同じ宿に泊まるなどして、中中やるもんです。もつとも二人の間には何も起きず、女性からは「意気地のない人」呼ばはりされます。

    東京へ出ると、野々宮さんとか、広田先生とか、お調子者の佐々木与次郎といつた面面との交流が始まります。
    そして三四郎は里見美禰子といふ女性に心を奪はれて行くのであります。この女性は迷羊(ストレイ・シープ)などと意味深な言葉を発する、一風変つた人物に見えます。彼女は三四郎と相対する時には、何か謎めいた言辞や態度を示し、三四郎くんを翻弄するのでした。わたくしの経験上、かういふ女性は避けた方が良い。
    しかし三四郎は与次郎にも気取られるほど美禰子さんへの思ひを募らせる。さうかといつて、これといつた行動を取るわけでもない。さうかうしてゐるうちに、呆気ない展開を迎へるのであります...

    久しぶりに読むと、確かに面白い。瑞瑞しい。これが青春だ。夏木陽介。初期作品に見られる諧謔性も垣間見えて(実は暗い影も差してゐるのですが)、才気迸る文章であります。文学者が「国語の先生」だつた時代の、それこそ教科書みたいな作品であると申せませう。

    それでは、ご無礼します。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-490.html

  • 中学生にも意外と読みやすかった覚えがある。
    三四郎がかわいく思える不思議。
    大人になった今読み直すと、またちがって感じるのかも。
    漱石の描く、明治のこの時代の雰囲気が好き。

  • 漱石先生の前期三部作一作目、『三四郎』。他の二作、『それから』や『門』と比べると、全体として軽快で鬱屈したところがなく、気分転換になる、というのがこの本の印象。

    ストーリーというほどの抑揚はなく、日常の些細を個性豊かなキャラクターとの悲喜交々を通じて、描いていく作品。ところどころにその時代への漱石先生の風刺とも思われるような表現はあるものの、終始平和である。

    1人の青年が田舎から都会に出て、次々と新しいものに出会い刺激を受けていく姿はなんとも初々しく背中を押したくなるのである。

    ただしこの三四郎はまったくもって積極性に欠ける男であり、日々凡庸にのらりくらりと過ごすのみである。彼自身の主義主張というものは作中ほとんど顔をださない。その彼が唯一、己れから強い興味を持って近づこうとしたのが、美禰子という存在であった。はじめて出会った瞬間、見つめられた瞬間、言葉を交した瞬間。その瞬間の積み重ねが、彼にとっての美禰子の存在を他に代替の効かないものとして彼の心を支配していく。

    まさに恋である。淡い恋である。激情的な恋ではなく、“誰かを好きになる”気持ちの機微が巧みに表現されている。この作品を読んで誰もが、この気持ちわかる!とうんうん唸ったはずである。

    そして漱石先生の、愛に対する信仰にも似た考え方がこの初期の作品からも読み取ることができ、愛というものへの捉え方のシンクロ具合に感銘を受けるのであった。。

  • 三四郎と私の初めての出会いは映画。
    映画はとろとろとしたペースで進み、なんて退屈なんだろうと思った。でも本の方がよかった。

    ただ、主人公が何をなすでもなく、理屈ばかりをこねた金持ちのバカ息子であるので、あまり共鳴できない。
    みちよも残念ながら、旦那の非を推測させるような行動をとり、どうもいやらしい。
    メロドラマ好き向けかもしれない。

    ただし、書かれた時代を思うと、すごいと思う。

  • 構成がしっかりしてて楽しかったです。
    一通り読み終わり、付箋箇所を中心に読み返しただけでも、色んな伏線があったことに気付けて面白いです。

    読んだ方はお分かりの通り、美禰子のああいった行動で三四郎の恋は悲しい結末を辿るわけですが、150p付近ではこの結末の予見めいたことを与次郎が言っていて、要約すると「女はみんな乱暴、それはイブセンに出てくる人物のようだ」「しかし、腹の中がイブセンのようであって、表立って自由な行動はとらない」「どんな社会だって陥欠のない社会はない」とあります。
    自由な行動ゆえに三四郎の心を惑わす天真爛漫な美禰子が、社会の慣習に逆行することなく結婚の話をすんなり受け容れ、三四郎の心を切り裂くストーリーを予見しているかのようです。
    そしてまた、この予見を与次郎が話すことによって、終盤語られる与次郎への広田先生評「親切に加え要領がいいが、終局にいくとめちゃめちゃになる」につながっている所が趣があります。

    こういった視点で見ると無駄がなく手堅い構成は他にもいくつか散見され、気づいていない箇所も沢山あるんだろうなと思いました。

    また個人的好きなのは漱石の"三四郎"という人物の描き方です。感情的な言動/行動をする人物として表立っては書かれていないと思うんですが、様々な出来事を通してコロコロと心情が変わるところをみると、どこにでもいる若い青年/青く田舎ものの九州男児の感があって可愛い所があります。

    例えば、東京に来たての時は故郷からの母の手紙を疎ましく読んでいたのに、東京がつまらなくなったあるときには嬉しそうに母の手紙を読んでいる。こういった、人物の心の変遷をいちいち説明せずに、行動や言動を通して上手く感じさせる、あるいは匂わせるところにも漱石の凄さが詰まっているなと感じます。

  • 久々に読み直した。軽快かつ半ば拍子抜けするような、三四郎視点の描写が、読む身としては心地よい。内容も思春期や青春って昔も今もこんな感じだよね!と納得できる。総じて気持ちの良い作品。

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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