彼岸過迄 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.62
  • (97)
  • (143)
  • (249)
  • (12)
  • (6)
本棚登録 : 1832
感想 : 136
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101010113

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 頼りないけど憎めもしないちょっと捻れた明治ニートたちを中心とした、連作短編というよりはオムニバス形式という方がしっくりきた作品集。

    どの話も取り立てて山や谷がある展開ではなく。
    けれど、本作の狂言回し役と言って差支えないポジションにいる、大学を卒業したばかりで世間をまだよく知らない青年・敬太郎が様々な人と知り合い、その行動を眺め、彼らから話を聞く姿を読んでいて特に強く思ったのは。

    個々の人生は独立したもので、その心のうちも行動原理も、それがどれほど身近な人間であっても、他者である以上は、どれほど親身になろうと、どれほど対話に努めても、決して伺い知れず踏み込めない部分が絶対にあるのだ、ということ。

    その背景も相まって、従妹にして事実上の婚約者である千代子へ抱く鬱屈した思いを滔々と語る、敬太郎の友人・須永の姿には、その実、自分ですら自分の気持ちなんてわかっていないし、だからこそ何もしないというか出来ないのか、とまで思う。

    それにしても須永は頭でっかちが過ぎる気がしたけれど。
    でもこれが、血縁や家の縛りに抗うなんて考えることもできなかった明治規範の中で生きた人の一つの姿なのかもしれない。

    正直、数ある漱石作品と比べて、特別に面白い作品!おすすめ!というわけではないです。
    最後に全てがつながって…みたいな仕掛けがあるわけでもないし。

    でも、生死を彷徨う大病から回復した漱石が
    「かねてから自分は個々の短篇を重ねた末に、その個々の短篇が相合して一長篇を構成するように仕組んだら、新聞小説として存外面白く読まれはしないだろうかという意見を持していた。」
    故に書き上げた意欲作であり、それだけに、次の話へ進めるためのさりげない繋がり部分が興味深かったりはします。

    そうはいっても、漱石は意図せず既に処女作「吾輩は猫である」で連作小説の型を創り上げているし、そちらのほうがラストの衝撃度が強いです。
    そして、現代文学をたくさん読んでいる人にとっては、もはや真新しい手法ではなく、むしろ古めかしく辿々しいくらいかもしれませんね。

  • 須永の暗さが伝染しそう。

  • 漱石ってなんでこんなに魅力的な心情描写が出来ちゃうんだろう。凄いな。

  • 主人公敬太郎は、大学を出ても定職に就かず、ふらふらしている。
    しかし人生にどこか浪漫を求めており、波乱万丈な生活を送る友人森本の昔話に憧れている。

    いくつかの章に分かれているこの作品は、主に敬太郎の周りの人の語りによって進んでいる。

    特に市蔵と千代子の幼なじみ同士の恋愛話はかなり現代っぽいのめり込める内容だった。
    お互い素直になれない、少しひねくれた性格で、でもあえて素直になるのも今更何か違う…というもどかしい気持ちになる。
    市蔵の、自分自身のことについて考えすぎてしまう性格はその出生の秘密からきている、という展開はかなり気の毒で苦しい気持ちになった。

  • 敬太郎が関わった人たちそれぞれを主人公にして話が展開していく、スラップスティックな構成。写生文というジャンルなんですね。
    なんだか全体的に静かな小説。
    外からみるのとその本人が考えてることなんて随分隔たりがあって、詰まるところ人ってわかんないなぁと思った。
    高等遊民に憧れる一方、やりがいを感じて日々幸せな生活があれば普通でも十分だと思えました。

  • 夏目漱石の前期三部作を読み終わったので、後期三部作へ。前期のモラトリアムな高等遊民の話から一歩進んでいる気がする(それでも臆病な自意識が邪魔をして、女の子と上手くいかないのですが)。
    話も工夫していると漱石が言うだけあって、蛇のステッキの話から探偵まがいの話など興味を引く小話がうまくつなぎ合わされて千代子との話に流れていき、飽きずに読めた。

  • 娶る気もないくせに嫉妬をする市蔵に千代子が卑怯だと伝えるシーンがやはり印象に残る。
    でも彼の考え方は割と現代的で分からんくもないが…最後は希望と捉えたいところ。
    しかしこの作品、夏目作品としては結構新鮮なつくりだった。
    これで後期3部作も残り1つ‼︎
    買っとこ。

  • 昔読んで「面白かったなー」という記憶があるけれど、どんな話だったかあまり思い出せない。蛸が出てくる?
    ヘビのステッキが重要な小道具だった気がする。
    もう一度読み返したい

  • 彼岸って言っても今どきいつ頃のことだか良く分からんし、むしろ島なのか?丸太は持ったのか?って感じになるし、彼岸島迄?って思う人もいるしいないしで、まぁでも吸血鬼は出てこない平和な話だった。
    でもっていつもの昔の文学に出てくる、ぶつぶつと面倒くさい事ばっかり言って何もしないニートがぶつぶつ言ってるわけなんだけども、そんなぶつぶつ言ってるだけなのに、女の子がしっかりついてくるという、またこれか!って言わずにはいられない展開。そしてその展開がどうなったのか分からないまま終わってしまうという、このモヤモヤをどうしてくれようか。
    あと鎌倉在住者として、鎌倉近辺がめっさ田舎というか、スラム漁師村的に語られてたのがなかなか良かった。調子に乗ってる住民に是非とも読ませるべき書ではないか。

  • 印象に残っているのは宵子の死の場面。漂う線香の煙が見えるようだった。骨を拾う時の、もうこれは人じゃないという感じがリアルで、市蔵の言葉があまりに冷淡で少し気になる。
    読み進めていくうちに市蔵に対するイメージが変わり、次第に共感を覚えるようになっていった。空虚な努力に疲れていた、という一文が刺さった。

著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

夏目漱石の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
夏目漱石
三島由紀夫
三島由紀夫
フランツ・カフカ
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×