牛肉と馬鈴薯・酒中日記 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101035024

感想・レビュー・書評

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  • 岩波文庫の『運命』という短編集を読んで、その中の「運命論者」が強く印象に残っていた。また、教科書に載っていた「忘れ得ぬ人々」が忘れられなくて、『武蔵野』(新潮文庫)という短編集を読み、その中の「武蔵野」にもひかれた。

    今回『牛肉と馬鈴薯 酒中日記』で国木田独歩の読み残りの短編を読んだことになるのだが、その中の最後に収録してある「竹の木戸」と「二老人」にまたまたぐっと胸をつかまれてしまった。

    汲めど尽きせぬ日本の短編名手かな、国木田独歩さん、である。
    その一つをアップしてみる。

    「竹の木戸」

    郊外から都心(京橋)に通勤しているある会社員は真面目を絵に描いたような人柄。妻、実母、七つの娘、妻の妹(離婚して寄宿)、お手伝いさんという家族構成。明治時代だからサラリーマンでもお手伝いさんがいるのは普通のこと。
    その郊外の家(今の新宿大久保あたりというから時代変遷!)での生活は質素であったが、和気あいあいの家族だ。

    そこへ、隣の物置小屋のようなボロ家に若夫婦が住みはじめた。井戸がなくて困っていたので、使わしてあげるという親切。それも鷹揚な一家のあるじのはからいがあったからだ。

    隣とは生垣で仕切られていたが、隣の若夫婦が水くみの便利のため少し開けて木戸を作らしてくれとなり、それが木で作ったのではない、竹で間に合わせた粗末な「竹の木戸」。家族の女どもには大ヒンシュクだが、あるじはあいかわらずの鷹揚。

    いつの時代も光熱費には苦労する。当時は炭が主な燃料。一家が倹約して使うのは当然だが、隣の若夫婦はなお困っていた。買えないのだ。

    そして、その竹の木戸を通って水くみする通路に一家の炭俵が置いてあった。減り方が変だと気付いたお手伝いさん。はてさて大騒ぎとなり...。

    結局のところ若夫婦の妻が自殺するという不幸な結末なのだが、この普通の家庭の一家のあるじの行動が、博愛主義なのか、無関心なのか...。

    人間は、見て見ぬふりをしても、それが罪を犯すかもしれず、物事を追い詰めて結論を出そうとしても、罪に追いやるかもしれず、淡々とした平明な市民生活の描写(しかも明治の時代性濃い)のうちに、深く深く表された作品だった。

    たしかに現代では文学上普遍のテーマだろう、明治の小説黎明期にこのような作品を残した国木田独歩はすごい!

  • 何処かに必ず独歩が出てくるので、臨場感があり、また自然に対しても人に対しても、愛情も愛嬌も満ち溢れている著者に大変癒されました。
    中には寂しい話もあり、読み終わりに近づくにつれて、だんだんこの本とのお別れが惜しくなるので、買うことをお勧めしたいです。
    また、色々な知識がたくさん詰まっていて、大変勉強にもなりました。
    読んでいて温かい気持ちになり、また学べる文豪だと思います。
    文豪慣れしてない方にも、この本はお勧め。
    どうしても堅苦しくなりがちな文豪ですが、本人が出てくることによりエッセイ的な感覚で手に取りやすいかとも思います。
    国木田独歩は二冊しか出ていないのが、残念で、また寂しくもあります。

  • 独歩の作品は、時代もあるだろうが、死が身近にあるのだなあ、と思った。以前読んだ時にあまり感じなかった『牛肉と馬鈴薯』は後半とても良い。『岡本の手帳』とあわせて一つのお話になる。『酒中日記』『竹の木戸』は、生活に追われる余り、生き延びることを忘れる現代と何が違うのかと思って切なかった。『渚』は、『独歩病床録』(未収録)を読んでいると未完で、もっと沢山書きたかった話の欠片なのだと知れて勿体無く思った。

  • 現代あまり広く読まれない作家だけど、読めば読むほど面白い。
    「春の鳥」好きだ。

  • 「牛肉と馬鈴薯」は,もう何百回も読んだであろう中学生の頃から好きな短編小説

  • 面白かったー
    独歩可愛いな

  • 自然なるもの、この世において唯一無二のもの、
    ごく当たり前で童の思考のようだが、
    「習慣(カストム)」によって意識することさえなくなる、
    非常に重要なことに気づかされた。
    どことなく、運命論や西洋的な思考が漂っている。

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